第百三十二話 九月九日(日)朝 2
わがクラスの喫茶店への動員可能人数は、しめて二十五名である。営業時間を朝・昼・夕のみっつの単位(一単位二時間強)に分割し、常時十名以上、予想されるピークの時間帯には、二十名以上が入れるように調整してある。
衣装作りに携わったメンバーは一単位、そうでないメンバーは朝と昼、朝と夕、昼と夕といったぐあいに、二単位づつ割り当てられていた。
例外として、委員長は責任者なのでまる一日、すなわち三単位労働である。そして僕と、裁縫組で本来であれば一単位でよかったはずのこころも、三単位となっている。
これは、おなじ学級委員ということで、僕が委員長にあわせたところ、こころもいっしょに働きたいといってくれたからだった。
営業時間は朝の十時から夕方の五時まで。僕たち三単位組は、途中で一時間ていどの昼食休憩がもらえる。
実働六時間というわけだが、僕とこころについては、休憩中はつねに宣伝ボードやチラシを携帯し、おりを見て店の宣伝をしなければならない。例のサボリの罰として、そういうことになったわけだが、たいした苦行だとは思わなかった。
一日ずっと店で働くことになったのにともない、もともと想定されていたより時間が短縮されたためである。それに、宣伝ボードもチラシも、手さげ鞄に収納できるサイズなので、もつのが大変ということもなかった。
店外での宣伝活動は、僕とこころのほかに、二単位組がそれぞれ三十分交代でおこなう。また、直接には参加しないクラスメイトたちも、口コミをひろげてくれる約束になっていた。
なお、店内での作業分担にかんしては、当初は全員が接客・調理・レジを持ち回りする予定だったのが、話しあいのすえ、メンバーは固定ということに変わった。
理由は、交代に着替えの手間がかかるのと、ほかの部活などの兼ねあいで、男子の数が女子にくらべてだいぶ少なくなってしまったので、バランスよく順番を決めるのがむずかしくなってしまったからである。
いろいろと、細かいところについて、確認がつづいていく。衛生については、とくに念をおした。ほぼ盛りつけだけとはいえ、食品をあつかうのである。まんいちにも、中毒をだすわけにはいかない。
また、それとはべつに、体調が悪くなった人間が出てしまった際の外部連絡なども重要だった。なにしろ、今日は気温が高い。冷夏のあととは思えないほどの、いかにもな残暑である。
いちおう、空調は効かせているが、ひとが多くなれば熱がこもるかもしれない。まかりまちがって、熱中症におちいる客がいたらことである。
「……あとは、お客さんばかりじゃなくて、われわれ従業員も、ぐあいが悪くなったら、すぐに周囲のひとに伝えることを心がけるようお願いします。くれぐれも、無理をして倒れてしまったなどということがないように」
そうつけくわえてから、僕はちらりと幸に一瞥をおくった。
腕ぐみをして、幸は机のうえの書類を注視している。どうやら、僕の視線には気づいていないらしい。
こちらがなにかいうまでもなく、幸は文化祭を楽しむために、きちんと体調をととのえてきているはずだ。シフトも、裁縫組だったので、朝の一単位だけである。いわずもがなのことだったかと思った。
さらに、いくつかの確認をへて、いよいよ時間がなくなってきた。委員長が締めの演説をおこない、全員で気合の声をあげた。
いったんの解散ご、もういちど鏡で身だしなみのチェックをしていると、こころがもどってきた。なにかを話すわけでもなく、ただとなりでたたずんでいる。
そして、開店の時間になった。