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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第五章 花火大会の夜に
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第九十四話 八月九日(木)夜 2

 花火が終わっても、僕たちは手をはなさなかった。

 耳の感覚がもどり、感想を言いあっているあいだも、ずっと互いの手を握りあったままだったのだ。

 夜とはいえ、夏である。けっして気温は低くない。掌は、軽く汗ばんでさえいる。それでも、手がはなせなかった。ほんの一瞬たりとも、はなれたくなかったからだった。

 駅で切符を買うときだけ、財布を出すために手をはずした。そうして、用が済んだら、ふたたび、あたりまえのように手を握りあうのである。

 電車が来ても、席に座っても、ずっとそのままだった。

 堤さんは、電車のなかではあまりしゃべらなかった。目をとじて、こちらにもたれかかっているだけである。眠っているわけではないだろうことは、絡まった指先にかかる微妙な力でわかった。

 僕はといえば、だまって堤さんの顔をながめていた。

 ととのっていて、形のいい眉。切れ長の目。ちいさなかわいらしい鼻。赤くみずみずしいくちびる。なにもかもが、見惚れるほどうつくしい。

 いま、堤さんが目をあけたら、僕がじっと顔に見入っていたことを知られてしまう。もしかしたら不愉快に思われ、咎められてしまうかもしれない。

 そう思っても、視線をそらすことはできなかった。自分の目のなかに、彼女の姿を焼きつけてしまいたかった。

 かすかに、堤さんのくちびるが動いた。

「こーへい、しゃん」

 ささやくような声だった。

「なに?」

「名前で呼んでも、いい?」

 彼女の目が開いた。じっとうかがうように、こちらの顔を見つめている。

「うん。……僕もこれから、こころって呼んでいいかな」

「……はい」

 ふたたび、堤さんが――こころが、目をとじた。

 自分の気持ちを落ち着かせるため、僕はいちど、彼女に気どられないように深呼吸をした。そうして、ようやく視線をほかの場所にうつすと、こんどは席のむかい側にある電車の大窓が目にはいってきた。

 夜の闇を背景に、窓は墨を塗ったように黒く、外の様子はわからない。ただ、車内の灯りを反射して、鏡のようにひと組の男女の姿を映し出している。

 寄り添って、固く手を握りあうそのふたりの姿は、まるで仲睦まじい恋人同士のようだった。



<第五章・了>

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