第三十六話 五月七日(月)黄昏 5
ジョルノには、数分ほどでついた。
道路に面した窓から、内部の様子が見てとれる。料理に定評のあるカフェというだけあって、店内には外食を楽しみにきたといった感じの家族づれが多かった。もちろん高校生、あるいは大学生ふうの客もいた。
店にはいると、すぐにウェイトレスがあらわれて、僕たちに接客してくれた。彼女が案内してくれたのは、ゆったりとしたふたり掛けの長椅子がむかいあうテーブルだった。
さて、いつものメンバーであれば、こういうとき、僕と幸、ゴーと徹子ちゃんというように、ならんで座るところである。
だが、今日はゴーがいない。さらに、もともと幸と徹子ちゃんがふたりで来るはずだったこともあり、おまけにあすかまでいる。
となれば、この場合、幸と徹子ちゃんがならんで座り、僕とあすかがそのむかいにすわるのが正しい。
そう思ったので、こちらからさきに席につくことにした。
「じゃあ、僕はこっちね」
つづいて、あすかが僕のとなりに、徹子ちゃんがむかいに、それぞれ腰をおろした。
そして、最後にのこった幸は、徹子ちゃんのとなりに腰かけるはずだった。
はずだったのだが……。
「えい」
かけ声とともに、いきなり、あすかが幸の手をひっぱった。すると、相手はそのまま吸いよせられるように、こちらの席にすわってしまった。
幸は、自分が不自然な行動をとったことに、気づいていないようだった。
はあ、なるほどねえ。公園をでるまえに、さわっていれば転ばせることは可能だとかいっていたが、こういうことだったのか。
しかし、まずいな。あすかの姿は、僕以外の人間には見えていないのである。これでは、幸があたりまえのような顔でこちらの席についたというふうに、徹子ちゃんから思われてしまったはずだ。
案の定、徹子ちゃんは、すこし微妙な表情をうかべていた。
席順など、ふだんはほとんど意識したことがないが、男ひとり女ふたりという組みあわせで、男女がならび、のこった女の子がひとりで向かい側というのは、どうなのだろう。彼女に疎外感をあたえなければいいのだけど。
「おふたり、いつも仲がおよろしいんですね。うらやましい……」
徹子ちゃんがいった。声に、苦笑めいた響きが感じられた。それにたいして、幸は相手がなにをいっているのかわからないというふうに、小首をかしげるだけだった。自分の意思でこちらに腰かけたわけではないのだから、当然のことだった。
……ううむ。
それにしても、せまっくるしいな。
椅子はおおきめだが、しょせんはふたり用の席である。僕・あすか・幸とならんですわると、さすがに窮屈といわざるをえない。
いちおう、ほかのテーブルには、席のまんなかに子供をすわらせて三人掛けにする夫婦の客もいる。とはいえ、ああいうのは子供がちいさいからこそできることだ。
小柄な幸を中心に据えるのなら、多少はバランスがよくなる気もするが、それもむりな話だ。そのためには、いまあすかとそうしているように、体を密着させなければならない。
「ほら、公平。もっとこっちくるの。幸さんと離れすぎてて、不自然でしょ!」
うわっ、考えごとをしているときに、いきなり腕をひっぱるなよ。
まあ、とにかくだ。そもそも、距離が不自然なのは、ふたり用の席に、むりやり三人ですわっているからだろう。アピールとやらのために、僕と幸をならばせたかったのだろうが、まんなかにあすかがいたら、まったく意味がなくなってしまう。徹子ちゃんのとなりがあいているのだから、そちらに移動すればいいのに。
あすかは、意地でもこの三人掛け状態をキープしたいようだった。あるいは、このことには、なにか儀式とかそういう特別な意味あいでもあるのだろうか?
幽霊の考えることは、よくわからない。正直なところ、それが本音だった。