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焔の檻  作者: iro.
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6


控えめなノックの音とともに、扉がゆっくりと開いた。

黒い制服に身を包んだ若い男が、皿を載せた盆を静かに運び入れる。

「お食事をお持ちしました。」

春はベッドに腰かけたまま、無表情でその男を見た。

男は動じず、整った動作で皿をテーブルに並べる。


「.....龍焔の事、教えてもらえませんか??」


春の問いに、男は少し間を置いて答えた。

「龍焔は、李黎炎がボスを務めるマフィア組織です。

この屋敷は龍焔の別荘で、仕事場でもあり、同時に守るべき拠点でもあります」

春はぼんやりと部屋の隅に目をやった。

「....ふぅん、」

広くて手入れの行き届いた空間は、確かに"別荘”というにはあまりに豪華で冷たい印象だった。


「......ここに閉じ込められてるみたいなんですけど、私は......」


言葉を濁したところで、男は静かに首を振る。

「黎炎様の命令です。ここから出す事はできません」


春は小さくため息をつき、フォークを手に取った。

男は一礼して静かに退出していった。

扉が閉まる音が部屋に響くと、また一人、静かな闇が戻ってきた。


銀のフォークが、皿の縁をコツンと叩いた。

熱が少し冷めて、湯気はもう立っていなかった。


彼女の向かいに誰かがいるわけではない。ただ広すぎるテーブルに、ぽつんと一人。


「……ここに残るって、自分で決めたんだし。

 怖いとか、危ないとか、今さらだよね。

 けど……」


手元に視線を落としたまま、春はスプーンに映った自分の顔をじっと見つめる。


「学校……どうしよ。ちゃんと通えるんかな。

 この屋敷から通学って、

 そもそもここどの辺になん……。

 制服は着てるけど、1回帰りたいし....」


フォークが皿に当たる、カツンという音が、やけに大きく響いた。


「……聞きに行こ。

 ここに置いてもらう代わりに、利用されるのは分かってる。

 でも、全部捨ててきたんやから。

 せめて“高校生”の生活くらい、守らせてよ……黎炎さん」


自分の皿に目を戻し、再びフォークを手に取る。


その時、扉の向こうから控えめにノックの音が響いた。

食器を下げに来た部下の姿がちらりと見えた時、春は少しだけ目を細めて言った。


「……ちょっと聞きたいことあるんですけど、

  黎炎さんって、今どこにいますか?」






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