週末彼女2
彼と出会ったのは、あの合コンの夜だった。
最初の印象は、穏やかで優しそうで――実際、あの夜の彼は誰よりも丁寧だった。
酔いすぎた私を心配してくれて、タクシーを呼ぶふりをして、気づけばホテルへ。
拒む余地もなかったけれど、どこかで「この人なら」と思っていた。
あの一夜限りだと思っていた関係は、なぜか続いた。
でも、会えるのは決まって金曜日の夜だけ。
「平日は忙しい」と笑って言う彼の言葉を、私は何も言わず受け止めた。
けれど、“私以外の誰か”の存在が、週末の隙間から静かに滲み出してくる。
それでも、私は毎週金曜日になると、彼のための“私”を作る。
薄くて柔らかいストッキングに、膝上丈のスカート。
胸元をさりげなく強調するチューブトップブラと、崩される前提のハーフツイン。
ルージュも、香水も、彼に「可愛い」と思われるためだけに選ぶ。
駅で待ち合わせて、ホテルへ向かう道中。
彼の手が、当たり前のように私の太ももに滑り込み、スカートの奥へと入る。
もう私は、それを止めようとも思わない。
エレベーターの中、深く唇を奪われて、ルージュはすぐに消える。
私は、彼に「脱がされるための私」になっていく。
ベッドに押し倒され、パンプスが脱げ落ちる。
スカートがめくられ、ストッキングは荒々しく脱がされ、爪でできた伝線が太ももに走る。
ショーツのクロッチをずらされ、ブラはお腹まで押し下げられ、胸を揉まれ、舐められる。
まだ服を脱ぎきっていないままの、激しい一回戦。
スマホのレンズがこちらを向いていても、私はもう何も言わない。
二回戦目は、ボタンを外されたトップスが床に落ち、
ブラのホックが外れ、スカートも完全に脱がされる。
熱く打ちつけられる彼の腰。
私は汗と涙でファンデが流れ、乱れたハーフツインから髪がこぼれ落ちるのを感じながら、
また絶頂に堕ちていく。
三回戦目には、ショーツすら脱がされ、完全に何も纏っていない。
私の身体を、彼が見下ろす。
そこには、崩れたメイクと、潤んだ目をした“女の顔”をした私がいた。
愛されていないのに、身体だけは彼にすべてを許している――その現実に、心だけが遠く離れていく。
彼がシャワーへ向かったあと、私はそっと起き上がり、鏡の前へ行く。
乱れた髪、濡れた睫毛、落ちたルージュ。
メイクはぐちゃぐちゃに崩れ、口元は噛まれた痕で赤く腫れている。
だけど私は、鏡を見つめながら微笑もうとする。
「これでいい」そう思い込まないと、心がもたない。
シャワーを浴びて、彼に触れられたすべてを洗い流す。
そしてまた、ドライヤーをかけ、ヘアアイロンで巻き直す。
彼が好きだと言ったふわふわのハーフツインに髪を結び、
ファンデ、アイライン、マスカラ、ルージュ――“可愛い私”をもう一度作り直す。
足元にあるのは、伝線して履けなくなったストッキング。
それを無言で丸め、ホテルのゴミ箱へ入れる。
履き替えはない。
私は生脚のまま、夜の街に帰っていく。
心のどこかで、彼には本命の彼女がいる気がしている。
私の知らない誰かと、休日を過ごし、名前を呼び、優しくキスをしている気がしてならない。
それでも、私は金曜日が来るたびに、
彼に脱がされるための“私”を整える。
愛じゃなくても、熱が欲しい。
感じてしまう身体が、心の寂しさに蓋をしてしまうから。