俺は万能魔法で異世界無双する
「はいわかりました、不具合が生じたならすぐお知らせしますね」
「ああ、頼む」
夜、就寝するテントの中で、
「その・・・ アルフィ、わたし汗臭くありませんか?」
「別に気にならないぞ、将来伴侶となる人の臭いが気になってどうする、むしろおれはエリフリーデの臭いが好きだ」
「もうー」
なぜかエリフリーデは、ほっぺたを膨らませ顔を赤くした。
「兄様、わたしは」
「マリィ、おまえとはいつも一緒に寝ているだろう、可愛い妹の臭いをこの兄が嫌がるわけないだろう」
「そうですよね、兄様」
妹も顔を赤く染めた。
妹とは幼い頃から一緒に寝ていたので、もう慣れてしまい、正直何も感じなくなっていた。エリフリーデからは、なんかこう甘い匂いがして、俺とは相性がいいと思っている。
その晩もテントに3人で一緒に就寝した。
◇
翌朝、各自準備を整え終えるとすぐに軍議が開かれた。
「アルフィ、偵察によると北方からやってくる1000の魔族は統率がとれていないのだったな」
「はいそうです、魔族の行軍の様子はダラダラと縦に長く、集団の数もまちまちで、中には100体ほどの小集団で行軍しているものもいました」
「その様子だと本当にまとまりというものがなさそうだな」
ルビーナ様は少しの間黙考すると、
「よし決めたぞ、今回は地上部隊を主力として魔族とあたることにする。飛竜部隊は本隊とはぐれている魔族をたたく、アルフィには我々部隊とは別行動をとり、東方からやってくる魔族軍の航空戦力を一掃して、帝国軍が戦いやすいようにしてほしい、制空権を確保できたら地上にいる魔族共は帝国軍に任せ、こちらに合流してほしい」
「ルビーナ様、それではこちらの戦闘におれが加われない恐れがありますがよろしいのですか?」
「我が地上軍は先の戦いにおいても後処理はかりで魔族とは正面からまともにやりあったことはない、そこで敵の数が少ないうちに地上部隊にも飛竜部隊による援助のない状態で魔族との戦闘を経験させておきたいのだ。数の上ではこちらが圧倒的に有利だ、魔族におくれをとることはあるまい、なに、不都合があったら魔道具でお前に知らせることにする、心配せずお前は思う存分行ってくるがよい」
「わかりました、ルビーナ様」
軍議は即断即決で終了し、エリフリーデたちには、ミラクルアーマー、ジャガーとコングをつけ、俺は一人、グレートファルコンで東に向け飛び立った。
飛行速度は120㎞以内に抑え、見逃しのないようにした。数時間後、東方より迫りくる魔族軍一万を捉える。
俺はファルコンの速度を落とし降下しながら、魔族にわざと見つかるように仕向けた。
魔族はファルコンをきちんと敵として見定めたのか、羽を持つ魔族や魔物たちが一斉に飛び立ってきた。
俺は高度500mあたりを維持しながら、火炎放射器やレーザー砲、ライトニングボルト等の魔法を駆使して迎え撃つ。迫りくる魔族を次々と撃ち払う。
数十分後、ファルコンに追いすがる者はなく、短時間で制空権を確保した。
(もうこのへんでいいだろう)
地上にいる魔族が戦闘態勢をとっていたが、それを無視して共和国軍に合流すべく、俺はその場をあとにした。
数時間後、北方側の戦場に到着してみると、俺の心配は杞憂に終わっていた。戦闘は共和国軍側の大勝利で終了していたのだ。
俺はルビーナ様に報告に着くと、
「アルフィ、ご苦労だった。こちら側は敵の数が少なかったこともあって、負傷者も少なく大勝利で終わらせることができた、で、東の状況は?」
