天使と悪魔とイカ
「いただきまーす」
さあ、飯のお時間がやって参りました。今日の晩飯は、高級ティッシュの素揚げです。
「まずっ!」
あまり美味しくはなかったですが、食べ物を粗末にするとイカになりますので、残さず食べました。エライ!んー、でもなんかヌメヌメするなー。
「あっ!」
私は、イカになっていました。どうして分かったかって?鏡を見たからです。イカは知能が高く、鏡に写った自分の姿を、自分だと認識できます。これを(鏡像自己認知)と言います。
「え、イカになったということは、骨がなくなったということか!?やべえ!」
いや、そこじゃねえだろ!どうやらイカになったので、頭がイカれてしまったようです。高知能かイカれポンチか、どっちかにしろよ!私がセルフツッコミをしていると、窓の外に人影が見えました。いや、ここ5階だけど!?私は、恐る恐る窓を開けました。すると、そこにはかわいい天使の女の子が、羽をパタパタさせて浮かんでいました。
「こんばんは、イカです。ご機嫌イカが?」
「酒飲みすぎて死にそうなの。ちょっと吐かせて」
発言は可愛くありませんでしたが、仕方ないのでトイレを貸してあげました。
「ふう、スッキリしたわ」
「具合はイカがですか?」
「わあああああ!イカが喋ったあああああああああ!?」
「いや、今かよ」
私は、彼女を安心させるため、ことの顛末を天使に話し、人間であることを伝えました。
「なるほど。つまりアンタは、ティッシュを素揚げにして食べる、変態人間だったということね」
「その誤解を招く理解の仕方は、やめてもらえます?窓から放り投げますよ」
「でもどうしてイカに?」
「それはこっちが聞きたいです。ところで、あなたこそ何者ですか?」
すると、天使はほっぺに指を当てて、可愛いらしいポーズを取って言いました。
「アタイは可愛い天使の(グリグリ座衛門)よ!グーちゃんって呼んでね!えっへん!」
しかし、その名前は、見た目とは裏腹に、絶望的に可愛くありませんでした。その見た目でその名前、イカん。
「グ、グリグリ座衛門のグーちゃん?で、いいんですかね......てかグーちゃん、未成年飲酒はダメですよ」
「......?未成年って、お酒飲んじゃダメなの?」
「はい、ダメです。法律で禁止されています」
「天使に法律は関係ないわよ」
「じゃあイッカ。でも飲み過ぎは良くないですよ。お酒は適量を守って下さい」
私がそう言うと、グーちゃんは、悲しそうな顔をしました。
「だって、もうすぐ世界が終わるのよ。もう、どうだっていいじゃない」
「せ、世界が終わる!?」
グーちゃんは、とんでもないことを言いました。世界が終わる......しかし、私の人生は、イカになった時点で終了しています。
「昨夜、悪魔が天使界に乗り込んで来たの。アタイは、ピザの配達をしていて助かったけど、他のみんなは......」
「......死んでしまったんだね」
「全員、説得されて悪魔になったわ」
「いや、天使チョロ!」
「天使と悪魔は対をなし、善悪を制御する存在よ。そのバランスが崩れたら、世界が終わっちゃうの......」
グーちゃんは泣いてしまいました。私はグーちゃんの肩をさすり、そっと涙を拭いてあげました。
「......ちょっといいかしら?」
「はい、どうされましたか?」
「イカに身体触られる気持ち、分かる?」
「......すいませんでした」
私はグーちゃんをベッドに寝かせ、少し離れた床で眠りました。世界が、終わる。私は怖くて、8時間しか眠れませんでした。
朝起きたら、私はスルメになっていました。ってオオオオオオオオオオオオイ!
「あ、もう起きたの?せっかくいいおつまみになると思ったのに」
「トイレ貸した恩人に対して、酷いじゃなイカ!」
私は急いでシャワーを浴び、なんとか一命を取り留めました。リビングに戻ると、グーちゃんは冷蔵庫を漁っていました。
「ねーお腹すいたわ。酒とご飯ないのー?」
「何もないからティッシュ食べてたんですがね」
「チェー。じゃあ魔法で出そうっと」
「魔法で出せるなら、初めからそうしろや!」
「だって、魔法使うと疲れるんだもん」
そう言うと、グーちゃんは手のひらを突き出し、呪文を唱えました。
「出よ◯ェンロン!そして願いを叶えたm......」
「やめんかーい!」
バシッ!
