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奥からもう一人の部下が進み出る。
やや年上の男で、黎炎の側近として長く仕えている冷徹な目の持ち主だった。
黎炎は椅子の背に凭れながら、空中を見つめるようにしてつぶやく。
「さっきの子。手え出したらアカンで、しばらくは」
周は一瞬瞼を動かした。
「.....”しばらくは"、ですか」
「せや。価値が尽きるまでは、触ったらあかん。
どこまで使えるか、ちょっと楽しみやからな」
言葉に熱はない。ただの"処理”を告げるロ調だった。
けれどそのあと、黎炎の目がほんのわずかに鋭さを帯びる。
「.....あの顔、ええな。色気はないけど、輪郭
が綺麗や。目も強い。
ああいう顔、壊れる時が楽しみや」
軽く笑いながら言う黎炎に、周は何も言わなかった。
「まあ、使えるだけ使って、用済みになったらその時は、どうでもええ」
言葉とは裏腹に、黎炎の視線はさっき春が立っていた空間から逸れない。
周は静かに頭を下げた。
「心得ました」
「よろしい。皆にも伝えといて」
その一言で、再び室内には沈黙が満ちた。
だが黎炎の脳裏には、さっきの"取引”を持ちかけた少女の目が、未だ焼き付いて離れなかった。