8
༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶
金属のきしむ音と、かすれたうめき声。
古びた倉庫の奥、鉄骨がむき出しの天井の下で、男がひとり、椅子に縛られている。
その周りを無言で囲む龍焰の部下たち。
その様子を、少し離れた高台の足場から見下ろす男――李 黎炎。
黒いロングコートの裾を揺らし、携帯を片手に、冷えた風の中でひと息ついていた。
(着信音)
液晶に表示されたのは「周」の名前。
「……なんや、俺に電話やなんて珍しいな。そっちは暇なんか?」
[本来は俺の役目でしたが……あなたが暇だったんでしょう?
倉庫、代わってくださってありがとうございます。]
「ほんま、何でもお見通しやな。
たまには血の匂いもええもんやろ。お前が黙々と書類抱えてる間に、こっちは楽しく“お喋り”しとったで?」
背後で鈍い音。誰かの叫びが小さく響くが、黎炎はまったく気に留めない
[……さて、本題です。春さんの件ですが、ひとつ報告が]
春の名前が出て黎炎は目を僅かに細めた。
「ふーん? どないした? 何かやらかしたんか?」
[いえ、本人の申し出です。“学校に行きたい”と。
……正式には、“通わせてもらえませんか”でしたが]
「はぁい〜〜〜? なんでまた。こんな学校なんかに」
[表向きは落ち着いて見えますが、少し……精神的な負荷が大きいように見えました。
あの環境で孤立すれば当然かと]
周の続けた言葉を鼻で笑いなが呆れる黎炎
「甘いなあ。あいつ自分から『ここに残る』言うたやろ。背伸びしてみせた以上、黙って耐えときゃええんや」
そう言いながら、視線は拷問中の男に向けられる。
部下が新しい道具を手にしているのを見てまた目を逸した。
[ただ、“学校”というのは、監視と情報収集の場としても使えます。本人の意志と龍焰の利害が一致している。なので、こちらで処理を進めました]
「はいはい〜。処置も済んどるなら、もう俺に聞く必要ないやろ?」
[一応、報告です。“あなたのモノ”ですから]
ほんの少しだけ黙ってから、笑う
「……せやな、“龍焔の”や。逃がす気は、ない」
風が倉庫の壁を揺らす。男のうめきは、もう音になっていなかった
「学校の制服……似合ってたもんな、
あの子。ま、いっぺんくらい、様子見てみるか」