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部屋は驚くほど綺麗だった。
中華風の格子窓に、濃い朱色の絨毯。
シーツは真っ白でふかふか、壁には牡丹の刺繍が施されている。
けれど、それらすべてがまるで”よそ行き”で、春の肌に馴染まない。
「.....広、なんか.......ホテルって感じ」
ぽつりと呟いたあと、春は制服のままベッドの端に腰を下ろした。
ふわりと沈み込む柔らかさが、妙に落ち着かなかった。
それでも、しばらくのあいだじっと天井を見ていた。
さっきの男李黎炎。
綺麗な顔に、獣みたいな目を思い出す。
「.....やっぱり、普通の人じゃないよね、あの人」
独り言を漏らしながら、何気なく背中の方を振り返った。
何か、感じた気がして。
けれどそこには、誰もいない。
ーいや。
"誰もいない”のに、"何かいる”
ドアの方でも、窓でもない。
まるで壁そのものが、じっと彼女を"見ている”ような感覚。
呼吸が一瞬、止まった。
視線。鋭くて、無機質で、感情のない何か。
けれど敵意も、興味もない。ただ見ている一そんな気配。
「.....見てるの、誰?」
声に出してみても、答えは返ってこない。
それどころかその"気配”は、まるで最初から存在しなかったかのように、すうっと消えていった。
春はしばらく黙って、部屋の空気を確かめるように深く息をついた。
「.....気のせい、だよね。多分」
そう言いながらも、背中にはまだ小さな寒気が残っていた。