「はいルビーナ様、おれがファルコンにて敵魔族軍の航空戦力をすべて片付けてまいりました、地上に残った魔族は8割ほどと思われます」
「そうか、敵の戦力を少しでも削ることができたのなら、それで良しとしようではないか、
帝国軍は魔族軍の倍以上、しかも精鋭部隊と聞いている、よもや魔族に遅れをとることはあるまい、あとは帝国軍を信頼し任せようではないか」
「そうですね、こちら側が勝利に終わるよう祈りましょう。ルビーナ様、この後われわれはどうするのですか」
「我々は一旦、あの放棄された王国の国境砦付近まで後退し、そこで休憩をとり補給を受ける。後に帝国軍と合流し、南方からやってくる魔族軍を撃つことになる」
「わかりました、おれはエリフリーデたちと合流し、準備が完全に整うまで一緒に行動をとることにします」
「そうしてくれ、帝国軍と合流後にあらためて指示を出す、それまでは体を休めておいてくれ」
「かしこまりました」
俺はエリフリーデたちと合流し、今回の魔族との戦いの概要を聞くことができた。
やはり敵方魔族軍には指揮官となる魔将軍はおらず、まとまりはなく小集団で活動しており、共和国軍側も2000人規模の師団に別け組織し、各師団毎に魔族と戦うことになった。敵魔族小集団は、100体から200体程度で、次々と各個撃破していったそうだ。
共和国軍地上部隊は、ダイカスト様指揮のもと連携攻撃に徹していたため、犠牲者を出すこともなく、負傷者も少なくすますことができたということだった。まさしく共和国軍側の快勝だ。この戦いにおいて勇者カグラは、本人の希望により、先陣をきって魔族に挑んでいたということだった。
ダイカスト様は、
〈勝って兜の緒を締めよ〉
ではないが、『今回の戦いはたまたま指揮官となる魔将軍がいなかったため、比較的楽に勝つことができたが、これからの戦いは違うぞ』と自軍を戒めたそうだ。
ダイカスト様の言う通りだ。この後我々は帝国軍と合流を果たしたのちには、3万にも及ぶ魔族と戦わなくてはならない、指揮を執っている魔将軍はどのような能力を持っているのかは、はかり知れない状況にあるのだ、全く油断することは出来ないのである。
◇
数日後、俺たち共和国軍は予定通り、補給を受けるため名もなき国境砦付近に到着した。
そこには補給物資を運んできた中隊規模の帝国兵が待機していた。
共和国軍は帝国軍と合流するまでこの場で野営することになった。
俺はこの間を利用して、魔族をより効果的に狩るための巨大兵器の製作に取り掛かった。
今回の巨大兵器にはさすがに魔導鉱石が足らずエクラマナイトで造ることはかなわない、そこでチタン合金等を使い、長さ50m、幅50m、高さは30mに及ぶ独楽型の巨大兵器を造ることにした。独楽型巨大兵器の端には、等間隔に8本のワイヤーを取り付け、レーザーや火炎、電撃等も放つことができるようにしておく。俺は人族や他の種族との戦争には決して使うことができない、対魔族専用の大量殺戮兵器を造りあげた。
この独楽型巨大兵器を“アブソルートアーマー”と名付けた。
◇
その数日後、東方に遠征していた帝国軍が戻ってきた。さしもの勇者ジュスタンも、その疲れ切った姿を晒し、ヘトヘトになっていた。ジュスタンはルビーナ様たちへの挨拶もそこそこに、用意された自身専用のテントの中へと消えて行った。
結果的に帝国軍は魔族には勝利したものの、5千名もの犠牲者を出してしまった。
残った2万5千の兵のうち、1万5千の兵士が自国へと帰ってゆき、決戦に備え新たに3万の兵が帝国より出兵してきた。これにより、南方からやってくる魔族軍3万に対し、帝国軍4万、共和国軍7000、合わせて4万7千の連合軍で戦うことになった。
