第百六十三話 カップル六組め 1
「はぁい、ラスト六組めはわれら生徒会のメンバーにして、学園公認のあのひとたちでぇす!」
大羽美鳩が、会場の一角を指さして、高らかに声をあげた。それを合図に、客席のわきに設置されていた審査員席から、ひと組の男女が立ちあがった。生徒会副会長の田野くんと、おなじく会計の谷崎さんである。
ふたりは手をとりあい、観客のまえを堂々とわたると、そのままステージにのぼってきた。
いよいよ、カップルコンテストのトリである。しかし、真打ち登場というのには、このふたりには少々異質なところがあった。
もちろん、本人たちについては、なんらかの問題があるわけではなかった。両者とも、容姿端麗かつ成績優秀、品行方正にして清廉潔白であり、まさに学園の代表、公認というのにふさわしいカップルである。以前など、新聞部が特集を組んだこともあったほどで、人気・知名度ともに高い。
異質なのは、おもにコンテストにおけるふたりの立場のことである。彼らはすでに『最下位』が確定しており、観客にもその旨が告知されているのだ。
これは、ふたりが生徒会メンバーであることが理由である。主催者側の人間が、まちがってグランプリをとってしまうと――もともとの知名度の高さから、その懸念が早くから指摘されていたらしい――イベントが盛り上がらなくなってしまうことおびただしいので、それを防ぐためというのがひとつ。また、形だけでも、参加してくれた一般カップルが最下位にならないようにという意味もあるようだった。
つまり、このふたりは、実質的にはイベントに華を添えるゲストであり、積極的な参加者ではないということだ。ただし、いちおうの参考として、観客の投票だけは受けつけることになっており、まったく関係がないわけでもないところがややこしい点だった。
「ええ、おふたりについては、会場のみんな知ってると思うし、インタビューなんかをするのもいまさらって感じがしますけど」
そんなことを言いながら、大羽美鳩がフリップをまえに出してきた。
このフリップは、彼女が自分の足で歩いて取ってきたものである。さきほどまでのように、僕やこころに命じて持ってこさせたものではない。
僕たちは、カップルとしての出番が終わったため、ふたたび観客のまえに出るのは蛇足との判断がくだされていた。ようするに、執事とメイドはお払い箱になってしまったわけだ。
過ぎてしまえば、微妙にさびしさを感じないこともないが、いちいちエラそうに呼びつけられたりせず、ステージのそでからのんびりと見物できるのは、ありがたいことだった。
「こうして客観的に見てみると、あいつはやっぱり司会がうまいな。そう思わないか? 廣井」
いきなり、うしろから声をかけられた。
振り返ると、僕たちのいる位置からさらに奥、ステージ裏へとつづく暗がりに、鏡寺さんがたたずんでいた。
腕に、ある品物をかかえているのが見える。
「やあ、あなたでしたか。まったくですよ。あれで、私情さえはさんでこなければ、こっちだって楽しくやれたんですけどねえ」
認めたくはないが、大羽美鳩の司会がうまいのは、事実としかいいようがない。苦笑しつつも、僕は同意をすることにした。こころはといえば、とくに反応はしめさなかった。ぼんやりと、眠そうな顔をしているだけである。
「わたしも、それについては申し訳なく感じているよ。まさか、ハトがあんなことをするなんて思っていなかったんだ」
鏡寺さんが眉尻をさげ、鼻の頭を掻いている。べつに、彼女が悪いわけではない。とりあえず、お気になさらずとだけ言っておいた。
「……ところで、こんどはまた、なんでそんな場所から? 司会はどうされたんですか、鏡寺さん?」