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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第九章前編 broken heart 少女の闇
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第百六十九話 九月十日(月)早朝 3

「タケくん」

 徹子ちゃんが、ひどく狼狽した様子で声をあげた。

「そんなこと! 公平さんたちのせいじゃありません、あの女の性格が捻じ曲がっているのが」

「ごめん、ちょっと静かにして、徹子ちゃん。……ゴー、どういうこと?」

 申し訳ないが、徹子ちゃんの発言はさえぎらせてもらった。幸は、話の成り行きをだまって見守るつもりのようだ。

「去年の夏休みのことなんだけどな。おれとあいつがデートしていてさ、商店街で、おまえと幸ちゃんの姿を見かけたんだよ」

 ゴーの説明によると、それは夏にしてはすごしやすい日の夕方のできごとで、僕と幸は手をつないで歩いていたのだという。

「コウが、幸ちゃんの日傘を手にもっていて、なんか、相合傘みたいに見えたのさ。んで、あいつと『雰囲気いいね』みたいなことを言いあってたわけだ」

「そう……」

 そのときのことを、僕はなんとか思い出してみようとした。しかし、残念ながらむりだった。

 幸といっしょに出歩くなど、そのころの僕にとっては日常のことといってよかったほどだし、相手が疲れているようなら、代わりに日傘を持ってあげるのも、ごく当然のことだったからだ。あたりまえすぎて、いつの話なのか特定できないのである。

「キスをしたって? 僕と幸が?」

「ああ。つっても、べつにあとをつけたりしてたわけじゃないぞ。声をかけようか、黙って立ち去ろうか考えてるあいだに、たまたまそうなったってだけだ。あいつ、すげー驚いてたよ」

 いったいだれに聞いたのかと思っていたが、どうやら大羽美鳩は、僕と幸がキスをしている現場に居合わせていたことがあったらしい。そして、この情報のおかげで、ようやく話の全容が見えてきた気がした。

「まって、ゴー。夏休み中のできごとだって言ったよね。ということは時期的に……。そうか、委員長がらみで誤解されちゃってたのか……」

 しらず、僕は顔をしかめていた。はっきりいって、舌打ちをしたい気分だった。

 当時の一年三組において、僕と委員長が、ある種の噂の的になっていたのは、言い訳のしようのない事実である。本人同士が感じる微妙な距離感などは、他人にはわからないものだし、この年頃の人間なら、こと男女がらみであればなおさら、煙がなくても火が出ていると言い募ってくることがある。

 だが、真偽はさておき、そういう噂の渦中にある男が、ぜんぜんちがう女と、いくら自覚がなくても、まるで恋人同士に見えるような行為をしていたとしたら、ひとからどう思われるか。

 大羽美鳩は、カップルコンテストにおいて、徹頭徹尾、僕を『女たらしの浮気もの』としてあつかい、こちらがそれを認めないのを『ウソツキ』といって糾弾していたのだ。

 瓜田に履をいれず、李下に冠をたださずというが、つまりそういうことだったのだろう。やっとわかった。大羽美鳩は、僕たちがキスしているのを見てしまったばかりに、本気でこちらをウソツキの浮気ものと信じて、義憤から敵意を向けてきていたのである。

「いや、誤解はしていないな」

「……は?」

 しかし、ようやく自分なりに正解を導きだしたと思いきや、ゴーがあっさりとそれを否定してきた。

「あいつは、あのころのコウが幸ちゃんとも、まして委員長とも付き合ってなかったって、ちゃんと把握しているはずだぞ。その場できちんと説明しておいたし」

「えっ、いや、だって」

 なら、大羽美鳩はなんであんなに僕を嫌っているんだ? ほかの理由なんて、それこそ成績のことぐらいしか思いつかないぞ。

「なあ、コウ。そして幸ちゃん」

 しごく、いいにくそうな口調だった。

「いまさらこんなん言うのもアレだけどさ。おまえら結局、なんでくっつかなかったんだ?」

「な、なんでっていわれても」

 僕が思わず返事につまったところで、ここまで沈黙を守っていた幸が、話に割って入ってきた。

「アタシと公平が付き合わなかったことが、この件と関係あんの?」

 見た感じ、幸はとりたてて感情を動かしているわけではなさそうだった。たんに、確認するつもりでの質問だったのだろう。

 昨夜のスピーチを待つまでもなく、僕がこの年上の幼なじみに告白して玉砕済みなのは、ここにいるメンバーは全員、とっくにしっていることである。もちろん幸も、そのあたりについてはきちんと理解しているはずだ。

 とはいえ、表立っていうようなことでもないから、ここまでは微妙に避けて話をしてきたのだが、さすがにもう、そういうわけにもいかなくなってきたようだった。

「だからさ、いったろ? おれとあいつが別れた原因が、コウと幸ちゃんだって。直接の理由がそこんとこなんだよ」

 なぜかはわからないが、ゴーは苛立っているようだった。相手の表情の剣呑さに、僕は眉をひそめた。

 いうまでもないことだが、こちらは、大羽美鳩から公衆の面前での吊るし上げや、プライバシーの暴露――これは自分でもやってしまったが――等、不愉快なことをされた被害者側である。いくら僕と幸が、かつて誤解をされかねないような行為をしていたといっても、それであのような仕打ちを受けなければならない道理はない。

 この流れで、ゴーたちが別れた原因と僕と幸の関係がどう結びついてくるのか、いまいち腑に落ちないものの、もしこいつが、実態もないのに他人から恋人同士に見えるようなことをしていたのが悪いなどと言ってくるようなら、きちんと反論しておく必要があるだろう。

 ところが、あとに続いたゴーの発言は、こちらの思いも寄らないものだった。

「そもそもさ、カレカノでもないただの幼なじみなのに、恋人みたいにいっしょに遊んでキスもするなんざ、ずいぶんと『いびつ』な関係だと思わないか?」

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