7
「黎さんは今外出中です。しばらく戻られないと思いますが
何かご用件が?」
「うん、学校の事で...」
まだ龍焔の人のこの探るような目が苦手。
──でもそれも当然だ。ここは龍焔の本拠地。余所者に気を許す理由なんて、どこにもない。
思い切って聞いたのに黎炎さんは居なかった。
「それなら周さんに聞いてみては?
黎さんが居ない時の代理を務めているので、
案内します。」
「周さん....」
༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶ ༶
無駄のない、ぴたりとした足音。廊下は広く、壁には中国風の意匠がちらほら見える。
しばらく歩いたあと、一つの扉の前で部下は立ち止まった。
彼は軽くドアをノックして
「劉です。春さんをお連れしました。」
中からは、やや低く、けれどどこか穏やかな声が返ってきた。
「入って」
「失礼します。」
部屋に入ると、書類に目を通していた男が顔を上げた。黎炎よりも少し年上に見える落ち着いた男──目元に柔らかい笑みをたたえたその人は、春の存在を驚くでもなく、すでに知っていたような態度だった。
「……君が春さんだね。はじめまして。周と言います。黎さんの側近をしております」
椅子から立ち上がって軽く頭を下げたその仕草は、礼儀正しくもどこか親しみを感じさせた。
春も小さく会釈を返す。
「はじめまして……少しだけ、お話いいですか?」
「もちろん。座ってください」
促されるまま、春はソファに腰を下ろした。
間に一拍置いて、言葉を選びながら切り出す。
「……ここで暮らすって決めたのは、
私自身なんですけど。
学校のこと……高校、通わせてもらえるか聞きたくて」
「……高校?」
「はい。途中で辞めたくはないんです。
ちゃんと卒業したい。
それに……こっちに来る前に住んでた家にも帰りたいです。制服とか、必要なものもあるんで」
春の声は静かだったけれど、芯がある。
周は黙って数秒、彼女を見つめ──やがてゆっくり頷いた。
「……分かりました。ただ、ひとつ確認を。
“自分でここに残ると決めた”という言葉に、嘘はないですね?」
「はい。……私分かってます。ここがどういう場所かも、多少は」
その返事に、周はふっと目を細めた。
「なら──話を通しておきます。学校の件は明後日から、準備が整い次第ということで。
家の方は……今日は控えてください。念のため安全を確認して、明日、部下を同行させて伺いましょう」
「……分かりました。
それで大丈夫です、ありがとうございます。」
春は少しだけ肩の力を抜いた。