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虚神乱舞〜南海奇潭〜前編

この作品は、要塞好きさんのご好意により提供されております

<脆弱な燈火なら要らない、ぬくもりも知らない。逝けば良い、瞳閉じる前に幕を下ろすから>


ーラストダンスよりー








よいまちづき・CIC




『当該目標を今後はルサルカと呼称する。だそうですよ』

永野はモニターの向こうに映る男に対して肩をすくめた

『ルサルカ?聞いたことないな』

『ロシアの水妖です。サイレーンと同じような系統に含まれましょう』

歌声で水辺に呼び寄せ、海中に引きずり込むあれだ

『悪い、全然わからん』

『ああ、こちらの話で例えられてもわかりませんよね。うーん』

彼の名はビリュー、訓練中だったよいまちづきに接触してきた異世界のデータ生命体だ。魂といって良いのかもしれない

『で、で?俺のことは?』

興味津々といった具合で聞いてくる、いやいや、官の付ける名前にあまり期待するもんじゃないですよ?

『・・・電子体幽霊(ワイヤードゴースト)だそうです』

ビリューの顔が引きつる。特に、拘束(ワイヤード)の部分で。繋がれてはいないけれども首筋をなでる、なんもついてない。うんうん

『ともかく、戦力的増援はありません。第二艦隊は台湾沖に展開するだけでルサルカとの積極的交戦は避けます』

『やっぱりデータは信用してもらえなかったわけか・・・』

今度はビリューが肩を落とす。相手は全高270メートルに及ぶ、大型海上制圧要塞艦。光学兵器を兵装の主体とし、電磁推進+アルキメディアンスクリューというドリル(氷砕船などに活用例がある。これを利用してなら砂浜程度には上陸できるだろう)を推進力として格闘戦すら行う化け物・・・この時代の戦力がどれだけあっても足りないと感じる

しかし、そんなビリューに永野は首を横に振った

『データそのものは信頼されています。現に、ルサルカが台湾海峡の阻止限界点を越えた場合、第二艦隊は全面核攻撃を行うそうです』

『そりゃ核反応弾の連続攻撃は効くだろうがさ』

汚染とかどうするつもりだよ、おい

『・・・今我々が行っている戦争は、火山噴火にともなう非積極的な東南アジアでの人口調整の面があります』

『ゲスいなぁ』

つまり、海洋汚染で死ぬ南シナ海沿岸の人間なぞ知った事じゃあないってわけだ。ここまで邪悪な味方もないんじゃなかろうか?

『少なくとも我々が壊滅するまでは待ってくれるだけの寛容さはありますよ』

第三艦隊は緊急展開や低烈度紛争に対する艦隊であるだけでなく、最終戦争に対する最後のセイフティネットでもあるのだ

『たった、26隻の艦隊でねぇ』

『・・・その昔、ルサルカ、という妖怪から逃げる為にお守りをロシアの人々は作ったそうです。ニガヨモギを使って・・・別名でチェルノブイリというのですが』

あー、なーるほど、そういう意味か

『ルサルカを最初の犠牲者が倒してしまえばお守りは必要ないってことかよ』

つまり、俺が倒せといってるわけだ。まぁ、それをいわれちゃうと、俺も弱い。なにせ、あのぶっ壊れた廃棄物のデータが、まさか別の世界まで飛び込んで、長い時間をかけてトランス○ォーマー的に実体化するなんて考えてもいなかったから

出された起動完了の発信にあわてて考えた対応が、自分もデータとしてその世界で実体化し、破壊すること。しかし時間も規模も足りない(勝つために容量の大きいデータを送ったんでフリーズ寸前?)ので、まずは現地の奴らにアドバイスしていくしかやりようがなかったのだ

