♯17 底辺配信者の息抜き
朝、ボロ宿一階の受付ロビーに備え付けられた机で私と小田君は朝食を食べていた。朝食はトーストと目玉焼き、ベーコンのワンプレート。料理は美味しいが私はどうしても浮かない顔になってしまう。というのも私は昨晩部屋にGが出た事に恐怖し睡眠中の小田君を叩き起した挙句、Gが小田君の顔に張り付いた事に動揺しみぞおちに拳をぶち込んでしまったからだ。
その場でも今朝も謝罪し、小田君も「気にしなくて良いでござる〜」とは言ってくれたがそれでも罪悪感で心が押しつぶされそうになっていた。結局その日の朝食はほとんど何の感想もなく終わってしまった。美味しかったのは間違いないが具体的にどんな味だったかは全く覚えていない。
そんな心ここに在らずな私を気づかってか小田君が息抜きに誘ってくれた。その息抜きとは小田君曰く『異世界転生したらお決まりのイベント』との事。
朝食後、荷物をまとめ小田君の道案内に従いある場所へと向かう。そこは王都の中でも中心部から少し離れたところにある二階建ての建物、看板には『商業ギルド』と書かれている。
「ここでござる!異世界のギルドでチートぶりを驚かれるのが夢だったでござるよ!」
物凄く興奮している小田君に促されるまま私はギルドに入る。だが『商業ギルド』で能力を確認することは出来るのかという疑問はあったが小田君の自信満々な顔を見るに大丈夫なのだろう。
小田君は一直線にギルド受付まで行くと「僕の能力を調べてください!」とお願いする。余談だが小田君は私との会話以外では「ござる口調」ではなくなるのだ。
だが受付のおばさんは訝しむような視線を小田君に送ると「なんだって?」と小田君に聞き返している。先程の小田君は少し早口ではあったが聞き取れないほどではなかったはずだ。
小田君もおろおろし始めた所で受付のおばさんは私の方を向きながら小田君を指さし「この子あんたの連れ?」と聞いてくる。私はひとまず頷きつつ「そうですよ」と言う。するとそれを聞いたおばさんが
「悪いんだけど通訳お願い、私外国の言葉には精通しているつもりだったけどこの子の言葉が分からないのよ」
「あ、はいえっとですね。能力を調べて欲しいと言っています。はい」
私の返答を聞きおばさんは呆れた様子で続ける。
「あんたら外国の人だろ?仕方ないとも言えるけどね、ここは『商業ギルド』、能力を調べたいなら『冒険者ギルド』に行かなくちゃ」
最後に「看板にも書いてるけどね」と嫌味を言われながらも『冒険者ギルド』の場所を教えてもらった。それだけ聞き未だおろおろしている小田君を強引に引っ張りつつ『商業ギルド』を後にした。
よくよく考えれば私には『翻訳』のアプリがあるおかげでこの異世界の人とも普通に会話する事が出来ているが、小田君はそのような能力が無いためこの世界の人と会話する事はできないようだ。
「うぅ、昨日凛花氏のスイーツハシゴ旅の最中にギルドっぽい建物を見つけたからここだと思ったのでござるが…まさか外国の人は調べてくれぬとは。」
「小田君、さっきのは『商業ギルド』でね『冒険者ギルド』はあっちだって」
私は『商業ギルド』のおばさんから教えられた『冒険者ギルド』がある方を指さす。
「そ、そうであったか〜知らなかったでござるよ〜では早速行くでござるよ!」
そういうと小田君は『冒険者ギルド』の方へ全力疾走して行ってしまった。
どうも今朝から小田君の様子がおかしい、頭は殴ってないが倒れた時に変な所でも打ったのだろうか…。
「心配事が増えたなぁ、これじゃあ息抜きにはならないかな〜なんて」
私は誰にも聞こえないように独り言をいい小田君の後を追うことにした。
読んでくれてありがとうございます。
もし良ければ高評価とブックマークをお願いします!