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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第六章 動きだした未来
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第百一話 九月一日(土)放課後 1

 放課後である。

 開票の結果、バザーと読書ルームはそれぞれ八票、僕の『喫茶店』は四票だった。のこりの票、クラスメイトの約半分が用紙に書きこんだのは、なんと『メイド喫茶』である。

 いちおう、形だけは喫茶店に決定したわけだが、プレゼンがどうこうより黒田の質問が決め手になってしまったということになる。これには、僕も苦笑せざるをえなかった。

 委員長が、投票用紙を自分の机のうえにならべて、むずかしい顔をしている。

「メイド喫茶だと、準備がますますたいへんになるわねえ。服とか、どうするの? やっぱり手作り?」

「裁縫が得意なひとが、どのくらいいるかだと思う。むりなら買うしかないけど、予算の問題がでてくるから、できれば避けたいかな」

 既製品の購入となると、あるていどはクラスメイトから費用を徴収することも検討しなければならなかった。

「こーへいしゃん」

 おっと、委員長とあれこれ話しあっているあいだに、こころが僕の弁当を持ってきてくれたようだぞ。

「ありがとう、こころ」

「うひゃあ、ほんとに弁当つくってきてるよ、このひと。こんなんはじめて見たぁ」

 つづいて、こころの背後、陰からぴょこんと飛び出したというように、幸もあらわれた。

「はじめて? ああ、そういえば、一学期はまだ作ってもらってなかったっけ」

 幸は、夏休みの補習授業には、前期にも後期にも参加していなかった。したがって、話には聞いていても、僕がこころの手作り弁当を食べている現場は見ていなかったというわけだ。

「なぁにい? もう、作ってもらうのがあたりまえって感じぃ? アツアツだね、このこのぉ」

 いいながら、幸が近くの机を寄せてきた。委員長が、くすくすと笑っている。

「じゃ、廣井くん、そろそろお昼にしましょうか」

 すでに、こころは僕のとなりで、弁当を広げはじめていた。あまり、幸の言葉に動じたふうでもない。それについては、こちらも同様である。以前であれば、確実に顔が熱くなり、パニックのひとつも引きおこしていただろうと思えるのに、ふしぎと落ちついた気分だった。自分でいうのもなんだが、どうやら開き直ってしまったらしい。

「……で、話のつづきなんだけど、メイド喫茶ということになりまして」

 全員が弁当箱のふたを開けたところで、委員長が、こころと幸への説明をかねた現状の確認をはじめた。

「マジ? アタシ、メイド服っていちど着てみたかったんだよね」

「うさっちも? じつは、わたしもなの。いいよね、メイドさん」

 意外なことにというべきか、幸と委員長は、メイドコスプレに興味があったらしい。こころにいたっては言わずもがなで、目を輝かせている。

 それから、委員長は服を買うべきか自作するべきかという問題についても、ふたりに意見をもとめた。

「アタシ、ちょっとなら裁縫できるよ。ひとりでたくさんはむりだけど」

「こころも、だいじょうぶかな。まえの学校で、メイドさんのじゃないけど、文化祭用のお洋服をつくったことがあるの」

 さっそく、縫い手がふたり名乗りをあげてくれたようである。幸の裁縫の腕はよく知っているが、ちょっとどころか特技といっていいレベルだ。こころのほうも、話を聞くかぎりは充分に期待がもてそうだった。

「なら、あとはみんなにも聞いてみて、ひとり当たりの負担がおおきくなりすぎないようだったら、手作りという方向でいくことにしましょうか」

 そういうと、委員長は自分の弁当箱のエビフライを箸でつまみあげ、口にはこんだ。

 今日は、まだ正式な文化祭準備期間ではないため、クラスメイトの半分ぐらいは部活にいってしまっていた。実質的なメイド喫茶の発案者である黒田もいない。そもそも、あいつは軽音部所属であるため、文化祭にはそちらメインで参加するはずである。

 アイディアだけ出して、実際はノータッチというのは、話の流れからしてしかたないとはいえ、いささか無責任な気がしないでもない。もっとも、黒田にかぎっては、それが原因で嫌なやつだと感じたりするわけでもないので、むしろ人徳があるということなのかもしれないが。

 昼食をすませたあとは、あらためて、残ったクラスメイト全員で話しあいをおこなった。メイド服づくりは、女子たちが協力して作業にあたることになった。布など、材料の調達にかんしては、こころがお母さんに頼めるほか、その場にいるもののなかだけでも、つてのある子がふたりもいた。

 この結果に、僕はほっと胸を撫でおろしていた。手作りうんぬんは妥協できる裁量の範囲内だが、既製品を買うとなると、確実に予算をオーバーしてしまう。現在のメンバーだけで話をすすめるわけにもいかなくなるし、最悪の場合、金を出すぐらいならと反対意見をだされたら、計画が白紙にもどってしまうこともありえる。なんとか、そういう悪い可能性の芽を潰せたのだ。

 決めることは、まだまだほかにもあった。飾りつけのイメージや、机の配置、作業人員と予算の配分、当日の休憩交代などもそうだ。

 ひとまず、いまこの場にいる人間たちは、全員がフルで参加できる。運動部の連中も、来週は練習が休みになるはずなので、すくなくとも、準備の頭数には入れられるだろう。文化部の面々には、さすがに参加してもらうのはむずかしいと思うが、それでも暇ができたら手伝ってくれるかもしれない。

 今年の文化祭は、時間との戦いである。とにかく、やれるだけやろうと僕は思った。

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