「イッタアイ!もう、何すんのよ!」
「それはこっちのセリフですよ!それはダメ!もろパクリじゃなイカ!てかそもそもそれ、ドラ◯ンボール集めないと使えないんじゃなイカ!?」
「天使だから何でもできるの!嫌なら編集でカットしてよ!」
※諸事情により割愛※
「ふう。確かに酒と食べ物は出てきましたが、空が暗くなって、派手にシェ◯ロンが出ましましたから、悪魔に居場所がバレてしまったのでは?」
「大丈夫大丈夫!どうせ世界は終わるから!」
「いや、大丈夫じゃねぇよ!」
プシュッ!
「プハア〜!ス◯ゼロ美味ッ!」
グーちゃんは床にあぐらをかいて、朝飲みを始めました。
「......あなた、本当に天使ですか?」
「お、ノリ悪いねイカさん。一緒に飲みましょうよ!」
「いや、イカに酒を勧められましても。でもまあ、この姿で仕事にも行けないし、世界が終わる前にイッパイやるのもいイカな。イカだけに!」
「おー!最高ね、イカさん!じゃ、カンパーイ!」
「乾杯!」
こうして、私とグーちゃんの朝飲み会が始まりました。
ピンポーン!
「お、来ましたよ」
「ハーイ!」
ガチャ。
「こんにちは!アクマピザです。あっ!お前、グリグリ座衛門!」
「ゲゲッ!大天使様!?」
「お前がシフトに穴開けてるから、俺が配達してんだぞ!そんなことより、お代は2980円(税込)です」
「ごめんなさい!でも今宅飲みで忙しいのよ!......えーと3千円からで」
「何が宅飲みだ!こっちはお前のせいで大忙しなんだぞ!......っと、早く次の家へ配達しないと。お前は大丈夫みたいだが、くれぐれも悪魔には気をつけろよ。ハイ、お釣り30円毎度あり」
バタン!
「どうされました?宅配の方と何かありましたか?」
「いや、お釣り間違いで10円儲かったわ」
「というか、3千円はどうやって手に入れたのですか?」
「シェン◯ン」
「悪魔かよ」
(ここで臨時ニュースです)
「よし!もう一戦やりましょ!」
「少しは手加減して下さい。こっちはイカですよ」
(現在、街では包丁を持った人が複数人暴れています。警察は既に数人の身柄を確保していますが、全ての人の確保には至っておらず、危険な状況が続いています)
「あ、世界が終わり始めたわね。うわっ!その攻撃はナシでしょ!?」
(たった今入ったニュースです。西京タワーが爆発しました。タワーの麓には、弾丸のカケラが落ちており、何者かがロケットランチャーで狙撃したようです)
「いくらイカでも、人間の頃は毎日やってましたからね。このくらいはいけますよ。おっと!」
(信じられないニュースが入って参りました。川破内閣総理大臣が、何者かに狙撃され死亡しました。警察が、犯人を確保しようとしたところ、犯人は自らを発砲し、命を経ったとのことです)
「テレビ、うるさいわね。消しましょ」
プチッ!
「ふぅ!酒も飲んだし、ピザもお腹いっぱい!スマプラもやったね。最後、何したい?」
グーちゃんはかなり酔っていて、少し喋りにくそうです。外からは警報音と爆撃の音が聞こえます。グーちゃんの天使の力で、ここは安全ですが、そろそろ世界は終わるみたいです。
「じゃあ、最期は麻薬漬けにしなイカ」
「そう言うと思って、さっき酒と一緒に魔法で出しておいたわよ。アタイは詳しくないけど、へろいんって言うみたい」
グーちゃんはフラフラしながら、瓶に入った大量のヘロインをお皿に盛ってくれました。
「イカさんは身体が粘膜だから、そのまま粉に身体を埋めればキメられるわよ。私は注射するね」
私は、まずはそっと、ヘロインの山に足を突っ込んでみました。すると、足先からとてつもない快感が押し寄せてきました。私はそのまま吸い寄せられるように、ヘロインの山に埋まりました。ドクドク......ああ、世界はなんと美しいのでしょう!最高の世界!最高の酩酊!世界は美しい!
「あはは!楽しいねー」
気がつくと、グーちゃんも注射を打ち終わり、完全にキマッていました。
「あれ?背中がかゆいよーポリポリ」
すると、グーちゃんの背中から、羽がポロリと落ちました。
「羽、取れちゃった。もう天使じゃなくなっちゃった。でも、楽しいからなんでもいいや!」
その瞬間、激しい爆発音がして、部屋中が燃え上がりました。グーちゃんが天使の力を失ったので、爆撃を防げなくなったのです。そして、再び爆発音が轟き、私はヘロインの山から吹き飛ばされ、燃え盛る炎の中に落ちました。
「わあ、凄い!全然熱くないじゃなイカ!でも身体がスルメになってしまう、助けて下さい!」
しかし、微かに見えたグーちゃんの姿は、まるで別人でした。炎に焼かれ、不気味に微笑む彼女の姿は、まるで......あk......