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昼下がりの繁華街。
騒がしい通りの中に、ほんの一瞬、色の違う景色が見えた。
艶やかでもない、目立つ装いでもない。
けれどその女だけが、不思議なほどに輪郭を際立たせて歩いていた。
一見てて飽きん。いや、目え離されへん、やな。
李黎炎は、黒塗りの車の後部座席で煙草を咥えながら、片肘を窓に乗せた。
艶のある黒髪、涼しげな目元、どこか飄々とした歩き方。
普通の女子高生にしては、空気が違う。
「......おもろい顔しとるわ。あの目ぇ、誰かに似とる。」
くぐもった声でつぶやいた黎炎の目が細まる。
記憶の底から引き上げられたのは、
潰す予定のヤクザ系列→蒼嶺会の男の顔。
「.....これは、ええもん見つけたかもなぁ」
黎炎は口の端をゆるく吊り上げた。
そして、前席の男に軽く指を弾く。
「おい。あの子、調べて。数日以内にウチまで運ばせ」
「.....了解っす、黎さん」
黎炎は煙をふう、と吐いた。
陽の光が金色の眼差しに透ける。
「さあて、なんぼほど使い道あるんか、試さしてもらおか__」
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一一気づいたときには、もう車の中だった。
「え?いや、ちょ、なに......って、え?ガチで誘拐?」
美咲春は制服のまま、黒いシートに押し込まれ、
体を抱えながら、窓の外を見た。
助手席の男は無言でハンドルを握り、顔も見せようとしない。
「うち、お金ないですや?身代金もムリだし.....あ、もしかして臓器?」
誰も答えない。
目隠しをされて車が動いた。
結構時間がかかっていた気がするが
本当の所は分からない。
車がとまったと思ったら引きずられるように
靴を脱がされて目隠しを取られた。
ちょっと広めのただの和室だ。
ふすまは全て閉じられていて
三人の黒服を着た男に囲まれていた
「え、あんたら何?宗教?異世界転生の導入部?」
軽口を叩きながらも、心の奥に冷たい汗が流れた。
これは"遊びではない。直感が告げていた。
屋敷の奥、扉が静かに開かれる。
現れたのは、長身の男。
黒と赤と金をまとい、長髪をゆるく束ね肩に垂らした彼は、まるで演出されたような優雅さでそこに立っていた。
「ご足労さんやな、嬢ちゃん」