帝国の将軍、バスムストが作戦を決めるための軍議を開く、
「まずわたしから提案申し上げる、今回の魔族とのいくさにおいては、中央に帝国軍3万を配置し、右翼に帝国の1万、左翼に共和国の7千を配置、敵軍を中央の帝国部隊が受け止め、左右から魔族どもを挟撃しこれを殲滅する、魔族どもを一網打尽にするのだ。なにか他に意見がございますかな、ルビーナ殿下」
将軍は自分の意見を推し通すつもりのようだ。
「敵をわが陣に誘い込むのはよしとしても、魔族に伏兵がいたらどうする、伏兵にこちらが逆に挟撃されるぞ」
「それでしたら共和国には飛竜があります、その飛竜で事前に索敵をしてはもらえないでしょうか」
「わかった、飛竜で前もって索敵に出ることにしよう、で、伏兵が見つかった場合はどうする」
「その場合には直ちに右翼と左翼を本隊に合流させ全軍をもってこれを退けます、このような方針でいかがですかなルビーナ殿下」
「基本的にはそれでよいのだが、わが飛竜部隊は臨機応変に別行動にて動きたいと思うがどうだ?」
「それはルビーナ殿下のよいようにされて下さい、わたしに共和国軍を縛る権利はありませんので」
「それならわたしに異議はない」
「これで決まりですな、共和国軍の皆様方、それに我が軍の兵士たちよ、この一戦に勝つことこそが本当の勝利だ、心してかかってほしい」
「「「「「「「「「 おお! 」」」」」」」」」」
出席者一同より雄叫びがあがる。
勇者ジュスタンは余程疲れていたのか、テントに引きこもったまま最後まで軍議には出てこなかった。
軍議が滞りなく終了すると、ルビーナ様は俺に、
「アルフィ、毎度すまないが今回もお前には先行してもらい、航空戦力を殲滅してもらいたい」
「はい、心得ておりますルビーナ様」
「今回の魔族の数は今迄の比ではない、お前といえども苦戦するかもしれない、だからこそ決して無理はするな、いさぎよく後退することも戦いだ、アルフィ肝に命じておけよ」
「はい、ルビーナ様」
俺の無限に近い魔力量を考えれば撤退などありえないのだが、ルビーナ様の言は万が一、不測の事態のことを考えてのことだろう。今回魔族に勝ったとしても、魔族との戦いがこれで終わるわけではないのだから。
◇
翌日、連合軍は南方からやってくる魔族軍を撃つために全軍あげて動き出す。
「それじゃ、エリフリーデ、マリィ、行ってくる」
「「お気をつけて」」
(こんな可愛い二人を残して死ぬわけにはいかない)
(必ず帰るから・・・)
妹とエリフリーデにはいつも通りジャガーとコングをつけ、タイミングを計り、俺はひとりグレートファルコンで行動を開始する。
魔族軍を捉えるため、高度は1000m以内、速度も100㎞ぐらいにおさえて飛行する。
数時間後、南方より行軍してくる魔族軍3万を捉えた。
この時、なんなのか理由はハッキリとはしないのだが、得体の知れない違和感を覚えた。
(きっと、俺自身の気の迷いかもしれない、今一度気をしっかりと引き締めなおさないと)
他の地域には飛竜部隊の斥候が数名出ているので、何か異変があればすぐに連絡がくる手筈になっている。この周辺には3万の魔族以外見当たらない。
(そんじゃ、いくとしますか)
高度を下げつつ魔族軍に近づくと、やはりというべきか、空を飛ぶことのできる魔族たちがファルコン目掛けて飛び立ってくる。
魔族たちがファルコンに近づくと攻撃を開始する。
(迎撃態勢、攻撃!)
