機動戦艦紀伊VSドゥーチェ〜パスタ、覚えていますか?〜
このエピソードは草薙先生のご好意により掲載させていただいているものです
ドイツ艦隊と英米連合軍との決戦を控えた航海中のある日、この機動戦艦紀伊の艦魂である凛は、忙中閑あり、といった状態であった。そこで艦内をぶらついてたのだけれども、勝手知ったる自分の艦だ、行く所もなくなってしまったのである
『あ゛ーっ!ヒマーッ!なんでこんな時に暇になるのよー!』
勝手なことも、うかつなお喋りも出来ないし
『うーん。あ、そうだ!あれなら!』
どこに置いたっけ、あれは
『あった!』
ヘッドマウントディスプレイ型のゲーム機を見つけだしてかぶる。そしてスイッチオン!
『えっと、データデータ、あった!』
未来世界の日本で造られた紀伊だけれども、
いつでもかつでも演習を実際に行うわけにもいかなかったので、シミュレーターがつくられてたのだ。艦魂のみんなで戦ったり、チャット気分で繋げてみたり、楽しかったなぁ・・・
『あ、明のデータだ』
今は亡き妹の・・・データがあるから、僚艦として設定できる。明は少なくともここでは生きていると言えるのかもしれない。だから、その設定でスタートボタンを押してみた
パァアアアアアッ!!!
かぶったHMDの画面が光に溢れる。ちょ、壊れてる!?
『まぶしっ!』
『目がっ!目がぁ〜!』
のたうち回る。待って、声が一人増えてる
『・・・』
『・・・』
チカチカする目をしばたいて相手を見る・・・まさか、明が!?
『・・・誰よあんた』
そんな事はなかった。誰かわからないけれども、どっかの戦艦の艦魂だ
『あらら?こんな設定あるの?最近のゲームは凄いのねぇ』
それはこっちの台詞だ、このゲームに無断で入ってくるなんて!
『ちょっとあんた!誰よ!』
ええと、データ照合して、と。はぁ?艦名はヴェニト・ムッソリーニ?ムッソリーニ!?
『あらあら、紀伊さんなの?でもずいぶん武装がすっきりしちゃったのねぇ?縛りプレイなのかしら?』
ちょ、ちょっと!触ってこないでよ!縛りプレイって!
『へ、変態!ド変態!私にそんな趣味はないわよ!』
『・・・貴女、紀伊さんじゃないわね。少なくとも、うちの世界じゃない』
急に変態の声色が変わった。なにやらあちらもデータを見ている。今のこちらの世界のってどういう意味よ
『私はイタリア王立海軍戦艦、ヴェニト・ムッソリーニ、セレナかセレネと呼んでください。よろしくね♪』
『・・・日本海軍の機動戦艦。紀伊、よ』
互いに自己紹介する。イタリア王立海軍?敵じゃないの!たぶん・・・(汗)まぁどうでも良いわ、明が出てくるかも、と、ちょっと期待していた自分が腹立たしいし。八つ当りしてやる・・・!
『えぇと、何がどうなってるか知らないけど、戦うのかしらね?設定じゃそうなってるみたいだけど』
『さっさとやりましょ、あなたみたいな普通の戦艦が、私に勝てるわけないですけど』
どうやって痛め付けてやろうかしら?一応46センチ砲を持ってるみたいだから、不用意には近づかないようにしてっと
『すっごい自信ですね・・・それじゃあはじめましょうか♪』
最初の戦闘距離は4万メートルね。戦艦同士戦うにはそこそこな距離かしら、流石にこっちはアイギスもあるし可哀相だから、一発は撃たせてあげましょ
ドドドドドド!!!
あ、言ってるそばから撃って来た。弾は結構バラけてる。私の正確な射撃には到底かなわないレベル。さぁて、どう料理してあげようかしr
ピカッ!ドォオオオン!!!
『きゃっ!?キャアアアアッー!!!』
いきなりの閃光と爆風、そして熱。これはもしかしなくても!
『ちょ、ちょ、ちょっと!セレナとか言ったわね!待ちなさいよっ!いきなり核攻撃なんてありっ!?』
緊急で通信を繋げる
『はい?だって、紀伊さん40年も先の未来の戦艦なんでしょう?見せていただいたデータからしてもの凄い性能じゃないですか』
セレナとか言った艦魂は嫌味でなく、普通に言ってのけた
『そんな相手に、なんで核を使っちゃ駄目なのですか?』
『そ、それは・・・』
凛は言葉に詰まる。自分で言っておいてなんだけど、今度の決戦じゃ私が積んでる核ミサイルを使うことになるかもしれない。でも、核をどう使って戦っていくかなんて考えてもなかった
『だったら、私も使って良いのよね?』
もうちょっと考えてみるべきかも
『えー?勘弁してもらいたいなぁ〜、たはは。まぁいいや、たぶんあたしの性能諸元よく見てなかったんだと思うけど、私も核砲弾はあと8発あるから・・・存分に戦いましょ?』
最後に存分に戦いましょうといった彼女の笑みは、妖美と言って良いほど研ぎ澄まされていた
『ええいっ!』
侮ってた。ううん、侮り過ぎてた。簡単に片がつく相手じゃない!
