初雪と雪解け
「ごめん、好きな奴がいるんだ」
「……そんな気が、してました」
後輩は泣きそうな顔で笑って、卒業前に告白できてよかったです!と言うと走り去っていった。
その姿をぼうっと見つめていると頬に冷たいものが触れる。
ゆっくりと空を見上げれば視界に入ったのはいくつかの白い物体。
「どうりで寒いわけだ」
落ちて来た雪を拾うように手を出せば、雪はあっという間に溶けてなくなる。
十一月上旬。少し早めの初雪。
いつも隣にいたあいつに恋をしていると気づいたのも初雪が降った日だったなとふと思い出す。
それからというもの毎年訪れる初雪が俺にとって少しだけ特別だ。
幼馴染である菜乃佳に恋をしていると気づいて、約八年ほど。幼稚園から中学校までは何もしなくても一緒で、高校は必死になって菜乃佳が受ける高校に合格できるよう勉強した。
そのことに後悔はしていないし、同じ場所にしてよかったと思っているけど、高校卒業後も好きな奴と同じ場所、なんて甘い事は言ってられない。
菜乃佳は母親である皐月さんとのすれ違いがなくなってから、フォトグラファーへの道を一歩ずつ進めている。俺と一緒にしていた進学先も夢のために変えた。
その事は嬉しいはずなのに寂しい。
菜乃佳が大学生になったら一人暮らしをしたいと言っている以上、家が隣だからって預けられている合鍵もなんの意味もなさない。
一つ息を吐き出して、ポツリとつぶやく。
「どうすっかな……」
一人で考えていてもどうにもならないなと察して、久しぶりの奴に連絡する。
❅*॰ॱ❅*॰ॱ❅*॰ॱ
「……一大事って言うから来たんだけど」
「中学生の頃から幼馴染と付き合っているお前には俺の気持ちなんて分からないだろうが俺にとっては一大事だ」
小、中と同じだった雪哉は菜乃佳と俺の事もよく知っているから高校の友達に話すよりも楽でたまにこうして呼び出しているけど、雪哉はきまって面倒くさそうにしている。
「告白すれば」
「それが出来たら苦労しない。というか一度したのを雪哉は知ってるだろ」
「うん、綺麗にスルーされてた」
ポテトをつまみながら雪哉は少しだけ楽しそうに口元を釣り上げる。
いい笑い話にされているが俺にとってはあの時だって真剣だった。
「あいつの鈍さは今も健在なんだよ……。菜乃佳にこの先も寄り添う場所になれたらいいっていったら、あいつきょとんとしたんだぞ?今告白したって前みたいに何を今更?私も好きだよ!っていわれる!」
小学生の時のことを思い出して、握った拳を机に打ち付けると雪哉は呆れたような瞳を俺に向けてきた。
「あの時から何年経ってると思ってるんだよ。あれから一度も好きって言ってないんだろ?中学生の頃はよそよそしかったし。試してみてもいいだろ」
「玉砕が見えてんだけど」
「じゃあ、何もせずに他の人に取られるのを指くわえてみてるんだな」
そんな、考えたくもない事を言われて、俺は馬鹿みたいに菜乃佳の家の前で菜乃佳を待ってる。
「あれ、裕佑?」
「お帰り」
「ただいま。家に入らないの?いつも勝手に入ってるのに」
「言いたいことあって、言いに来ただけ」
俺の言葉に菜乃佳は首を傾げる。
俺はと言えば心臓がうるさいくらいになっていて、冷静を装うのに精一杯だ。一度深く息を吸い込んで菜乃佳の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「……あのさ。好きだよ。俺と付き合ってくれ」
「……え?」
好きという言葉を聞いた菜乃佳は目を丸くさせて何度か瞬きをした後、徐々に頬を赤くさせた。
「……卒業までに返事くれ」
答えを聞く勇気はなくて、逃げてしまったけど、菜乃佳の反応を見る限り、次に雪が溶ける頃には満開の春が訪れるかもしれないと思った。




