表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第七章 運命の赤い糸
125/210

第百二十話 九月四日(火)早朝 ベンチでの語らい 5

「廣井くーん、ココちゃーん。いるー?」

 その声が聞えてきたのは、唇が触れあうまであと三センチ、否、二センチというところだった。

 委員長の声である。僕は思わず『はうっ』とまぬけな声をあげ、あわててこころから顔を離した。そうしてすぐさま上半身だけで伸びあがると、あたりをきょろきょろと見回した。

「ふにゃ……え? あ、あれ? こころ、どうしてたの? ね、寝ちゃってた?」

 気配で、こころが目を覚ましてしまった。まだすこし寝ぼけているのか、状況がよくつかめていないようである。

「あっ、いたいた。耀子ちゃん、こっちこっち」

 校庭の反対側に、幸の姿が見えた。オペラグラスをかまえ、こちらを指さしてなにか言っている。つづいて、委員長もあらわれた。どうやら、僕たちを探しに来たらしい。

 考えてみれば、あたりまえの話かと思った。

 玄関まで来ていた人間が姿を消しているのである。僕が彼女らの立場だったとしても、探すだろう。

 そんなていどのことすら思いつかなかったとは、やはり、朝から切羽つまっていたのかもしれない。しらず、僕は苦笑してしまった。

 そうこうしているあいだにも、幸と委員長はならんでつかつかと近寄ってきた。

「こ・う・へ・い~? アタシ、たしかにあとから来いと言ったけどさぁ。サボってもいいなんて、ひとっことも言ってねぇぞぉ?」

「みんな集まってるのに……。これはいったいどういうことなの、ココちゃん?」

 ふたりとも、怒っているというよりは呆れているというような表情だった。

「ごめん」

 とりあえず、頭をさげてみた。

「あ、あの、その、ご、ごめんなしゃいです。ちょ、ちょっとだけ話したら戻ろうと思ってたんだけど、こころ、いつのまにか寝ちゃってたみたいで」

「寝てた? ……ふうん」

 きらりと、委員長の眼鏡が光った気がした。

「ねえ、ココちゃん? もしかして、いままでずうっと廣井くんに抱きついて眠ってたのかしら?」

「え……ええっ? 安倍さん、なんでわかったの」

 いきなり見破られ、僕はこころと顔を見あわせてしまった。

「なんでって……。廣井くんのシャツに、よだれの染みができてるし」

「うぁ、ほんとだ。公平、ココ、あんたらガッコでなにしてくれてるん?」

 確認してみると、たしかにこちらの肩から胸のあたりの位置に、それらしい染みができていた。

「や、やだ……。ごめんね、こーへいしゃん」

 すぐに、こころはハンカチを取り出すと、僕のシャツの染み部分をこすりはじめた。

 ――たぶん、よだれではなくて涙が落ちたあとだろうとは思ったが、指摘はしなかった。こころが泣いていたというような話をする雰囲気でもないのだ。

「とにかく、くわしいことはまたあとで。いまは、教室にもどりましょう。廣井くん、みんながんばってるんだから、しっかりしてもらわないと困るわ」

 腕ぐみをしつつ、委員長がいった。

「面目ない、埋めあわせはするよ」

「申しわけないです……」

 ふたたび、僕はこころといっしょに頭をさげた。

「埋めあわせねえ……。なにしてもらう? 耀子ちゃん」

「そうねえ。せっかくだから、クラス全員で話しあうことにしましょうか。楽しみだわあ」

 幸と委員長が、くすくすと笑いあっている。その姿はかわいらしくも、どこかしらちいさな悪魔を連想させ、僕はどうか穏便にすみますようにと、神に祈ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