「レーザー発射!」
「ファイヤーブレス!」
空中での魔族とのすれ違いさま魔法をお見舞いする、
「ライトニングボルト!」
しかし、今回は敵の数が多く、なかなか思うようにいかない。
「ええい、どんだけいるんだよ」
そこでファルコンの高度を少しづつ上げ、1000、2000、3000と殆どは脱落したが、なかには頑張ってファルコンに追いつこうとする魔族もいた。
(へえ~ けっこう頑張るじゃない、でもそろそろ限界かな)
俺はファルコンが一番上にあることを確認すると、
(よし! 今から降りつつ、魔族共を始末する)
近くの魔族から、空中戦で一対一の状況をつくり出し高度を下げながら、ひとつひとつ確実に始末していく。
(あらかたかたずいたな、あと、もう少しだ)
数時間後には敵魔族の航空戦力を一掃することが出来た。
(やった~ あとは地上にいるやつらだけだ)
魔族側の地上軍に近づくと、
さっそく造り上げたばかりのアブソルートアーマーを試してみることにした。
俺のストレージスペースよりその巨体が姿を現し、地上へと降ろす。
「アブソルートアーマー始動!」
アブソルートアーマーはゆっくりと回転を始める。
やがて高速回転へと移行し、少しづつ移動しながら、回転に伴う衝撃によって魔族どもを空中に巻き上げ、取り付けたワイヤーで屠っていく。他にもレーザーや火炎放射による攻撃も合わせて行う。
さあ順調に魔族を片付けていこうとしたその時、
連絡用の魔導具の呼び出しが鳴る、マリィからだ、
「どうしたマリィ?」
「兄様大変です、わが軍の後方よりアンデットが現れました。おそらくは地中に潜んでいたものと思われます」
「なんだって、すぐ救援に向かう、おれが行くまでなんとか持ち応えてくれ」
「わかりました兄様、早めに来て下さいね」
「もちろんだ、すぐ行く」
攻撃の途中ではあったが、やめてアブソルートアーマーを回収し、ファルコンの最高速度でエリフリーデたちのいる、共和国軍地上部隊の救援に向かう。
(罠にかけられたか? まあ魔族の方もやられっぱなしというわけにはいかないか、とにかく急ごう)
とって引き返す途中、上空500m付近を飛行する、ルビーナ様率いる飛竜部隊を捉えた。
飛竜部隊も自軍の救援に向かっているのがわかる。
◇
やがて共和国軍地上部隊の上空までくると、敵魔族アンデット部隊と混戦模様となっていた。俺はエリフリーデたちを探し出す。探索してみるとエリフリーデたちの近くには、エレナ先生や勇者カグラもおり、アンデットたち相手に奮戦していた。特に勇者カグラは、俺が初めて出会った頃より、魔力量があきらかに増えており、手に持つ聖剣も輝きを増していた。一方、ジャガーとコングはその性能を発揮し、エリフリーデたちをしっかりと守っていた。もはやこれほどの混戦模様になってしまうと、大規模魔法は使うことができない。
そこで俺はあらかじめ用意していた12個のサーヴァントをグレートファルコンより出し、ファルコンとその12個のサーヴァントを魔力の糸で結び、標準をアンデットのみに合わせ、ピンポイントでレーザー攻撃により片付けていく。光のスピードは1秒間に約30万キロメートル進むため、この場においての距離は考えなくてもいい。ただ標準を間違えないように、誤りのないように撃っていけばいい。
しばらくして、エリフリーデたちの周りにいたアンデットたちは全て排除した。
俺は地上に降りると、エリフリーデたちのもとにゆき、
「エリフリーデ、マリィ、ケガはないか?」
「はい、大丈夫ですよアルフィ」
「兄様、わたしも大丈夫です」
「そうか、間に合ってよかった、おれはこれから自軍の救援に向かう、エリフリーデたちはこのまま警戒を続けてくれ」
「「はい」」
「なにかあったらまたすぐに知らせてくれ、それじゃ行ってくるから」
と、エリフリーデたちの無事を確認すると再びファルコンに搭乗し、いまだアンデットたちと交戦している味方の救援に向かう。
上空からグレートファルコンを通してサーヴァントを操り、レーザーでアンデットのみを片付けていく。混戦の中、火炎放射や電撃を使うと味方を巻き込む可能性があったのでやめておいた。我々を襲ってきたアンデットたちは甲冑を身に着けているので、魔族に殺されたスフィナ王国の兵士たちであると推測された。魔族の手によりアンデット化され利用されているのだった。死してなお戦わされるとは実に悲しいことだった。
(絶対許せないぞ、魔族どもよ!)
