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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第三章 アルバムのなかの君
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第四十七話 六月十一日(月)昼休み こころのアルバム 2

 つづいての三、四ページは、ちいさな堤さんが人形とままごと遊びをしたり、いっしょに昼寝をしたりというような写真ばかりだった。

 雰囲気がかわったのは、突然だった。

「あっ」

「うひゃあ……」

 ページをめくった瞬間、委員長と幸がほとんど同時に声をあげた。いっぽう、僕はといえば、ぽかんと口をあけたまま固まってしまっていた。

 うつくしい。

 写真の堤さんは、ただの服というよりは衣装といった感じの華麗なドレスを身につけていた。シーツがかけられた椅子に座り、膝のうえには、おばあちゃんが最後に作ってくれたあの人形をのせていた。

 たぶん、なにかの記念に撮られた写真なのだろうが、ひとつの芸術作品として完成しているといっても過言ではない仕上がりのものだった。アルバムよりも、むしろ額にいれて飾るべきと思えるような一枚だった。

 ……おや? 

 だけど、緊張しているのかな。ちいさな彼女は、能面のような無表情をしていた。あたたかなほほえみをうかべている人形とは対照的に、完全なすまし顔である。

 冷たくととのった顔と、きらびやかなドレスのせいで、むしろ堤さん本人のほうが人形に見えたほどだった。

「これは、小学校に入学したときの写真です。えっと……。たしか、入学式に着ていくためのお洋服ができて、さきに記念撮影をすませようという話に」

 なるほど、入学記念の写真か。そういうことなら、ドレスを着ているのも納得だ。ランドセルなどは見あたらないものの、背景の一角には、桜の枝の模造品とおぼしきものがあしらわれていた。

 しかし、写真そのもののうつくしさもそうだが、この表情はなかなか衝撃的である。およそ、現在の堤さんとは正反対の無機質さなのだ。

 すくなくとも、僕はこんな顔をしている彼女を見たことがなかった。子供なのに、怖いぐらいに綺麗だった。

「このお洋服は、ママがつくってくれたんですよ」

 こちらの感心したような反応に気をよくしたのか、堤さんはほこらしげな様子で補足説明をはじめた。

 それによると、彼女のお母さんは服をつくる仕事をしているのだそうだ。ということは、服飾デザイナーかなにかだろうか。

「なんだか、すごいな」

 思わず、僕はつぶやいていた。

「だって、堤さんのおばあちゃんが人形づくりの名人で、お母さんが服飾のプロなんでしょ? で、本人は料理の達人」

「ああ、そうそう。ほんと、ココって料理やお菓子つくんのうまいよね」

 幸が、賛同してくれた。堤さんは、達人という単語がおもしろかったようで、ふにゃりとした笑みをこぼした。もっとも、面とむかってほめられたのが恥ずかしかったらしく、すぐに赤くなってうつむいてしまった。

 入学記念写真のあとということで、つぎのページからは、小学校時代の写真になった。

 ところが、なぜかあまり枚数がなかった。小学校の六年ぶんの写真が、それまでの一年ぶんにも満たなかったのである。

「こころのパパとママ、いまもそうだけど、お仕事がいそがしかったから……」

 どうやら、小学校入学以前の写真は、ほとんどすべて彼女の祖母が撮っていたらしい。そのため、おばあちゃんが亡くなったあとは、堤さんの日常の姿を撮影する人間がいなくなってしまったようだ。

 もちろん、ご両親とも、イベントがあるときなどは、仕事の調整をしてくれたことがあったそうで、写真がまったくないわけではなかった。だが、それでもこの激減ぶりである。はっきりいって、やるせなさを感じてしまうほどだった。

 いくらかでも、写真の枚数が回復したのは、中学時代にはいってからである。その年に、カメラ付き携帯を買ってもらったそうで、仲のいい友だちと撮りっこができるようになったとのことだった。

「あら、ココちゃんって、むかしは背が低かったんだ」

 意外そうに、委員長がいった。たしかに、中学一年生のころの堤さんは、ならんでいっしょにうつっている数人の友だちと比較しても、あきらかに小柄だった。

「べつに、牛乳をいっぱいのんだとか、運動をたくさんしたとかじゃないんですよ? でも、三年のあいだに、どんどん伸びちゃって」

 正確な数値はしらないが、堤さんの身長は、だいたい170cm前後である。そこらの男子より、よほど背が高い。いちおう、僕よりはちいさいが、それも今年だけの話だった。

 僕の場合、高一の秋から冬にかけて、いきなり背が伸びたので、もしもそれ以前、たとえば去年の春ぐらいに彼女と出会っていたとしたら、顔をあげて話さねばならなかっただろう。

 堤さんは、高身長のわりに頭がちいさく、かわりに脚が長い。胸もおおきいほうだと思うが、そこだけ突出しているということはなく、全体のバランスが非常にいいのである。

 動物でたとえるなら、アフリカに生息しているインパラなどのレイヨウ類といえば、しっくりくるかもしれない。女性を褒めるときに、カモシカのような脚という慣用句をつかうが、まさにそんな感じである。

 たいして、中一のころの堤さんは、いまの彼女の手脚をそのまま短くしたような体型をしていた。なんとなく、僕はリスやハツカネズミなどの小動物を連想してしまった。

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