【辺境ギルドの看板娘】オリハルコンの輝きは、涙の色
辺境ギルドの幼女受付嬢ですが、村の平和を乱す悪党は物理で「解決」させていただきます の世界観を引き継いでいますが、単体でもお楽しみ頂ける作品です。
季節は晩秋。枯葉が舞う村の路地裏で、私――アリス(9歳)は、壁の隅に書かれた『暗号』を睨みつけていた。
『 W・F・〇 』
(Wealthy・Female・脈アリ)
「……ナメられたものね」
昨年の筋肉祭りから一年。平和ボケしたこの村に、再びハイエナの臭いがする。
私は愛用のメモ帳にその場所を書き込むと、スカートを翻してギルドへと走った。
子供の足だと侮るなかれ。私の脳内ではすでに、敵の「包囲網」が完成しつつあったのだから。
敵の手際は鮮やかだった。まさにプロの犯行。
【第一段階:権威のロンダリング】
村一番のお人好し、雑貨屋のケネスさん。
「君の店を王都支部のパートナーにしたい」
詐欺師のリーダー〈メンター〉は、そんな夢物語と札束でケネスさんの目をくらませ、彼の仲介で領主様への「多額の寄付」を成功させた。
手に入れたのは、領主家の家紋入り感謝状。これが、田舎の老人を黙らせる最強の「印籠」となる。
【第二段階:孤独へのつけ込み】
実行犯は、爽やかな若者トムとメアリー。
ターゲットは、資産はあるが孤独な独居老人。
彼らは泥にまみれて農作業を手伝い、肩を揉み、実の子供のように甘えてみせた。
「本当のお母さんみたい」「僕がついていますよ」
その言葉は、寂しい老人の心の隙間に、猛毒のように染み渡っていく。
そして収穫が終わり、懐が温まった今。
奴らはついに、牙を剥いた。
「さあ、皆さん! これは選ばれた方だけのチャンスなのです!」
村の集会所は、熱気に包まれていた。
壇上にはメンター。その背後には、領主様の感謝状が仰々しく飾られている。
「国境の崖下で発見された『オリハルコン鉱脈』。一口出資すれば、来年には3倍の配当! 本来なら王族しか関われない事業ですが、今回は私が特別に枠をご用意しました!」
「トムさん、本当に3倍になるのかい?」
「もちろんです、ジェシカさん! 僕を信じてください!」
ジェシカおばあちゃんの手が震える。その筆先が、全財産を投げ打つ契約書に触れようとした、その刹那。
バンッ!!
集会所の扉が、蹴破られた。
「そこまでよ!!」
土煙の中に立っていたのは、私。
ギルドの制服をたなびかせ、私は迷わず壇上へと歩みを進める。
「おや、可愛いお嬢ちゃんだ。迷子かな?」
メンターが余裕の笑みを浮かべる。
「迷子? 違うわ。……『ゴミ掃除』に来たの」
私は一枚の紙きれを突きつけた。
「王都の地質調査データよ。あんたたちが言ってる鉱脈の座標、そこにあるのはただの枯れた古井戸。オリハルコンなんて欠片もないわ!」
会場がざわめく。
「なっ……!?」
「それに、その感謝状。領主様は『寄付』に対して礼状を出しただけ。あんたの事業なんて一言も認めてない!」
メンターの顔から笑みが消えた。
「……ガキが。調べ上げたってことか」
彼は指をパチンと鳴らす。会場の出口を、屈強な用心棒たちが塞いだ。
「ここでバラされたら商売あがったりだ。悪いが、沈んでもらうぞ。老人どもからは、力づくでもハンコをもらう!」
「ひぃぃっ!」
トムとメアリーも本性を現し、ジェシカおばあちゃんを羽交い締めにする。
絶体絶命? いいえ。
私はニヤリと笑うと、背中の通信機を取り出した。
「お父さん、聞いた? 脅迫、監禁、詐欺未遂。……『害虫駆除』の許可、下りたよね?」
ズドオォォォン!!