そしてルビーナ様率いる飛竜部隊が駆けつけて来た。
「アルフィ、この場は我々に任せアンデットを操っている親玉を探し出し、これを殲滅せよ」
「かしこまりましたルビーナ様、それでは行ってまいります」
「たのんだぞ」
「はい!」
俺はその場を離れ、上空よりアンデットの親玉である魔将軍を探し始めた。
(いた! まがまがしい魔族特有の魔力を感じる)
本隊の数百メートル後方にやつはいた。
俺がファルコンで接近すると、ファルコンに気が付いたのか黒い霧を発生させ姿を消す。
「ピュリフレア!」
光りの浄化魔法で黒い霧を消しにかかる。光の雨にさらされ黒い霧が晴れると、身体はアンデッド、頭は骸骨で3本の角が生えていた。いかにもという姿だった。
俺はファルコンより高出力レーザーを放つ、
が、確かにやつに当たったはずなのに、レーザーが通ったすぐ後ろにやつはいた。
(おかしい・・・ 確かに当てたのに、標準がずれた?)
「ええい、もう一度だ」
きちんと標準を合わせレーザーを放つ、
(やったか)
しかしやつはレーザーの通った横にいた。
(どういうことだ? レーザーをよけているのか? いや、ちがうな、レーザーをよけられるはずはない、そうか! やつの本体は別の場所にあるんだ、どこだ、さがせ)
空からの探知ではよくわからなかったので、ファルコンから出て地上に降り立つと、
虹色日比斬刀を取り出し構えをとりながら改めて探ってみる。
と、俺の目の前にやつがわざわざやってきた。
「なんだ、勇者かと思えばただの小僧ではないか」
「その言葉、幾度も聞くことになるとは」
「聖なる光の魔法を放ち、我の霧を払ったのは、小僧お前か?」
「そうだとしたらなんだというんだ」
「それに見たこともない虹色に輝く奇妙な武器を持っておるな・・・ よかろう、小僧、お前を敵と認め名乗ってやろう、我は魔将軍ネクロムなり、お前なんぞに我は決して倒すことはできぬ、ではお前をみじめに屠ってやるとするか」
「見つけた!」
俺はネクロムのすぐ後ろに転移すると、
「ここだ!」
ネクロムの影に虹色日比斬刀を突き立てピュリフレアの清浄の力を注ぎ込む。
(影の中に潜んでいたか、よくあるパターンだな)
でも、初見ではそれを見破ることはできなかった。
(もっと観察眼を鍛えなければ)
ネクロムは自身の影よりその本体を現す。
俺はすかさず虹色日比斬刀でネクロムの首を切断する。
「これは驚いた、まさかお前ごときに本体を暴かれるとはな」
とネクロムは切り離された頭部をくっつけようとするが、
「な、これはいったいどういうことだ?」
そう、虹色日比斬刀で切ったものはもう元には戻らない。
(しかし、首を切断したのにやつは生きてる? どうすればやつを滅することができる、よく観察するんだ)
「なぜもとに戻らない、そうか、お前を殺せばよいのだな!」
ネクロムは自分の頭を抱えながらもう一方の骨の棍棒を持つ方で、棍棒を振るい襲ってきた。
ネクロムの攻撃を難なくよけながら、
(かならず弱点があるはずだ、なら)
戦いながらネクロムの体内を探知してみる、
(もしかしたらこれか・・)
俺はやつ胸のあたりに黄色いボール大のものを見つけたのと、腰の仙骨の部分に紫色のボール大のものをみつけた。黄色いボールも紫色のボールも特別な力を感じる。
ネクロムは棍棒を振るうのと同時に、真っ黒な砲弾を撃ってきた、
俺は魔力障壁でそれらの攻撃を防ぐ、
(どっちが本命の中核だ?)
