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蛇が喋った

「あー!やっと見つけた、今までどこにいたんだよ?」


 飼っている蛇が飼育ケージから逃げてしまい、一日中探していたのだが、どうにか見つけてやることができた。部屋の隅にある植木鉢の裏でとぐろを巻いていたので、そっと手を差し伸べてやると、するすると指を伝って腕に巻き付いた。ひんやりとした鱗がしなやかで、薄い黄色の可愛らしい蛇だ。庭先にいたところを捕まえたので詳しい種類は分からない。図鑑を見てもイマイチこれだという種類がいないので、雑種か、外来種か何かなのだと思う。


「へび助、早くケージに戻りろうね」


「ちょっとくらい外に出たっていいでしょ?」


「うわっ!」


 どこからか声が聞こえた。驚いて辺りを見回したけれども、誰もいないようだ。若い女の声に聞こえたが。


「ここだよ、君の手に乗っている蛇だよ」


 また聞こえた、間違いなく誰かいる。ただどこにいるのかが分からない。俺は動揺している。驚きと焦りが頭の中を埋め尽くしていて、全然何を言っているのか理解できない。


「聞こえていないのかな?おーい、手元を見てってば。君の蛇が口を開けているでしょ」


「誰だ!?一体どこから喋って……ええい、警察を呼ぶぞ!」


「もしそうしたなら、君は警察から嘘の通報をしたと思われるけど。本当にいいの?」


「口数の多い不審者だな!」


 一周回って冷静になってきた。現状分かっている事を整理すると、どこからか聞こえてくる声の主は、家主が家を守っているにも関わらず白昼堂々と侵入する不審者だ。しかもフランクに声をかけてくるヤバイ奴。こんなに自信満々に話しかけてくるくらいだから、凶器の類を持っていると考えてよいだろう。早く逃げなくては!


 俺は玄関から飛び出し、つっかけだけ履いて走り出した。助けを求めたいが、俺の家は少し町の外れにあるから、すぐには人が居る場所には辿り着かない。走りながら、何と言って事情を説明するか考えていた。


「もう、止まって!」


 またあの声がする。そう思った瞬間、腕に巻き付けたまま一緒に連れてきたへび助が、機敏な機敏な動きで腕を登り、耳を噛んできた。


「痛ッ!」


 針を刺されるような刺激が耳に走る。へび助が俺を嚙むなんて、今まで無かった。きっと急に外に出たものだから興奮してしまったんだ。


「仕方ないな、この人は……!」


 構わず走り続けていたが、急にバランスを崩して横に倒れてしまった。右肩が何故か重くなって、左に重心がブレたせいだ。

 ついに頭のおかしい不審者に捕まってしまったのだろうか。くそ、不審者のくせにやたら俊足な奴だ。もう目でも突いてしまおうと覚悟を決めて右を見る。


「このやろ――」


 この野郎やってやるよ、と続けようとしたが声が出なかった。そこにいたのは、不審者などではなかった。


「あなたに何もしないから!ほら、大丈夫でしょ」


 ホオヅキの果実を思わせる赤い眼がこちらを覗いている。視線を切れば魂を取られるのではないかと、曖昧な畏れが湧いてくる。褪せた和紙のような黄色がかった長髪は、今そこにいるモノが経てきた、果てしない歳月がにじんでいるようだ。


 そして今、全て理解した。俺に付きまとっていた不審者とは、超常の化け物だったのだ。

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