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焔の檻  作者: iro.
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かつて春が暮らしていた古びたマンション前。

龍焔の黒い車が静かに停まり、後部座席のドアが開く。


「へいお待ち〜、ミサキちゃーん。準備はいいっすか?」


軽いノリでウインクしながら、先に降りた晃牙が春に声をかける。


「……晃牙。この任務は遊びじゃないんだからな」


運転席から降りた東雲が、眼鏡の奥の冷静な視線で晃牙を一瞥した。


「え〜、東雲くんノリ悪いな〜。

ちょっとくらい和ませたっていいでしょ?春ちゃん緊張してるかもだし?」


「……別に、緊張してないよ」


春は車から降りながら、ふっと微笑んで応える。

その目はまっすぐ、昨日の朝出たばかりなのにもう懐かしさを感じる部屋の方を見ていた。


「俺が先に入って確認するから、ミサキちゃんはここで待っててな?」


「うん。お願い」


晃牙は春から鍵を受け取ると、ひょいっと軽い足取りで建物へ。

数分後、指をひらりと振って手招きしてきた。


「オッケーオッケー、安全確認完了〜!カーテン開けっぱなしで食べっぱなしだけどな!ははっ」


「……それ報告いる?」


「まあまあ、ほら、行きましょう。」


促されて春は部屋へ入る。

まだ生活の匂いが残る空間──でも、そこに「温もり」はもうなかった。


制服をクローゼットから取り出し、下着や文具をまとめてバッグへ。

机の引き出しから親の形見の手帳と、小さな髪飾りを取り出してそっと撫でる。


そこへ、廊下から東雲が声をかける。


「荷物は多すぎるなら置いていって構わない。

今日この後で、必要な物はモールで買う予定だ」


「え?そうなんだ。じゃあ必要最低限にするね」


春は頷きながら、制服と教科書、そして形見だけを詰めた小さなバッグを手に取る。


「もうそれで終わり? 他にいるもんない?」


と、晃牙が顔を出す。


「……ううん、大丈夫。もうここに置いていくものばっかり」


「そっか。ならレッツゴーだね♪」


「……軽すぎる」


と、東雲が小さくため息をつきながらドアを開ける。


春は最後に一度だけ部屋を見回して、静かに目を閉じた。


「さよなら」


その小さな呟きは、誰の耳にも届かず──

三人はマンションを後にした。





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