ドン!ドン!ドン!ドン!
距離をもっと取るべく、セレナから離れながら紀伊は46センチ速射砲を放つ。演算計算はバッチリ、あの女の針路上に間違いなく当てられる
『うそぉっ!』
ぎりぎりのところで避けられた。30ノット出てない船に!
『あまりに射撃が正確すぎるわ。故に読みやすく避けやすいの。針路上の定点にその着弾予想地点が重なりまくってたら、回避ぐらいします』
それに紀伊より加速性能はどうしようもないけれど、舵の利きに関しては有利だ
『くうっ!』
そうだった。私が持ってる単装砲と較べて、三連装三基持ったまま改装された過去世界の撫子が、対艦戦闘の攻撃力じゃ私より上なんて言われてたけど、こういう事なのね!包み込むようなバラけが足りないんだわ・・・!
それに、相手は時代が古いとはいえ40年ぐらいの前であれば、対砲レーダーぐらい持ってる。弾道観測で弾着予想地点を避けるくらいはするわ、確かに!
『では、次はこちらから』
セレナはそういって重鉄扇を広げてこちらに向ける
ドドドドドド!
あっちの主砲弾だ、もしかしたら核砲弾かもしれない。弾が結構バラけてるから、むしろ厄介。だって、どの砲弾が通常で、どれが核砲弾なのかはわからないのだから、全部が核だと思って対応しなきゃ・・・!
『もうっ!』
舵を切る。近づくのは良くないと思ったから、もう一度離れるように。そのせいで単装砲の射界から外してしまうけど、仕方ないわ
でも、私の攻撃手段が失われたわけじゃない!
『対艦ミサイル用意!』
いくら撃てばいいかしら?セルは130、外置きのランチャーは六基、全部が全部対艦ミサイルじゃないから・・・ええと
『考えなきゃ』
そう、この後本当に戦うことになるはずのドイツの機動戦艦たち・・・明の仇を取るのだって、それだけじゃ足りない。一隻撃沈して弾庫が空っぽじゃ駄目、無駄弾は撃たないようにしなきゃ!
『・・・ふぅ、上手くいった、かな?』
あの紀伊さんは最初に撃った核のおかげで距離を取りつつある。もし至近距離での戦闘であれば、あの速度で砲塔の旋回がおっつかなくなるところだった。もちろん自爆覚悟で核使ったり、偶然の零距離射撃で差し違えられなくはないんでしょうけど
『それじゃあ駄目なのよねぇ』
いかに自分の戦いやすいスタイルに近付けるか。これが一番大事なの。場を作ると言ったほうが良いのかしら?
『まぁ、私だって実際は核をホイホイ使う気はないんだけどね』
ああでもしなきゃ、あの娘の性能に対するブラフにならないもの。一度は使わなきゃ
『今の態勢で彼女に残された有効な攻撃手段は一つ』
ピピピピッ
ミサイルによる飽和攻撃・・・!
『あの娘なら!』
おそらく次は、全力を投入してくる。だったら、核砲弾のもう一つの使い方よ
『弾種!N弾頭!』
本来ならば随伴艦の対空火力が期待できるので、通常の対空弾頭(ベアリングボール弾)を使用するけれども、40年先のミサイル。ECM能力は絶対的にこちらが不利、ECMで絶対的な要素である出力も核融合にはとてもじゃないけど勝てない。でも、同じ核であればどうかしら!
『アゴーニ!(撃てっ!)』
ドドドドドドド!!!
轟音と共に、核弾頭の一発と対空弾頭の双方が放たれる
ピカッ!
再び空が光る。この距離だから最適効率での迎撃には程遠いでしょうから
『AAM、CIWS起動!対空戦闘!舵を!』
抜けて来るであろうミサイルに備える。そして、火力の一番発揮できる艦腹を相手にみせる
『赤外線画像によるターゲッティング!』
ラダールが駄目でも、赤外線なら水平線の距離ぐらいの像を拾える!
『・・・え?敵影なし?』
一基も飛行を続けているものはない。いくら核だからといって完全な迎撃なんて・・・
『かかったわね!虚実織り交ぜた攻撃が出来るのはあなただけじゃないって事よ!』
『なっ・・・!?』
回復してきたラダールのフリップに、光点が何個も点滅する
『VLSの中身がどれがどる何てわかりようがないわ!それに、中身が一発なんて誰が決めたのかしら?』
対空ミサイルのクァッドパック(4発入り。ESSMがそれ)を対空ミサイルと見せ掛けて撃ったのだ。並みの巡航ミサイルより速いからバレるかバレないかは掛けだったけど
『あんたは全力全壊だから引っ掛かった!』
そして、あえて巡航ミサイルに見せ掛けやすいVLAを残した事も凛の中では満足だった。ドイツの機動戦艦には潜水出来る奴もいる。攻撃手段を減らさないように出来た・・・!
