第三十八話 五月七日(月)夜 1
つかのま、僕は余韻にひたるような気分をあじわっていた。
あすかは、帰ってしまったのである。しかし、僕の手のなかには、まだ彼女の感触がのこっている気がしていた。
ちいさくて、やわらかな指先。あたたかくて、守ってあげたくなるような掌。
「公平?」
「え? ああ……」
よこから、声をかけられた。それで、ようやく僕はわれにかえった。
幸が、じっとこちらの顔を見つめている。
「まあ……。アタシも、ほら、ときどき公平に抱きついたりすることはあるし、べつにいいっちゃいいんだけど」
おや? どうしたのだろう。幸が、みょうに歯切れの悪い言いかたで、僕になにか伝えようとしている。
いや、ちょっとまて。すでに、あすかはいないはずなのに、なぜ僕は、ちいさくてやわらかな手を握りしめているのだろう。それに、この体温。死者の冷えた体とは決定的にちがう。生きている人間の、やさしいぬくもりがあった。
うおっ、こ、これは、幸の手か?
「ご、ごめん。ついうっかり」
あわてて、手をはなした。
「こんぐらいは、ぜんぜん。でも、公平のほうからってめずらしいから、ちょっとびっくりした」
こちらから視線をはずしつつ、幸がいった。なぜか、微妙にうつむいている。
ええと、これは、照れているのだろうか? そして、あんまり嫌がっていない? もしかして、たまにはこうしてもいいのかな?
「……そろそろ、わたしの相談にのっていただきたいんですけど」
いきなり、徹子ちゃんが、むかいから声をかけてきた。ひどく堅い口調で、すこし不機嫌そうだった。