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冥王星の少女 -the phantom girl of absolute zero-  作者: 草原猫
第六章 動きだした未来
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第九十七話 九月一日(土)早朝 3

「あれ? 公平さん、あのひと、こころさんじゃ?」

「うん? あ、ほんとだ」

 校門のまえに、なぜかはよくわからないが、こころがたたずんでいた。見ていると、むこうもこちらの存在に気づいたようだ。ふにゃりと緊張感のない笑みをうかべ、小走りで僕のそばまで寄ってきた。

「こーへいしゃん、おはよ」

「やあ、おはよう。どうしたの? まだ早い時間だけど」

 彼女がすんでいるマンションは、学校からすこしはなれた位置にある。僕の家とも方向がちがい、帰りならともかく、毎日の登校をともにするのは、ちょっと厳しい。そこで、新学期からは、朝は校門のまえで待ちあわせをする約束になっている。

 ただし、こと今日にかんしては、僕が早出になることが事前にわかっていたため、待っていなくてもいいと言っておいたはずなのだが……。

「なにか手伝えたらと思って、きちゃった。……えっと?」

 僕の背後のあたりに目をむけ、こころがふしぎそうに小首をかしげた。振り返ってそちらを確認すると、完全に固まっている徹子ちゃんの姿があった。小声で『こ、こーへい、しゃん?』などと呟いているのが聞こえる。

「ああ、この子はほら、ゴーの妹だよ。……徹子ちゃん、彼女が僕の恋人」

 恋人という言葉をつかっての紹介に、こころが照れたような笑みをうかべた。

 じつのところ、交際相手をさすのに『彼女』という言葉をつかうのが、僕はあまり好きではなかったりする。だってあれは、ただの三人称代名詞ではないか。

 たがいに恋い慕いあう相手のことをいうのなら、もっとはっきりと意思と志向性の感じられる『恋人』をつかうのが正しいはずだ。

 そういう自分なりの、ある種どうでもいいレベルのこだわりではあったが、こころは恋人と紹介されるのを気にいってくれているらしかった。

「あの、こーへいしゃんの恋人のこころです。はじめまして、ですよね?」

「こ、これはどうも。錦織徹子と申します。えっと、春の始業式のときに、お姿を拝見いたしまして」

 ぺこぺこと、なんども頭をさげるようにして、徹子ちゃんが挨拶をはじめた。どうも、様子がおかしい気がした。どこか、テンパっているような感じがある。

 さきほどまで、ずっとこころの話をしていたところに、いきなり本人があらわれたので、驚いてしまったのかもしれない。噂をすれば影がさすというやつだ。

 ともあれ、ひとしきり紹介兼挨拶をすませたあと、僕とこころはならんで校門をくぐった。ところが、徹子ちゃんはなぜかその場から動かなかった。ぼんやりとした様子で、こちらをうかがっているだけである。

「徹子ちゃん?」

 不審に思って呼びかけると、徹子ちゃんははっとしたような表情をうかべ、急ぎ足であとについてきた。

 しかし、玄関までわずかな距離だったにもかかわらず、彼女はずっと二歩ほどうしろを歩き、僕たちの隣に並ぼうとはしなかった。

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