『ふふっ!いいわ、だからと言って、なぁめぇるなぁあああああっ!!!』
セレナはミサイルに対する迎撃を開始する。片舷に設置してあるOTOメララの5in高角砲と25ミリファランクスが吠え、外置きの八発しか搭載していない対空ミサイルが空を駆ける
『伊達に未来に生きてないわよ!セレナ!』
ミサイルは進路を変えて全て艦首からセレナへとアプローチを行う。どうしてもそちらは主砲があるために、対空砲火網に穴が生じる。それを埋める為に随伴艦が居て艦隊となるのだが、今ここにそれはない
『くっ!副砲!シェルショット!』
迫り来るミサイルに、セレナは副砲に命令を下した。シェルショット・・・砲身から出た時点でボールベアリングを撃ちだすものだ、実際の所葡萄弾に近いが、ホップアップするミサイルに対して装備されたものだが、あくまで舷側にぶっぱなすものであり、正面には本来撃てない・・・大和級に準じた配置であれば別だったろうが、あいにくセレナはリットリオに準じた配置である
『くうっ!なぁめぇるなぁあああああっ!!!』
セレナの胸元の服がちぎれて飛ぶ。自分で自分を撃ったも同然だ。しかし、ミサイルはなんとか迎撃に成功する
『悪いわね、こんな所で負けるわけにはいかないの』
この隙を逃す凛ではない。速力を生かして後方に回る。セレナは普通の戦艦、ちゃんとした砲撃をするなら、六門以上撃たないとろくな観測が出来ない。この位置からならば、一方的に打ち込める
『トドメよ!!!』
『討った!!!』
紀伊の速射砲の果断無い射撃音と、それを見越して待ち構えていたセレナの三番砲塔から一度きりの砲声が響く。背後から日本刀による鋭い突きを繰り出す凛と、振り向きざまに重鉄扇で弧を描くセレナが交錯する
『あいたたた、負けた負けた、すごかったぁ〜♪』
結果が画面に出る。セレナの撃沈判定、凛の勝ちだ
『つ、疲れた・・・って!ちょっと!』
『あららららら!』
セレナは今さっき、自分で胸元の服を吹っ飛ばした。そして凛の斬撃を背中から受けたわけで、辛うじて残っていたブラが落ちる・・・うわぁーい、大きいなぁ♪て、何故セレナさんは自分じゃなくて私を・・・
『きゃ・・・きゃああああああっ!!!』
最後にセレナが放った砲弾は核砲弾で、道連れを狙ったものだったけれども、急な発射だった事もあり当てずっぽうで紀伊をオーバーハングして炸裂。その後甲板を、多少こんがり焼いた程度だったのだが、凛はどうなっていたかというと・・・パンツじゃ○いから恥ずかしくないもん!であった
紀伊のとある一室
『うむ、まぁこんなものでしょうかな?草薙先生』
『い、いろいろアウトなのではないでしょうか?あ、録画ですか?バッチリです』
『演習にリスクがないでは、いけませんからなぁ。かといって怪我は流石にさせられませんし』
『あとで焼き増しして皆に配ります』
『大変結構。役立ててもらえれば恐悦至極』
ドタドタドタ!!!
破滅の足音が聞こえてくる
『ごるぁああああああっ!!!草薙ぃっ!またあんたかぁあああっ!って誰こいつ?』
『げぇっ!凛様!』
『これはこれは、水底と申します』
しかし手には先程の二人の写真!
『そ、それは!』
『演習の結果は記録するものです。映像は核を使ったとはいえ、通常型の戦艦でも機動戦艦を苦しめるくらいは出来るという可能性を示すことが出来るでしょう。なにか問題でも?』
『へ?え?うぅ・・・』
訳のわからない気迫に押される凛
カチャリ
『相変わらず、変態紳士ぶりにもほどがありますよ、作者』
セレナが拳銃を頭に突き付けて笑う
『・・・これはシナリオに無い出演者ですなぁ、セレナ女史。私は両国海軍の親交を計ろうと企てただけですよ。冗談は止していただきたい』
『作者も意外と甘いようで』
ダンッ!
水底さんは(頭が)ログアウトしますた
『さ・て・と♪』
ピッと広げた重鉄扇が草薙先生の首元に・・・血がしたたってますよこれ!
『次はありませんよ?たぶん、ね♪』
それだけいって、セレナもログアウトする。なにかを凛に告げて
『草薙』
『は、はいっ!なんでしょう凛様!?』
戦々恐々の草薙先生を余所に、凛は薄く笑っていた。いつかまた、やり合いましょ♪だって。まっぴらごめんよ、めんどくさくてやになっちゃう。でも、そんな相手が居ても少しはいいのかもしれない
『疲れたから寝るわ』
決戦前に、張り詰めたままであった凛の気持ちが少し和らぐことが出来たのは、果たして幸であったのか、不幸であったのか・・・それは本人にしかわからない