表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダブり集

最強の魔術師

作者: 神村 律子

 いつの時代なのか定かではない頃の話。

 天使も悪魔も敵わない程の魔術師がいたという。

 彼の名は・・・不明。

 知る者がいないのだ。

 実在の人物なのかも怪しかった。


 しかし彼の事は語り伝えられていた。

 最強の魔術師として。


 しかしそれ程有名なのに何故名前が知られていないのか?

 彼自身が名乗らなかったのだとか、名前を言っただけで呪いがかかり、死んでしまうからだと様々な噂があった。


 ある男がその魔術師がいるとされる秘境の森に挑んだ。

 彼は高名な神官である。

 事の真偽を確かめよと彼の主である国王から命じられたのだ。

「多分私は生きて帰れないだろう」

 彼はたくさんいる弟子達と別れの盃を交わし、森に向かった。


 その森はいくら歩いても先に進んだ感じがしなかった。

「これも奴の術なのか?」

 神官がそう思った時、目の前に小柄な老人が現れた。

「?」

 彼はその老人が魔術師だと思い、

「貴方が噂の魔術師か?」

と尋ねた。老人はフッと笑い、

「いかにも。何の用かな?」

「貴方が本当に存在するのか確かめに参った。その力の片鱗を見せて欲しい」

「すでに見せている」

 老人は右手に持った杖を掲げて言った。神官は訳がわからない。

「何をおっしゃる? 何も見せてもらってはいない」

「この森がわしの術そのもの。実際には存在せぬ」

「!」

 神官はギョッとした。

「まさか・・・」

「世迷い言と思うなら近くの木に触れてみよ」

 老人は強い調子で言い放った。神官はすぐ近くの木に触れた。

「グオッ!」

 その瞬間、彼は雷に撃たれたかのように痙攣し、その場に倒れた。

「若輩者よ。何故わしの言葉に従うのか。愚かと言うよりないな」

 老人は神官を見下ろして呟いた。

「命までは取らぬ。しかし、わしと出会った事は忘れてもらう。そしてお主の力も頂く」

「成程。そういう事か」

「何!?」

 老人は神官の声が背後から聞こえたので仰天した。

「私も一国を支える神官だ。そう易々とやられはしない」

「く・・・」

 倒れた神官は変わり身だった。老人はゆっくりと神官の方を向いた。

「貴方はどうやら我が王国にとって危険極まりない存在のようだ。その魔力、その思考。何一つとして相容れられるものはなし」

 神官は眉を吊り上げ、怒りを露にして怒鳴った。

「ならばどうする?」

 老人は不敵な笑みを口元に浮かべて尋ねた。神官は老人に近づきながら、

「知れた事。我が最高神の秘術にて消えてもらう」

「わしは天使も悪魔も恐れる存在ぞ。おぬし程度の力で勝てると思うか?」

「ほざけ!」

 神官は右手で彼の守護神の印を結んだ。

「我が神の力受けるがいい!」

 神官の気合と共に無数の光の矢が放たれ、老人に向かった。

「うおおおっ!!」

 老人は光の矢をまともに食らい、焼失した。

「呆気ない・・・。妙な・・・?」

 神官はあまりに簡単に勝敗が決した事を疑った。

「わしの耳垢から生まれしわしの分身を葬るとは、なかなかの術者よ」

「む?」

 上空から声がした。

「ぬお!」

 神官は眩い光に包まれ、意識を失ってしまった。


「はっ!」

 神官は不意に意識を取り戻した。何故か彼は王国の自分の屋敷にいた。彼は森へ出かけるために身支度をしている途中だった。

「まさか・・・」

 彼は身震いした。

「私は出かけてもいなかったというのか・・・。あれは全て魔術師の為せる業だというのか」

 神官は出立を取りやめ、王城に出向いた。


 彼は国王の怒りを買うのも恐れず、進言した。噂の魔術師は噂通りであり、手出ししてはいけないと。

 神官の予想通り、国王は激怒し、彼を追放した。


 やがて別の神官が森に出向く事になった。しかし同じ事だった。

 誰一人として森に行けた者はいない。

 だから魔術師の存在は知っていても彼の名を知らないのである。


 その魔術師はその後も永くその強大な力を語り継がれたという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「天使も悪魔も恐れ“る”存在ぞ」は「天使も悪魔も恐れ“ぬ”存在ぞ」ではないでしょうか。 間違っていたらすみません。 不思議なお話でした。 展開は面白かったのですが、根本的なテーマがまったく…
2010/11/28 16:06 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