乙女ゲームの呪い
何番煎じになるのかわかりませんが、一年前に思いつき、書きかけていたものを成仏させたい一心で書き上げました。
「アーテリア公爵令嬢、君との婚約は破棄する。」
金髪碧眼の美少年が高らかと宣言し、宮殿の舞踏会場は静まり返った。
少し離れた場所で、僕は静かに目を閉じて壁にもたれかかっていた。
なんなんだ、これ。
常識から考えると、何回見ても意味不明な場面だ。
しかし、似たような場面も5回目となると、ため息しか出ない。
小国が乱立するこの大陸では、恐ろしい伝染病が蔓延していた。
何故か王家に近い10代の若者限定で婚約破棄したくなる病気だ。しかも、徐々に各国に広がりつつある恐ろしい精神伝染病だ。
通称「乙女ゲームの呪い」と、僕は心の中で命名している。知り合いがこの病の第一人者で、よく愚痴を聞かされ、内容にとても詳しくなってしまったからだ。
彼曰く、「乙女ゲーム」の一場面を永遠に♾しているようだけど、何故こんなことになったのか、と酒を片手に繰り返すのだ。
「酒を飲まずに仕事しろ」と再三にわたって言い続けている。彼の言っている内容も荒唐無稽に感じるし、いまいち理解できないのだが、現実に起きているのだから、頭が痛い。しかも、王子とかなまじ権力者がしでかすお陰で、その影響は計り知れない。
この度、めでたくやっと伝染病と認識され、公権力的に対応できるようになった。
だが、しかしながら、病気なので、ノーカウントでお願いします、無かったことに…、では終わらない。
デリケートな問題だよね。一筋縄ではいかないですよね。はぁ。
そんな僕は大袈裟にいうならば世界平和を維持、活動する組織に属している。国家間紛争やバランスを維持することがお仕事だ。そして、この事態を収拾することを各国から依頼され、今仕事でここにいる。アサインされたのが童顔だからという理由でないことを祈っている。
僕は、静まり返った会場で固まっている美少年を回収するために近づいていく。
「ヴィランド殿、わたくしは貴方と婚約などしておりませんよ。とっとと、目を覚ましなさい。」
女性に首元をクロスして締め上げられ、あと少しで落ちてしまいそうな、いや、落ちている王子様がいる。
「アーテリア公爵令嬢、このままではヴィランド王子が死んでしまいます。別室でお話し合いを。」
僕は慌てて間に入った。
お嬢様の気持ちはわからんでもないが、出来るだけ事を穏便に収めるためにきた僕としては、このまま別室へ連れて行きたい。とりあえず、軽々と王子様を抱き上げると、横にいる少女に目を止めた。
「もちろん、ついてきていただけますよね?ヒロインさん」
コクコクうなづく感染源を確保しつつ、別室へと歩いていった。
読んでいただきありがとうございました。