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「......え?」
「ウチに来てもろたんは、他でもない。一一君に、ちょっと用があんねん」
李黎炎は、にこりと笑った。
その笑顔の奥にあるものを、春はまだ知らない。
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屋敷の一室。
中華調の欄間と刻が施された木の壁、奥に据えられた重厚な椅子に、李黎炎は背を預けて座っていた。
春はその前に立たされていた。制服姿のまま、少しだけ乱れた髪を気にする素振りを見せながらも、その表情は落ち着いているように見える。
「.....えらい落ち着いとるな。普通やったら泣き
叫ぶとこやで?」
黎炎が笑う。
低く、余裕をたたえた声音。けれどその奥で、鋭い眼がじっと彼女を観察していた。
「ここ、どこなんですか。私、なんで連れてこられたんです?」
体の芯が震えているのを力を入れて抑え
黎炎に悟られない様に聞いた。
「ここは龍焔の屋敷や。ほんで一一君は"血の価値”を持っとる。
そやからや。」
「血......?」
春がわずかに眉をひそめると、黎炎は指を軽く鳴らした。
背後の部下が一枚の写真を差し出す。それは、古びたスナップ__
スーツ姿の男、顔のいかつい数人の男たちに囲まれ、笑っていた。
「この人、見覚えあるか?」
「...うちの、父」
「せや。美咲蒼真。蒼嶺会の若頭の弟や。
兄貴が死んで、しばらくしてこっちも殺された。
で、残った血縁が君、ただ一人や」
空気が静かに、しかし確かに変わった。
春は写真から目を離し、真っ直ぐ黎炎を見た。
揺れは、なかった。
「......そっか。私、そんな血なんだ」
少しだけ沈黙が落ちる。
黎炎は、感情を読もことするように目を細めた。