4営業目 営業エリア外の攻防
営業エリア。これは、各地域において存在するもので、例えば筆者の所属する会社は東京23区+武蔵野市、三鷹市が営業エリアとなっている。それ以外、例えば近隣の埼玉県川口市や神奈川県川崎市、はたまたま同じ都内の小平市等は区域外となっており、区域外~区域外の営業は原則として認められていない。
例外として、営業エリア内~区域外、区域外~営業エリア内というパターンであれば営業可能という事だ。区域外に出るお客様がいれば長距離になる事も少なくないのである意味歓迎なのだが、然しながら次のお客様を乗せる為にはエリア内に戻らなければならず、少々のタイムロスが発生する。
それでも無線や手挙げのお客様が営業エリア内に向かうお客様であれば、これはもうしめたもの。タイムロスすること無く、営業エリア内に戻る事が出来るからだ。
しかし、区域外とは言え手があがれば車を止めてしまうのがタクシー運転手の悲しい性。
「すいません、東京23区に戻る車なんですよ」
なんて言って断るしか無いのが切ない所だが、モノはやりよう。抜け穴はどこにでも存在する。
例えば、筆者の先輩A氏の場合。営業エリアからほど近い区域外へお客様を送り届けた後、開いたドアにスグに乗り込むお客様。
「〇〇までお願い!」
なんて言われた地名はエリア外。当然断らなければならないのだが、A氏はそこで頭をフル回転。
(〇〇は現在地のすぐ近く。1度都内に入れば行けるな。)
ここからはお客様との交渉が始まる。
「お客様、この車は東京23区内の車なので、ここから〇〇ではお送り出来ないんですが、橋を渡ればエリア内に入れます。一旦橋を渡ってそこからメーター入れてもいいですか?」
時間は深夜。人も車もまばらで行き交うのはせいぜいトラックか一般車。1分でも早く帰りたかったお客様はその提案に賛同し、A氏はめでたく「営業エリア~区域外」のお客様をお乗せする事になった。
またB氏によればこんな事も。豪雨の中、万収となるお客様をお乗せした彼は、営業が終わってから営業エリア内に戻るべく、車を走らせていた。そんな中、壊れた傘を持っていた老人がトボトホと豪雨の中を歩く。B氏の車に気づいた彼は、迷うこと無く乗せると言われた行先はエリア外。しかし、豪雨の中、老人を道路の外に投げ出すのも忍びないと思ったらB氏は区域外営業を決断。
筆者の場合は、実際乗せては居ないのだが、営業エリアの近くの△△と言う区域外の駅。地元タクシーの姿はないが、タクシー乗り場には長蛇の列。
ここで閃いた筆者は、
「東京方面ご利用のお客様はいらっしゃいませんか??」なんてタクシー待ちの列に問いかける。
その時はたまたま地元の方ばかりだった様で、どうかな~なんて思ってるウチに地元タクシーが戻って来たので、そそくさと退散したわけである。
乗るお客様も必死であれば、区域外でも何とか乗せたいと必死な運転手達。今夜もどこかでそんな攻防が繰り広げられている事だろう。