返答は、言葉ではなく「衝撃」だった。
集会所の天井ガラスが粉々に砕け散り、太陽を背に5つの巨影が降ってくる!
「ア~ラあらあら! 随分と楽しそうな『お遊戯会』をしてるじゃないのォ!」
ムスクの香り。極彩色の衣装。そして、鋼鉄の肉体美。
王都の最強武闘派クラン、『夜の蝶』参上!
「な、なんだコイツらは!?」
「用心棒? 笑わせないでちょうだい」
バタフライが、用心棒の剣を素手でへし折る。
そして、その後ろから飛び出したのは――見覚えのある豚・猿・河童の三人組!
「へっへっへ! 久しぶりだなァ、シャバの空気はよォ!」
オークが鼻息荒く叫ぶ。
「て、テメェらは!」
メンターが悲鳴を上げる。
「おうよ! 俺たちは今や、バタフライ様の下で地獄の更生プログラムを生き抜いた精鋭掃除係だ!」
モンクがボキボキと拳を鳴らし、トムに詰め寄る。
「おい若造。年寄りを騙す? ……俺たちもワルだったがなぁ、そこまで腐っちゃいなかったぜぇ!?」
「ひ、ひぃぃ! ごめんなさい!」
「問答無用ッ! 『正拳突き1万回』の刑だァァッ!」
ドゴォッ!!
モンクの拳がトムを空の彼方へ吹き飛ばす!
「逃げるなよぉ? ギョギョッ!」
サハギンが逃げようとするメアリーの足を、目にも止まらぬ速さでカニ挟み。
「お前には『滝行3日コース』をプレゼントだ!」
残るはメンターのみ。
「く、来るな! 私にはバックが……」
「バック? アタシのバック(背筋)の方が立派だと思うけどォ?」
バタフライの巨大な影が、メンターを飲み込む。
「い、命だけは……!」
「あら、命は取らないわよ。ただ……『心の歪み』を筋肉で真っ直ぐに矯正してあげるだけ♡」
「ギィヤァァァァッー!!」
必殺、アルティメット・マッスル・ハグ。
メンターの悲鳴は、秋の空高く吸い込まれていった。
嵐が過ぎ去った集会所。
詐欺師たちは全員、ロープでぐるぐる巻きにされ、ドナドナのように連行されていく。
「……アリスちゃん」
ジェシカおばあちゃんが、涙目で私を見る。
「私、馬鹿だったわね。寂しくて、つい……」
私はおばあちゃんの手を両手で包み込んだ。
「ううん。悪いのは全部、人の心を利用したあいつらだよ」
その時、通信機からパンジーお姉ちゃんの声が響く。
『アリス先輩! 王都警備隊への引き渡し手続き、完了しました! 全員、鉱山送りの実刑確定です!』
「ありがとう、パンジーお姉ちゃん! ……ほら、聞いた? お金も無事、村も無事!」
私はスカートの裾をつまみ、満面の笑みで「看板娘」の挨拶をした。
「寂しくなったら、いつでもギルドに来てね。美味しいお茶とお菓子、それに……お父さんの淹れる苦~いコーヒーもあるから!」
ワトソンおじいちゃんたちが、やっと笑った。
◇◇◇
その夜。
「ふぅ……一件落着ね」
私はギルドのカウンターで、ジェシカおばあちゃんからもらった焼き栗を頬張っていた。
「まったく、お前ってやつは……」
お父さんが呆れたように、でも優しく頭を撫でてくれる。
「でも、気をつけろよ。敵はどんどん狡猾になってる」
「平気よ。だって私には……」
窓の外を見る。
月明かりの下、筋肉隆々の男たちが手を振りながら去っていくのが見えた。
「頼もしい『お兄様たち』がいるし、何より……」
私は胸を張る。
「この村一番の、スーパー受付嬢がいるんだから!」
秋風が、私の前髪を優しく揺らした。
辺境の村は、今日も平和だ。
私の目が黒いうちは、どんな悪党だって、筋肉葬にしてあげるんだから!
貴重なお時間を頂きありがとうございました。