『現状で出来る機体で潰せんのですか?』

永野が聞いてくる

『今攻撃くらったら死ねる。勘弁してくれ・・・とはいえないか』

身から出た錆だ。しかもそれに、周辺域約四億人の緩慢な死がかかってるとなれば、やるしかない

『至近距離に飛び込んでブチかますしかないなぁ』

遠距離でやってもいいが、戦域の範囲が広くなりすぎる。唯一好意的に手を回してくれている第三艦隊のサポートを受けれなくなるし、周辺都市を巻き込みかねない

『感謝を。では、艦隊司令部につなぎます。少々お待ちを』

消えた画面に、ビリューはため息をつく。担当の永野とかいう若い士官は悪い人ではないみたいだが、理屈っぽくてなにかと疲れる。そして、自機の状態をチェックする



『接合部しかねぇええええっ!!!\(^O^)/』




簡単に言えばデンド○ビウムのステイメンしかない状況だ。元の化け物ぶりからすれば、罰ゲームもいいとこだ

『これで戦うとか、馬鹿なの?死ぬの?』

妹が聞いたら絶対そう宣う事だろう。だが、だ。もしこれで勝ったならば

『すごーい、さっすがお兄ちゃん♪くらいは言ってくれるに違いない』





『・・・』

『・・・』




永野中佐と、ハゲの・・・確か寺津中将がモニターに映っていた

『・・・ど、どこから』

『お兄ちゃん♪の部分からですかな』

冷静に小林○志ヴォイスで声真似しないでください


『妹君がおられますか』

『ええ!義がつきますけどね!私たち宙魂には・・・』

照れ隠しに多弁になりそうな所を、寺津中将は遮った

『なるほど、親愛の情があるのなら・・・問題は生じますまい。これを御覧いただけますかな?』

映像が送られてくる

『こいつは・・・』






音声は入っていない。輸送船団だろうか?随伴には・・・はつゆき級のような護衛艦と、ミサイル艇がいくらか




キラッ!




海面を光が凪いだ



ズドドドドド!!!



その熱量を受けて、一列に水蒸気爆発の水柱が立ち上った。断ち切られるように貫かれた護衛艦と輸送船数隻は一瞬遅れて爆発

ここで護衛が初めて反撃を開始した。ミサイルだ。だが、放たれたミサイルに効果が無いことを俺は理解している。しばらくして、航跡が乱れ始める。ああ、散開して犠牲を減らそうって魂胆か、指揮官はなかなか出来る人間みたいだな



バキャッ!



だが、遅かった。ミサイル艇が弾け飛んだ。本来であればありえない、蹴り飛ばされるという行為によって

そして画面には光が満ちていき、暗転した




『今のは?』

『フィリピン海軍から提供してもらったものだ。彼らはルソン島北部から、火山灰から逃れる民間人の輸送船団を護衛していた。この映像は、運良くその時間帯哨戒に出ていたヘリが回収した』

一般市民だけで軽く二万人を越えて行方不明・・・生存は絶望的だ

『君に疑われぬよう、テロップなぞ入れず、そのまま渡させてもらった』

『わかりますよ、奴の手口だというぐらい』

だが、少し引っ掛かった

『攻撃が遅くないですか?それに、あんなに図太いものじゃ・・・』

光学兵器はその名の通り、光の速さで飛ぶため発射即弾着が正しい。チンダル現象を元に見える光の筋は、対象を燃え上がらせ貫通するための照射時間がもたらしたものだ。でも、画像のこれは、あきらかに遅い。物凄く遅い、今計算した。マッハ5くらい・・・下手なミサイルの最高速より遅いじゃないか!

『・・・専門機関で調査してられませんでしたので、これは我々の推測でしかありませんが』

今度は永野中佐が切り出した

『核融合炉は、原理としてプラズマを利用されますよね。おそらくそれを利用したのかと』

ちょっと待てぃ!

『まさか、内蔵のプラズマを生のままで放出したって!?』

『プラズマそのものを磁気でコントロールしてるんです。工夫さえしたら出来る芸当ですよ』

冗談じゃないぞ、つまり、4000度の熱を持った、マッハ5の物体をぶちかまされるなんて!

『それぐらいの速さがあれば、船舶は避けようがありません。ミサイルなら撃墜でもできましょうが、プラズマですから・・・理にはかなってます』

まぁ、光学兵器の常として減衰を考えなきゃいけないより、単純に物ぶっこみゃあ良いなんて乱暴で非効率な!

『狂ってるにもほどがある』

『では、我々の上層部が何故狂気で対抗せねばならなかったのかも理解されましたかな?』

狂気には狂気を以て抗う、か。なるほど




『で、自称健全者たる我々はどう戦うのですか?お二方』




二人は画面の前で、にやりと笑った

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