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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第五章 花火大会の夜に
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第八十話 八月三日(金)昼休み 3

 昼休みの大半がすぎたころ、そういえばという感じで、堤さんが話題をふってきた。来週の木曜日に、二ノ宮市で開催される花火大会についてだった。

 二ノ宮市とは、堤さんが以前すんでいた街で、ここから東に八十キロばかり離れた場所に位置する小都市である。

 聞けば、彼女は毎年、気のあう友人たちとともに、市が主催する夏祭り、とくに花火大会の見物に出かけていたらしい。なんでも、地元でも限られた人間しか知らない絶好の穴場があるのだという。

「安倍さんと、いっしょに見にいこうかと思うんだけど、廣井さんと宇佐美さんもどうかなと」

 意外な申し出に、ちょっと驚いてしまった。どうやら、堤さんは女の子同士の集まりに、僕を混ぜてくれるつもりのようだ。

「予定はないから、だいじょうぶだけど……。でも、いいの? 僕がついていって」

「わたしならかまわないわ。それより、廣井くんにはうさっちへの伝言をお願いしたいの。連絡係っていう感じで。だめ?」

 フォローするように、委員長がいった。堤さんはといえば、そのよこで、しきりとうなずいている。なぜか、ぐっと拳をにぎりこんでいて、みょうに気合のはいった表情だった。

 はて? 委員長の言葉に、僕はかすかな違和感をおぼえた。

 たしかに、幸は今回の補習授業には参加しておらず、また、現在、学校にいるわけでもないので、あとで連絡をする必要があるのはわかる。だが、このふたりだったら、ふつうに自分たちで電話なり、メールなりすればいいのではないだろうか。なぜ、僕に伝言しろなどというのだろう。

 とはいえ、それは、ほんのすこし気になったていどのことで、わざわざ理由を聞き返そうと思うほどの疑問ではなかった。前段の、お誘いの部分のほうが、僕にとってはよほど重要である。幸に連絡するぐらいで、女の子たちと夏祭りを楽しめるのなら、これはもう安すぎる労力だといっていい。

「ああ、いいよ。喜んで」

 すると、堤さんは、どこかほっとしたような笑みをうかべ、こんどは、花火大会についての具体的な説明をはじめた。

 時間は、夜の七時から十時ごろまで。すこし終わるのがおそいが、列車や長距離バスが増発されるので、帰りの交通機関には問題がないこと。

 穴場とやらは砂浜らしく、打ち上げ場所にわりと近いそうで、臨場感が段違いということだった。

「あの、あのね、ほんとうに、頭のうえでどーんという感じで、すごいんですよ。体の芯まで衝撃が響いてくるっていうか」

 擬音語をふんだんに使って、堤さんが、一生懸命に花火の迫力を伝えようとしている。その姿に、僕はなんともいえない和やかな気持ちになってしまった。ちいさな子供が、今日あった楽しいできごとを、家族に話しているような雰囲気があるのだ。

 堤さんには、外見のおとなっぽさとは裏腹に、どこか幼さを感じてしまうところがある。それも、悪い意味ではなく、すなおにかわいらしいと思える点で、彼女の魅力だといえた。

 結局、堤さんの説明は、昼休みの終了をつげるチャイムが鳴るまでつづいた。話がおわったあとは、クラスのそこかしこでそうしているように、三人で、寄せられていた机をもとの状態にもどす作業をし、それが済むと、僕は自分の席にもどって、筆記用具などの準備をはじめた。

 つぎは、英語の授業である。教師――わがクラスの担任でもある嵐山――を待つまでのあいだに、僕はふと、自分が堤さんと花火を見にいくことを楽しみに思っていることに気づいた。

 委員長がいる。なにより、幸も誘う。だが、僕が楽しみにしているのは、堤さんといっしょにいくことなのだ。

 そのことに、僕はとまどいを感じた。これまでであれば、幸がいっしょにいることを、一番に喜んだはずだったからだ。

 そして、とまどいながらも、自分のなかに、それをあっさり受けいれてしまっている部分があるとわかるのも、ふしぎだった。

 ――と、そこまで考えたところで、教室の引き戸がひらかれた。嵐山が到着したのである。僕は気持ちを切り替えると、シャープ・ペンシルを手にとった。

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