第四十五話 六月十一日(月)昼休み 耀子のアルバム 3
僕へのからかいが一段落ついたところで、委員長はようやくあたらしいページをひらいた。
つぎのページの写真は、すべて中学の修学旅行のものだった。それを見て、僕はあることに気づいた。何日めかはわからないが、日程の途中で、いきなり彼女の髪型がかわっていたのである。
「ねえ、委員長。ここから、きゅうに前髪をあげはじめたみたいだけど、なにかあったの?」
質問をうけて、委員長はつかのま小首をかしげていた。しかし、やがて思い出したというように軽くかしわ手をうった。
「あ、そうそう。これはまえの日に、旅館でお風呂にはいったとき、友だちから、髪をあげたほうがかわいいんじゃないかって言われたんです。で、試しにやってみたら、自分でも気に入って」
なるほど。それはグッジョブな友だちだと言いたい。いまの髪型は、委員長によく似あっているのだ。広いおでこが、いかにも知的な雰囲気をかもしだしているのである。
実際、彼女の成績はいい。たしかに、数学や物理は苦手としているが、たんに得意な科目と比較したらというだけのことで、平均点自体はクラスでも上位だった。
――と、そうこうしているうちにも、中学時代の写真がおわりに近づいてきた。じきに、高校入学ごのものがでてきそうである。委員長は、三ノ杜学園設立時からかよっている僕や幸とはちがい、去年からの学生なのだ。
「さあて、つぎは、……あっ」
にこにこと、楽しそうにページをめくろうとしていた委員長が、突然なにかに気づいたかのように声をあげた。そして、なぜか勢いよくアルバムをとじてしまった。
「どうしたの? 委員長」
「い、いえ、あの、ちょっと見せたくない写真が。うっかり抜いてくるのを忘れてたみたい」
見せたくない写真? なんだそりゃ、変顔とかか? いや、しかし、プリクラでもあるまいし、そんなのをアルバムにおさめたりするものだろうか?
「なになに、見せて、耀子ちゃん見せて」
「見たい、見たいです、安倍さん」
幸と堤さんが、ふたりして駄々をこねはじめた。たいする委員長は、どういうわけか、顔が真っ赤になっていた。しかも、なにやら僕のほうに、気にするような視線をおくってきたりしている。
もしかして、男がいると見せにくい種類の写真なのだろうか。ど、どんなものがうつっているのだろう。すごく気になるぞ。
だが、委員長は幸たちの『見たいコール』を頑としてはねのけつづけ、ついにはひとりだけアルバムを鞄のなかにしまいこんでしまった。どうやら、冗談抜きに嫌がっている気配が伝わっててきたので、結局、その話はそこまでということになった。