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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第四章 噂話と誤解と疑惑
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第七十話 七月八日(日)夜

 ごろりと、ベッドに横たわった。

 自室である。ぼんやりと天井をながめながら、僕はなんとなく堤さんのことを考えていた。

 やわらかかった。そして、いい匂いがした。

 ちがう。僕はアホか。そうじゃない。

 ええと、堤さんと、連絡先を交換した。そして、あす以降の食料品の買出しにつきあうことになった。そこまで本気というわけでもなかったのに、こちらの申し出を、彼女があっさり受けてしまったのである。

 いや、しまったなどというのは失礼か。受けてくれたのである。

 とにかくだ。今日いっしょに買い物をしたのは、いわば緊急避難措置である。おかげで、堤さんとはかなり打ち解けられた気もするし、つぎもとなると、まるでデートの約束みたいな……じゃない。だから、違うというのに。なにを舞いあがっているのだ。落ちつけ。冷静になれ。

 だいたい、僕と堤さんは、恋人同士でもなんでもない。ただのクラスメイトなのだ。したがって、ふたりで買い物をするようになったとしても、そんなのはデートとはいわないのである。

 うーん、だけど、個人的に連絡先を交換しあったのだし、ただのクラスメイトといってしまうのもどうなのかな。友だちぐらいはいってもいいのではあるまいか。

 そういえば、委員長をはっきりと友だちとして認識するようになったのは、いつのころだったろう。やはり、連絡先を交換しあったあたりからだった気がする。

 ――などと、とりとめのない思考がうかんでは消えてくような状態だった。といっても、じつは物思いだけに集中しているわけでもなかった。むしろ、寝返りをうったり、頭を掻きむしったり、慌しいことこのうえなかった。

 さきほどから、心臓の鼓動が、みょうにやかましいのである。ほんとうに、なんなのだろう、このおかしな気分は。

 どうにも、じっとしていられないので、僕はベッドから起きあがると、床におりて腕立て伏せ、腹筋運動をした。それでも、おかしな気分は消えなかった。

 ふいに、机のうえの携帯がなった。メールの着信である。おや、いったいだれだろう。ゴーか、それとも幸かな。ディスプレイを確認して、僕は声をあげそうになった。

 文面は『これから電話してもいいですか』というものだった。数回の深呼吸ののち、息が整ってから、僕は承諾の旨を返信した。

 ほとんど折り返しという感じで、堤さんから電話がかかってきた。

「あ、あの……。こころです」

「やあ、どうしたの? なにかあったの?」

 堤さんの口調は、どこかおどおどしたような感じだった。なにか、問題でも起こったのだろうか。僕は心配になってしまった。

「なにというほどのことは……。ば、番号がまちがってないかと思って、確認しようかなと」

 番号の確認? 僕はきょとんとした。

 はて? 確認なら交換したときにすでにしているというか、そもそも赤外線で登録したのに、番号をまちがうなんてことがあるのか? 

 相手の発言の意図がつかめず、どう返事をすればいいのかわからなかった。僕がひとり首をかしげていると、受話器から、堤さんのあわてたような声がひびいてきた。

「そ、それから、あの、あの……。お買い物なんですけど、あしたはとりあえずいいです。よ、よかったら、火曜日にでも」

 ああ、なるほどと思った。すぐに流したところを見ると、たぶん、こちらが本題なのだろう。堤さんは男と電話するのに慣れてなさそうだし、あるいは緊張して変なことを口走ってしまったとか、そんなところなのかもしれない。僕もよくやっちゃうからな、そういうの。

 ふふっ、かわいいひとだなあ。

 さて、考えてみれば、堤さんは食事も全部ひとりなわけか。なら、彼女の体型からして、そんなに量を食べるはずもないし、そこまで頻繁に買出しをしているのでもないのだろう。

「わかった、火曜日ね。いっしょに帰って、その途中で商店街に寄るみたいな感じでいい?」

「はい……」

 ちいさく、堤さんが息を吐いた気配があった。それからは、いまなにをしていたかということにはじまり、軽い雑談がつづいた。

 三十分ほど無駄話をして、挨拶のあと、電話を切った。

 おかしな落ちつかなさは、綺麗に消えていた。

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