第六十二話 七月八日(日)親睦会 2
ジョルノにつくと、すぐにウェイトレスがあらわれて、僕たちをテーブルまで案内してくれた。
四人用のテーブルである。ゴーと蛍子さん、僕と徹子ちゃんという形で、ならんで向かいあうことになった。
「タケシ、なに食べる?」
蛍子さんが、となりに座っているゴーにメニューを見せ、料理を選ばせはじめた。
あまりにも自然で、これまでに、なんどもそういうことをしてきているのだろうと思わせる態度だった。
気になって、僕は徹子ちゃんの様子をうかがってみた。彼女はこわばったような表情をうかべていた。
残酷な図だと思った。
ゴーが、どこまで蛍子さんに説明しているのかは聞いていないが、さすがに『妹が兄である自分にたいし、女として恋こがれている』というところまでは話していないはずだ。そもそも、おいそれと他人、ましてまだつきあって数ヶ月の恋人に言ってしまえることではないし、そうと相手がしっていたら、このような会合をもうけること自体もむずかしかっただろう。
つまり、蛍子さんは、徹子ちゃんのほんとうの気持ちを知らないのである。だからこそ、こうも堂々と、ゴーの恋人としてふるまっているのである。
そして、徹子ちゃんはこの状況に耐えなければならないのだ。こんご、自分の気持ちに折りあいをつけるのであれば、これは絶対に避けて通ることのできない道だった。
「さ……さあ、わたしたちもはやく料理を選びましょう、公平さん!」
いきなり、徹子ちゃんが僕にメニューを差しだしてきた。
「せっかくだから、いっぱい注文して、とりかえっこしましょう。そのほうが、楽しいです」
どうやら、徹子ちゃんは笑みをうかべているつもりのようだった。だが、どう見ても、顔がひきつっていた。
「うん、じゃあ、今日は食べるか。徹子ちゃんは、なにをたのむ?」
僕はといえば、正直なところ、いまだに昨日の幸との会話を引きずっていて、落ちこんだ気分だった。とはいえ、その苦しみをこの場で表現する必要はない。徹子ちゃんのためにも、テンションをあげていったほうがいいだろう。
「公平さん、お小遣いはだいじょうぶですか? ちょっと豪勢に、イタリアンランチセットを注文しましょう。デザートに、ジェラートもおいしそうです」
「よし、ならば僕も、ここは一発、ヒマラヤ岩塩ステーキをたのんでみるとしようか。それとも、こっちのほうがいいかな。フォアグラと牛フィレ肉のステーキトリュフソース」
――などといって、ことさらに騒がしく料理を選んでいると、蛍子さんが声をかけてきた。
「仲がいい。君たち、つきあってるの?」
うわあ、なんてことを。とたんに気まずくなってしまった。蛍子さん、事情をしらないとはいえ、ちょっとは空気を読んでください。
「それはない。コウにはほかに好きな女がいるからな。ま、そうはいっても、こいつはけっこう気が多いやつだが」
こんどは、ゴーがおかしなことを言いはじめた。
「は? なんだそりゃ。僕の気が多いって、どういう意味さ?」
「幸ちゃんと委員長、どっちとつきあうかというので、クラスの連中が賭けをしてるぜ。さらに、最近は第三の女説が浮上しつつあるし」
その言葉に、徹子ちゃんがおおきく目を見開いた。いや、まて。僕はだれともつきあっていない。幸にはふられているし、委員長とだって、そんな関係ではない。
というか、第三の女ってなんだ? もしかして、昨日、幸がいっていたのはそれか?
「なんだか、おもしろそう」
意外な展開にあたふたしていると、蛍子さんまでもが興味ぶかげに話に加わってきた。だから、ちがうってば。
「ど、どういうことですか? わたし、公平さんはてっきり幸さん一筋だとばかり」
咎めるような声だった。徹子ちゃんが太い眉を吊りあげて、僕をキッとにらみつけている。
「こっちが聞きたいよ……」
席に座ったまま、僕はがっくりとうなだれてしまった。




