第百話 九月一日(土)ホームルーム 2
「どもぉ。家にある使わない日用品、中古の本、家電やゲーム、そんなものに日の目を見せてあげようというのが趣旨です。やっぱね、まだ使えるのに使われない道具って、かわいそうじゃん」
そう挨拶というか前置きをしてから、幸は持ち時間の五分で、バザーの歴史などを、リサイクルのすばらしさにかんする自論を絡めつつ語ってくれた。
ちょっとした豆知識の披露もあり、どうやら自分が発表する場合にそなえて、あらかじめ事前調査をしていたようである。
「売り上げは、どうするんですか?」
「んー……。ま、こういうのは、どっかに寄付したりするのがふつうみたいだけどね。あんまし堅苦しいことは考えずに、なんか買って参加者全員で分配とかでもいいんじゃない?」
クラスメイトからの質問タイムがおわると、つぎは委員長の読書ルームである。
「文化祭というからには、文化的な出しものがいいと思うんです。そこで、家にある本を持ち寄って、みんなに見てもらおうというのが趣旨です」
委員長も、やはり五分にわたって流れるようなプレゼンをした。さすがに、人前で発言するのに慣れた感じである。あたかも、事前に原稿を書いて、それを完璧に暗記してきたかのような雰囲気すらただよっていた。
「漫画とかはダメ?」
「べつに、かまわないですよ。まあ、漫画しかないのも困りものだけど……。そうね、図書館にないような本を持ってくるのが望ましいと思います」
さて、順調に僕の番が近づいてきているわけだが。
むう、困ったな。正直なところ、自分がプレゼンすることになるとは予想もしていなかったため、スピーチの文面を考えてきていなかったのである。
そもそも、まえのふたりのプレゼンが立派すぎた。だいたい、僕はいつもホームルームの司会を委員長にまかせて、自身は黒板書記や荷物もちばかりしていたのである。副委員だからといって、人前で発言するのに慣れているというわけではないのだ。
「では、最後、廣井くんどうぞ」
名前をよばれ、クラス中の視線がこちらにあつまってきた。ええい、ままよ。とにかく、僕は口を動かすことにした。
「喫茶店ということで、文化祭をまわるのに疲れたひとたちに、憩いの場を提供するというのが趣旨になります。お茶受けのお菓子なんかは、なるべく手作りすることができれば、おもしろいんじゃないかなと思いまふ」
ぐ、噛んだ。しかし、いま、脳裏にひらめくものがあったぞ。
「おほん。まえのふたつの案、バザーと読書ルームですが、これらの要素も、喫茶店だったら混ぜられる面があるのではないでしょうか。たとえば、家の読まなくなった本を各自もち寄って、お客さんにお茶といっしょに楽しんでいただく。そして、気に入ったなら、それを買いとることもできるというふうに」
われながら、悪くないアイディアだと思った。幸と委員長のスピーチを参考にすることもできそうだ。
このアイディアを軸に、なんとか五分のプレゼンをでっちあげた。つづいては、質問タイムである。
「メイド喫茶はあり?」
「えっ、メイド喫茶って、店員がコスプレするってこと?」
質問したのは、黒田だった。たちまち、教室がざわつきだした。おもしろいという声のほうが多いように、僕には感じられた。
「どういう方向性の喫茶店にするかは決まったあとの話だけど、個人的にはそれでもよさそうな気はします。……その、かわいい服を着たいという案を出したひともいたみたいですし」
ちらりと、こころのほうに目をやってみた。視線がぶつかった。楽しげに、彼女はほほえみをうかべている。
「服も手作りするんですか?」
「そこはまあ、やっぱり自分たちの文化祭なんだし、できるならやってみたほうがいいとは思いますけどね」
いくつか、質疑応答していくうちに、予鈴が鳴ってしまったため、委員長がまとめにはいった。
「いまから決戦投票の用紙を配りますので、放課後までにわたしか廣井くんのところに持ってきてください。あと、部活などの用事がないひとは、午後はなるべく教室に残ってもらえると助かります」
「放課後から、もう準備にはいるのん?」
幸の質問に、委員長は苦笑めいた表情をうかべた。
「はい、やっぱり日程が厳しいので……。できれば日曜も、有志をつのって作業にあたれればと考えています」
時間がないのは、もとからわかっていたことである。不満を口にするものは、だれもいなかった。
ともあれ、そろそろ授業の準備もはじめなければならない。文化祭の話は、放課後に持ち越しということになった。