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焔の檻  作者: iro.
7/12

7


「黎さんは今外出中です。しばらく戻られないと思いますが

何かご用件が?」


「うん、学校の事で...」


まだ龍焔の人のこの探るような目が苦手。

──でもそれも当然だ。ここは龍焔の本拠地。余所者に気を許す理由なんて、どこにもない。

思い切って聞いたのに黎炎さんは居なかった。


「それなら周さんに聞いてみては?

黎さんが居ない時の代理を務めているので、

案内します。」

「周さん....」


༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶


無駄のない、ぴたりとした足音。廊下は広く、壁には中国風の意匠がちらほら見える。

しばらく歩いたあと、一つの扉の前で部下は立ち止まった。


彼は軽くドアをノックして

「劉です。春さんをお連れしました。」


中からは、やや低く、けれどどこか穏やかな声が返ってきた。


「入って」


「失礼します。」


部屋に入ると、書類に目を通していた男が顔を上げた。黎炎よりも少し年上に見える落ち着いた男──目元に柔らかい笑みをたたえたその人は、春の存在を驚くでもなく、すでに知っていたような態度だった。


「……君が春さんだね。はじめまして。周と言います。黎さんの側近をしております」


椅子から立ち上がって軽く頭を下げたその仕草は、礼儀正しくもどこか親しみを感じさせた。

春も小さく会釈を返す。


「はじめまして……少しだけ、お話いいですか?」


「もちろん。座ってください」


促されるまま、春はソファに腰を下ろした。

間に一拍置いて、言葉を選びながら切り出す。


「……ここで暮らすって決めたのは、

私自身なんですけど。

学校のこと……高校、通わせてもらえるか聞きたくて」


「……高校?」


「はい。途中で辞めたくはないんです。

ちゃんと卒業したい。

それに……こっちに来る前に住んでた家にも帰りたいです。制服とか、必要なものもあるんで」


春の声は静かだったけれど、芯がある。

周は黙って数秒、彼女を見つめ──やがてゆっくり頷いた。


「……分かりました。ただ、ひとつ確認を。

“自分でここに残ると決めた”という言葉に、嘘はないですね?」


「はい。……私分かってます。ここがどういう場所かも、多少は」


その返事に、周はふっと目を細めた。


「なら──話を通しておきます。学校の件は明後日から、準備が整い次第ということで。

家の方は……今日は控えてください。念のため安全を確認して、明日、部下を同行させて伺いましょう」


「……分かりました。

それで大丈夫です、ありがとうございます。」


春は少しだけ肩の力を抜いた。



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