婚約者と私の女友達の仲が非常に良い件について
ドレンダレン王国王都にある王宮にて。
フェリシア・エレオノーラ・ファン・ナッサウは侍女を連れてゆっくりと王宮の庭園を歩いていた。
春の心地良い風が吹き、太陽に染まったようなブロンドのふわふわとした長い髪がなびく。
庭園に咲き誇る色とりどりのチューリップを見て、フェリシアはタンザナイトのような紫の目をうっとりと細めた。
ドレンダレン王国を治めるナッサウ王家の特徴であるその髪色と目の色。それはフェリシアがこの国の王女であることを物語っている。
「ご覧になって。フェリシア殿下よ。今日も麗しいわね」
「ああ、フェリシア殿下、一生拝んでいられそうだ。願うことならば殿下の婚約者になれたら……」
「何馬鹿なことを言っているの? フェリシア殿下にはもう婚約者がいらっしゃるわよ。オーヴァイエ筆頭公爵家次男、ライニール卿がね」
「うう……フェリシア殿下……。でも他国に嫁ぐのではなく臣籍降下してオラニエ女公爵となられるのだから、この国に留まってくださる。それが唯一の救いだ」
ドレンダレン王国唯一の王女フェリシアは皆から慕われている。四人の兄達も、妹であり唯一の王女フェリシアに対してやや過保護な面があり、フェリシアの婚約者選びには難航したものだ。
そのことを思い出し、フェリシアは苦笑した。
その時、フェリシアは少し離れた場所に見知った人物を二人見つけた。
アッシュブロンドの髪にタンザナイトのような紫の目の令息と、黒褐色の癖毛にムーンストーンのようなグレーの目の令嬢だ。
フェリシアは二人におっとりと手を振り微笑みかける。
すると二人もフェリシアに気付いたようで、パアッと表情を明るくする。
普通は臣下である二人がフェリシアに礼を執るのがマナーだが、フェリシアは二人に関しては堅苦しいマナーを省くことを許していた。
その後、二人の間で言い争いが始まる。
「ちょっとライニール、今フェリシアは私に手を振って微笑んでくれたの! あんたじゃないわ!」
「いいや、フェリシア様はトゥーナではなく婚約者であるこの僕に手を振って微笑みかけてくれたんだ! というか、フェリシア様のことを馴れ馴れしく呼び捨てにするな!」
「私はフェリシアの従妹で親友なのよ! それに、フェリシアが敬称を付けなくて良いって言ってくれたんだから! ライニールこそ、婚約者だか何だか知らないけれどフェリシアに馴れ馴れしくし過ぎよ!」
「お前はフェリシア様の優しさに甘え過ぎだ! それに僕はヴィルヘルミナ女王陛下やマレイン王配殿下、それからフェリシア様の兄君であられる王子殿下達に認められたんだ! フェリシア様に相応しいと!」
ライニール・ノアハ・ファン・オーヴァイエとトゥーナ・ヘルディナ・ファン・エフモント。フェリシアの婚約者と親友である。
ライニールはオーヴァイエ筆頭公爵家次男で、トゥーナはエフモント公爵家長女である。ちなみにフェリシアの父親である王配マレインはエフモント公爵家の人間なのだ。だからフェリシアとトゥーナは従姉妹同士なのである。
フェリシア、ライニール、トゥーナは全員今年十七歳になる。
三人は幼い頃から交流があるのだ。
「ライニールとトゥーナ、仲が良いわね」
フェリシアは言い争う二人を見てふふっと笑った。
「……左様でございましょうか? 犬猿の仲に見えますが……」
側に控えていた侍女はフェリシアの言葉に困惑している。
「喧嘩する程仲が良いと言うじゃない」
フェリシアは相変わらずライニールとトゥーナを見て、楽しそうに微笑んでいた。
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「ライニール、トゥーナ、今日は相談があって二人を呼んだの」
フェリシアは王宮にある私室にライニールとトゥーナを招いていた。
「フェリシア様からの相談。お力になれることは何でもしますよ」
ライニールはタンザナイトの目を輝かせている。その様子はまるで尻尾を振る犬のようだ。
フェリシアはそんな婚約者の様子が可愛らしいと思い、表情を綻ばせる。
「ライニールったらやる気になっちゃって。正直、フェリシアと同性の私の方が力になれることが多いわ。婚約者だからと言って自惚れ過ぎよ。フェリシアにとっての一番は私に決まってるじゃない」
「トゥーナ、自惚れ過ぎているのはお前だろう」
またもや言い争う二人である。
幼い頃から変わらない様子に、フェリシアはクスクスと笑ってしまう。
「まあまあ二人とも、私はライニールもトゥーナも昔から大好きよ」
フェリシアがそう言うと、ライニールとトゥーナはパアッと表情を輝かせた。
「それで、相談というのは、今度のオーヴァイエ筆頭公爵家長男オリヴィエと、ナルフェック王国のメルクール筆頭公爵家ファネット嬢の結婚式のことなの」
ライニールの兄オリヴィエとファネットの結婚は、ドレンダレン王国と隣国であるナルフェック王国にとって重要なものである。現在、ドレンダレン王国とナルフェック王国の関係は良好だが、筆頭公爵家同士の婚姻により更に結びつきを強めようとしているのだ。
「フェリシア、オリヴィエ卿とファネット嬢の結婚式がどうかしたの?」
トゥーナはきょとんとした様子だ。
「ええ。実は、着て行くドレスや髪型で悩んでいるの。二択までは絞れたのだけど、二人はどちらが良いと思うかしら?」
フェリシアはドレスのデザインと髪型のデザインが書かれた紙を取り出した。
水色のドレスと黄色のドレス、花束のようなシニョンと編み込みハーフアップ、この二択に絞られていた。
するとライニールとトゥーナは口を揃えて答える。
「「ドレスは清楚さと大人っぽさが共存する水色! 髪型はフェリシア(様)の可憐さが引き立つ編み込みハーフアップ!」」
見事にハモっており、ライニールとトゥーナは互いに睨み合う。
(やっぱり二人は仲が良いわ。でも、少しモヤモヤするからそれ以上は仲良くならないでね)
フェリシアは二人を見て穏やかに微笑むのであった。
今日もドレンダレン王国は平和である。
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ヒーローvsヒロインの女友達(もしくは姉妹)の構図が好きなので本作品を書いてみました。