運命を呪う 【月夜譚No.197】
目の前に積まれた札束に、眩暈を覚える。しかし伸ばした背筋は緊張で曲げることができず、お陰で倒れずには済んだ。
札束の山の向こうには、厳つい表情の男がサングラス越しにこちらを睨んでくる。いや、実際には睨んではいないかもしれないが、黒いレンズの向こうは見えないので真実は判らない。
声を出せず、動くこともできない青年は、ただひたすら膝の上に拳を握って耐え忍んでいた。
青年は、ただの一般的な何の取り柄もない一大学生に過ぎない。今日だって、普通にいつも通りに大学に向かっていたのだ。
それなのに、こんな大それたことに巻き込まれようとは……今思えば、あの道を曲がらなければ良かったのだ。公園の前さえ通らなければ、きっとこんなことにはなっていない。
今更考えても仕様のないことをぐるぐると後悔する青年の前で、男がテーブルを叩いた。ドンッと札束が跳ねる勢いに、青年は肩を聳やかす。
「で、兄ちゃん。やってくれんのか?」
「…………」
(――このまま気絶しても良いですか?)
心の中で呟いた声は誰にも届かず、叶えられることもなかった。