俺は少し迷ったが、
(これで決める!)
「とりゃ!」
ネクロムが振るう棍棒にタイミングを合わせ、その下に潜り込み、紫ボールに虹色日比斬刀を突き刺した。
「ばかな???」
の紫色のボールが壊れ、体全体が霧状になり、ネクロムはやがて霧散し消え去ってゆく。
(これで勝てたのか・・・)
やつの気配が完全に無くなった、どうやら勝てたようだ。
それと同時刻に味方連合軍と戦っていたアンデットたちが崩れ墜ちバラバラに骨だけになってゆく。
帝国軍と共和国軍から勝鬨の声が上がった。
俺は共和国軍に合流する。
連合軍はその場にとどまり被害状況の把握と負傷者の手当に入った。
そこに斥候が戻って緊急を告げた。
「報告、魔族軍が我が連合軍に迫ってきております、数時間後には接触するものと思われます」
(おかしい、連合軍と魔族軍の距離はもっとあったはずなのに・・・)
その報告を聞いたルビーナ様は、
「これはまずいな、我々は魔族どもに図られたかもしれん」
俺もルビーナ様と同意見だ、こちらが魔族の動きを察知しているように、むこうもこちらの動きが分かっており、罠をかけられた可能性もある。
これまで連合軍側が各個撃破し、魔族側も追い詰められてきたため、策を講じてきた可能性もある。考えてみれば、魔族が何かしらの手をうってくるのは当たり前のことだったのだ。
◇
帝国将軍から各部隊に通達がなされた、
『当初予定していた三方からの挟撃は中止、連合軍は直ちに合流、全軍をもって正面から敵と当たりこれを撃破する』
的確な判断だった。臨機応変な対応こそが勝敗を分ける。バスムスト将軍は戦い慣れしている、だからこそ帝国は生き残ってきたのだろう。
連合軍は合流をはたし、魔族軍を迎え撃つ準備を整える。負傷兵を除いて今戦えるのは、共和国軍6500、帝国軍39000、合わせて4万5千ほどの戦力になる。
エリフリーデたちが不安がっていたので、
「大丈夫だ、必ず勝つさ」
と決意をのべると、
「そうですよね、アルフィがそう言うのなら大丈夫ですよね」
「ああ、みんなで笑顔で帰ろう」
「「はい」」
魔道具から俺にルビーナ様よりの呼び出しがかかった。
「すまない、ルビーナ様からの呼び出しだ、行ってくる」
「はい、お気を付けて」
ルビーナ様のもとへゆくと、
「疲れているところをすまないが先行して魔族の勢力を少しでも削ってくれ」
俺は途中で戦闘を中断されたため、どの程度魔族を屠ることができたのか全く把握できていなかったので、
「はいルビーナ様、魔族どもにリベンジしてまいります」
「勝敗はお前の肩にかかっている、たのんだぞ、アルフィ」
(こりゃまた随分なプレッシャーだな・・・ でも生き残るためにはやるしかない!)
「それでは行ってまいります」
と言うと俺はさっそくグレートファルコンに搭乗し発つ。
◇
ものの数分で魔族共のところに辿り着くと、アブソルートアーマーを出し魔族の殲滅にちりかかる。するとアブソルートアーマーの周りに茶色いまだら模様のカエル型の魔物が多数出現し、舌の先から黄色の液体を吐き出した。
アブソルートアーマーはその黄色い液体に触れると溶けだし、安定を失い動きが止まった。
カエル型の魔物たちは畳みかけるようにアブソルートに黄色い液体をかけまくった。
アブソルートはみるみるうちに溶けてゆき、やがて影も形も無くなった。
(あれは酸の液体か? せっかくおれが造ったものを溶かしやがって・・・)
(ならば次の一手だ!)
