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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第八章後編 後夜祭 波乱のカップルコンテスト
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第百五十一話 カップル一組め 1

 集まってきた観客の数は、膨大なものだった。演壇のカーテンのかげからでも、ざっと見てわかるほどだった。

 高等部限定のイベントで、当該の学生全員があつまっているわけではない。とはいえ、かわりに外来の客がいる。数百から千を超える人数の目が、壇上を注視しているのである。

 しかし、その状況を気にしたふうでもなく、モリハトコンビはあたりまえのように司会を進行していた。

 華やかな容姿で、こういった場にも慣れていそうな鏡寺さんはいいとして、地味な印象の大羽さんが、ノリのいい掛けあいを演じているのは、少々意外だった。さすがに生徒会メンバー、ただの学級委員とは一味ちがうようである。

 演壇では、一組めのカップルが、なれそめなどのインタビューを受けているところだった。筋肉質と痩せ型の、それぞれ中背の男女の組みあわせで、どちらも一年生である。

 男のほうは大神くんという名前で、かなりの長髪をピン状の髪留めでまとめていた。女のほうは赤津さんといって、肩までのびた髪に、縁なしのかわいらしい帽子をのせていた。

 インタビューによると、このふたりは、おなじクラスの学生であるとのことだった。大神くんのほうが牛乳配達のアルバイトをしており、配達先のひとと仲良くなったと思ったら、それが赤津さんの叔母さんの家だったのだそうだ。

 なんでも、ふたりはもともと、クラスメイトとしては顔を見知っているていどの間柄でしかなかったという。ところが、大神くんがくだんの叔母さんの家で、甘いお菓子などをご馳走になっていたときに、偶然、赤津さんが遊びに来たことがあり、それが彼らの交際のきっかけになったようだ。なかなか、ドラマチックな出会いである。

 なお、手元のフリップの情報によると、赤津さんは当初、クラスでは高飛車なイメージで通っていたらしく、大神くんと交際するにしたがって、性格がおだやかになっていったとのことである。『彼にメロメロになった』とか『もう完全にぞっこん』というような、クラスメイトの声がしるされていた。

「もうじき出番だね、こーへいしゃん」

 ふいに、こころがいった。ささやくような声だった。

「ああ、そうだね。……緊張、してる?」

「ううん、だいじょうぶだよ。こころ、開きなおっちゃったかも。こういうの、ヤじゃないし」

 思いのほか、余裕がありそうである。

 考えてみれば、こころは春の始業式のときにも、いまとおなじぐらいの人数のまえで、ゴスロリ服姿を披露したことがあるのだ。もしかしたら、人前にたつこと自体は、わりと得意なのかもしれない。

 かくいう僕は、さきほどから、心臓の鼓動がうるさいぐらいだった。

 ともあれ、そろそろ『友人の声』コーナーである。司会のふたりにフリップを届けるための、心の準備をしなければならない。

 なにしろ、執事とメイドなのだ。出た瞬間に、客席からそれなりの反応があるはずである。足をもつれさせて転んだりしないように気をつけないと。

 すう、はあ、すう、はあ。深呼吸よし。覚悟は決めた。さあ、どんとこい。

 ――と、そんなことを考えて、自分を奮い立たせていたときだった。

 壇上の大羽さんが、頭だけうごかして、こちらのほうに顔を向けてきた。そうして、なぜか、ぱんぱんと、手を二回たたいた。

 はて?

 いったい、彼女はなにをしているのだろう。

 こころも、ふしぎそうに小首をかしげている。

 あれは、どう見てもこちらに来いという合図だよな。なんだか、下僕とか小間使い相手にするような、えらく尊大なやり方だけど。

 いや、だけど打ちあわせでは、ふつうに『フリップを持ってきてください』と声をかけることになっていたはずだぞ。

 鏡寺さんが、怪訝そうな表情をうかべていた。ということは、彼女の仕込みではないのかな。

 もういちど、大羽さんが、ぱんぱんと手をたたいた。ニヤニヤと、意地悪そうな笑みをうかべている。

 数秒ご、ようやく相手の意図に気がついたとき、僕は一瞬、頭に血がのぼりかけた。

 彼女が、僕たちをこのポジションに置くよう鏡寺さんに進言したのは、これが目的だったのか。

「あの、こーへいしゃん? 出ていいんだよね?」

「さきに僕がいくよ。こころは、うしろからついてきてくれるかな」

 どうやら、鏡寺さんも、なにが起きているのか把握したらしい。苦笑のような表情をうかべ、観客から見えないよう気をつかった感じで、ちいさく手招きをしてきた。

 カップルのふたりは、よくわかっていないのか、どうしたのだろうというような顔をしていた。

 とにかく、ここは笑顔である。執事をやるために、練習したのが役にたった。僕は意識して表情をつくりつつ、カーテンから演壇に歩みでた。

 とたんに、客席から笑いともどよめきともつかない声があがった。しかし、僕の思考はすでに、ほかのことで埋めつくされていた。

 壇上の人間の立ち位置は、奥から鏡寺さん、カップルの男女、そして、一番手前に大羽さんという順である。フリップは、嫌でも近い場所にいる人間に渡さざるをえない。

 はっきりいって、素通りして鏡寺さんに渡してやりたい気分だった。もちろん、相手はこちらがそんなことはできないと見越しているのだろうが。

 ええい、むかつく。

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