21章 捜査方針
21章 捜査方針
「それとこの子役ちゃんとは別の事件で目撃者が居てさぁ」
「目撃者?」
終夜が呑気な声で扉の向こうに声をかけた。
静かに扉が開き、若い男が入って来る。
少し柄の悪い男と言った風体。
男は六升と名乗った。
「……」
火泥は失礼にならない程度に六升を見る。
年は20代後半、眼帯を付けている。
氷室にこっそりと聞く。
「……六、って事は警視とも知り合いなんですか?」
「知らない。その辺は警視監がやる」
「えっ」
「んー……」
氷室が知っているのは六道であって六付きではないと言葉少なく言われた。
火泥が踏み込める部分では無いのだろう。
「珊瑚、おめぇ何してんだ?」
「……兄貴こそ」
『!?』
気まずい空気が流れる。
氷室が終夜を見た。
「警視監」
「アッごめんねお兄ちゃん俺会議だから後よろしく」
「……」
目隠しの上からも判る渋面で氷室が終夜を見送る。
とりあえず、と水引が目撃した事を話すように促した。
●
それはとある選挙の1ヵ月程前の話だ。
山の中を車の中で走っていた時の事である。
左手側に岩肌があり、カーブが多い山道。
対向車や後続車が居ない事を理由に気ままなスピードで車を走らせていた。
月の夜。
山頂まではまだかかるな、と缶珈琲を口に含んだ時だ。
上から人間が降ってきた。
急ブレーキを踏むが間に合わず、振動から轢いた後に車の下敷きになった事が嫌でもわかる。
道路に降りて恐る恐る状況を確認する。
相貌こそ判るが異臭を放つそれは明らかな死体。
運転手は発煙筒を焚きながらすぐさま通報。
首に縄がかかっていた事、死後数日経っていた事から首を吊っていたが、
枝が折れたか縄が切れて落ちたのだろうと説明された。
警察は自殺と認定した。
それから2週間程経った頃。
選挙カーがけたたましい中、信じがたいものを目にする。
演説していたのは死んだ筈の男だった。
以上が土塔 珊瑚改め、六升 珊瑚が目撃した事件だ。
●
「……その日から明らかに妙な奴に追われて警察行ったらこんな所で働く事になったと」
「そ」
「馬鹿野郎! 何か一言言わねぇか!」
火泥の呆れた声と同時に土塔が机を殴った。
珊瑚が身を竦める。
「そ、そういう兄貴こそ何で」
「あ?」
土塔がちら、と氷室を見た気がした。
「俺はいいんだよ」
「ずっりい!」
「まーまー」
兄弟喧嘩が勃発しそうになるのを火泥は何とか宥める。
水引が氷室に指示を仰いだ。
「警視、これ何処から手を付けます?」
「……テレビ局に探りを入れるとして……」
「はい」
火泥は顎に手を当てて考える。
どちらの事件もそれ自体は自殺で終わりだ。
だとすると別の切り口が必要になる。
警察が現場をうろちょろしても不自然でない理由。
まずは、と火泥は前提を確認する。
「……そもそもこれ本当に自殺なんですかね」
「人形を使った落下の軌道の調査でも不審な所は見当たらなかった。防御創や他の異変も無し。
少なくともそこは間違いないだろう、というのが現時点での結論だ」
「うーん……」
氷室の言葉に火泥は腕を組んで考え込む。
何か新しい証拠でも出ない限りはそこは崩せない。
であればやはり別の理由が必要だろう。
再発防止、アフターケア、別件での捜査。
芸能人の薬物使用、不祥事。
子役、撮影。
「あっ」
思わず声が出た。
氷室が首を傾げながら火泥を見る。
「?」
「……撮影の道路使用許可、何処の所轄で取ってます?」
何故すぐに思い付かなかったのか。
道路は警察官の領地と言っても過言では無い。
●
火泥と土塔は撮影現場の交通整理という名目で現場に向かっている。
水引と珊瑚はテレビ局に向かい、新たな手掛かりがないかを調べ直すつもりだ。
氷室は1人、暗い事務所で携帯電話を見ている。
電話の呼び出し音が鳴る。
電話に出る。
『やぁ六付き、今時間取れる?』
形代 現世、年齢不詳。
政治家。
不老不死の研究、クローン部門の責任者。
クローン人間。