「フレイムトルネード!」
俺は魔力を高め、高温の炎を纏った巨大な竜巻を発生させる。まずはアブソルートを溶かした憎っくきカエルどもを高温の炎で焼いていく。フレイムトルネードから逃れた魔族は、ファルコンのレーザーで仕留めていく。味方の連合軍側でも魔族との戦闘が始まった。
俺の放ったフレイムトルネードは、魔族軍の真直中にと順調に蹂躙していく。
その時、ファルコンの前に10mほどの大きな魔族がやってきた。その姿はまさしくコウモリの化け物そのものだった。
「我は魔将、ディグニファイド・ブラッドである。炎の竜巻を発生させているのはお前だな?」
「そうですよ」
本当は答える義理などないのだが、隠す必要もないので魔族の問いかけにあっさりと認めた。
「ならばお前には死んでもらう、しかし鉄でできた鳥もどきが空を飛んでいるとはな、
許せん、お前は必ず俺様が葬ってやる、この血にかけて」
(いかにも吸血魔族らしい物言いだ、この魔族は俺がファルコンの中にいることが分かっているらしい、ご丁寧に俺を殺すと宣言しやがった)
やつはおもむろに口を開けると同時に、禍々しい赤黒い液体を浴びせてきた。
これを魔力障壁で防ぐ。その赤黒い液体を探知してみると猛毒の血であった。
この血をまともにくらっていたらかなりのダメージを負っていたことだろう。
こちらからも魔法による攻撃を試みる。
「フレイムビュレット!」
魔将ブラッドは俺の反撃を黒い霧でもって防ぐ。
「ピュリフレア!」
黒い霧は邪魔なので浄化の魔法で霧を払うと、俺はファルコンをはるか上空へと昇り始めた。
やつのペースに合わせて戦うつもりはない、こちらが主導権を握らせてもらう。
どうやらやつは俺を滅することにご執心のようなので、こちらの策に多分乗ってくることだろう。
上昇していくと思惑通りコウモリ魔族も追いすがってくる。が、こちらの方が圧倒的に早い。みるみるうちにどんどん差が広がり、上空1万mに達する頃にはやつの姿は点にしかすぎない。探知してみると一生懸命、ファルコンを目指して昇ってきているのがわかる。途中で追跡を諦めるものと思っていたのに、以外と執念深いやつのようだ。
俺はグレートファルコン全体にできうるかぎりの魔力流し込んだ。グレートファルコンはひときわ輝きをます。魔法により、グレートファルコンはタングステン鋼よりも超固くなる。これもエクラマナイトだからこそ出来得る芸当だ。
(準備は万端、それじゃ行くとしますか)
上空1万mより急降下してコウモリ魔族に体当たりを敢行することにした。
ゴゴゴ――――――! ヒュ ―――――― ン!
降下を始めると引力にひかれることもあって音速を越えた。
しっかりとやつに標準を定め、すれ違うことのないようにした。
(よし! やつを捉えた、当たれ~)
バン!
そして見事に体当たりを成すことができた。
(よ~し、やっつけたぞ~、確認だ)
やとの気配をさぐり探知してみると、そこにはもう姿を成しているものはなく、粉々に砕け散り、砂になった。やつの気配は完全に消え失せた。
(さて、地上はいまどんな状況かな)
ファルコンの高度を下げ地上の状況を探った。
俺の放ったフレイムトルネードは魔法の威力は衰えておらず、いまも順調に魔族を蹴散らしている、時間的にもうすぐ消えていくことだろう。かなりの数の魔族を殲滅することができたはずだ。
あらためて状況を探ってみると、味方の連合軍は部隊ごとに連携を保ちながら、魔族と戦っていた。戦力比はすでに10対1となっており、もうすぐ終結するものと思われる。
しかして連合軍より勝鬨の声が上がった。
俺は上空を旋回して魔族の気配を探ってみたが、皆無であった。
戦いは終わった。連合軍側の完全勝利であった。
◇