俺の歌声
・・・ぴっぷくぷーぴっぷくぷー!!!
とある日の昼下がり、ゲリラ的に「歌ってみた」配信をしようと準備を始めた俺の耳に…おかしな音が聞こえて、来た。
「なんだ?上の階のやつだな!!まーたおかしな音立てて…。」
真上に住んでる奴はやけに几帳面な奴で、配信をするたびに床ドンや通報しやがってさ!
そのくせに、目覚まし時計の音はうるさいし、なかなか出ないスマホの着信音?はおかしなメロディばっかだし…相当に被害を被ってんだよな。
今度はこっちが管理会社に文句を言ってやるぞ、そんなことを思いながら、開いている窓を閉める。
「やあ、こんにちは。サエズリータでぃっす!ゲリラ配信、スタート!!!」
気持ち良く歌を歌い始めると、ぼちぼち視聴者さんが入ってきた。
…おお、カババさん久々のインだな、あとでコラボしてもらお。
俺はバイトの合間を縫って、毎日歌ってみたやフリートーク、ゲーム実況なんかをしてるんだ。
歌い手の中では、まあ真ん中へんの位置にいる、そこら辺の一般的配信者なんだけどさ。いずれはアニメのOPとか歌いたいなって思っていたり。
「♪さわがしいわー!♪知られてねえけど肥満児です♪」
うん、のどの調子もいいし、いつも以上にノリノリだ!!
今日はウィスパーボイスで攻めてみる~♪
いつもだったら歌い始めから連打される、天井からの不愉快な打撃音も…、今日は聞こえてこない。
出かけたのかな?上のおっさん。
よしよし、俺の美声を止めるやつはいない、今日は心行くまで歌いつくすのだー!よし、二曲めは怒鳴り散らしてやろ!
――うしろ!!
――うしろ!!!
?
「♪つか俺まじ一般人♪頭ポンポンあざーっす♪」
――うしろ見て!!
――誰かいるよ?!
???
なんか、コメント欄が・・・うるさいぞ?
やけに流れるスピードが速い。
いつもだったら、俺の生配信は視聴者が100人行くか行かないかくらいでだな、なかなかコメント欄が動かないのが常であって…。
――うしろ!!
後ろうしろうるさいな…。
そんなん、ただの壁しか…。
…くるっ!!
間奏の合間に、後ろを振り返るが…なにもない。
ただの白い壁と、配信前にきれいにしたベッド、ぬいぐるみが並んでいるだけだ。
気を取り直して、Bメロに全集中して歌い上げる!!
「♪ホントやばみ♪行くしかない♪」
――だからうしろ!!
――歌うなうしろ行け
…クルっ!!!
「♪不感症不満足♪ブータレたって致し方ない♪」
???
…ものすごい勢いでコメ流れ…?!
「♪へえ♪むっさいむっさい、むっさいな♪」
――マジヤバ配信キタコレ!
――リアル心霊ライブ!!
ちょ!!目で負えないくらいコメントが!!!
なに、何これ!!!
――ちょ、誰か再うp
――ツイートしとこ
ちょ、入場者数…568?!
いや!!!どんどん人数が増えていってる!!
――知らぬは本人ばかりなりけり
たまに読み込むスピードが落ちるその瞬間でコメントを拾うも…訳の分からない文字列しか、拾えない!!!
「♪きっちり成敗♪させて頂きます♪」
…ジャン!!!
歌が終わっても、コメントの勢いは止まらない。
…何があった?
「はーい、一曲目、『騒がしいやん』、ありがとうござっした!なんかさー、すげーコメ流れてんだけど、何、どしたん?」
軽口を叩きつつ、コメントをチェックする。
――うしろにひとがいる!
――物色してるよ!!
――なんで気が付かないの?
――バカなの?
――つか仕込み乙www
――兄貴じゃね?
「え、何これ、俺の後ろに誰かいたってこと?…誰もいないよ?」
配信中は部屋の鍵をきっちりかけるし、窓もばっちり閉めている。
誰かが入ってくることなどあり得ない。
――リアル心霊現象
――ベッドの下にいるんじゃね?
――呪われた!!
「ちょ…みんな怖いこと言わないでよん!俺まじ怖がりなんだからさー!わーったわーった、見に行ってみるし!」
椅子から立ち上がって、部屋の中を確認して回る。
トイレ、キッチン、風呂…ベランダ。
…誰もいない。
…当たり前だ。
・・・ぴっぷくぴーぴっぷくぴー!!!
うん?
なんか、上の階からおかしな音が聞こえてきたぞ。
何の音なんだ、さっき聞いたのとは少し違うような気もする。
ベランダの窓を開けて確認するが…もうおかしな音は聞こえてこない。
「いったい何なんだ…。」
頭をかきかき、配信中のパソコンの前に戻ると。
――ギャー!!!
――キター!!!
――気付け!!
――逃げろ!!
さっきよりも猛スピードで、コメントが…流れていく!!!
「え、ちょっと待って、皆何言ってんの?今誰もいないよ?」
あたりをきょろきょろと見まわすけど、何の変哲もない、俺の部屋の風景しか。
――隣にいる!!
――となり!!
――横!!
――横!!
――よこ
――Yoko
――右見て
――横!!横!!
荒れ狂うコメント欄を見ながら、首を横に向ける。
…やっぱり誰もいないな。
――見つめ合ってる!!
――なんだやらせか
――そのままチューおねwww
――うけるwww
「なんかよーわかんね!とりま、次『路地』いくよー!」
♪ジャン♪ジャン♪ジャン♪ジャン♪ジャン♪
ノリの良い前奏に体を揺らしつつ、コメント欄をチェック、相変わらずすごい勢いだ、何があった、ああ、謎の後ろうしろ現象か。…ちょ、マジかまさかの初の1000人越え?!お、俺の歌声を1000人が聴いてる?!ひょー!テンション上がってキタ――(゜∀゜)――!!
――めっちゃ嫌そうな顔してるww
――耳押さえるやつ初めて見たわ
コメントが気になるけど、まずは…俺の歌声を、聴け―――――――――!!!
――まあ確かに耳触りではある
――サエズリスト激おこ!
――歌よりもむしろ横が気になる
「♪よぅ♪起き起きモーニング!♪ライブTVかかえたイケメンがマブダチに挨拶♪」
――ああー、倒れそう!!
――下手な歌うたってないで助けろし!
――すげえ演出に全俺が歓喜
――神ライブと聞いて
ノリノリで歌ってはいるものの、どうもこう、流れ過ぎるコメントにだな。
気が持って行かれるというか、なんというか。
地味に後ろとか横をチェックしながら歌ってるもんだから、いつもの調子が出ないというか。
クソ、決めのガナリ声うまく出せるかな…。
「♪歩いていくぞ♪ランナーは♪てんめぇエエエエだぁああああ!!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
???????????????????????????????
み、耳を劈くような、叫び声っ?!
「あ、あがががああああ、う、ぅうげぇえええええええええ!!げほ!」
思わず歌をやめ!!!
声のした方を、まじまじと…見つめる!!!
確か、風呂の方の壁のあたりから…。
・・・?
・・・!!!
「ひゃああああああああああああああああアアアアアあああああ!!!」
お、おれの目に!!!は、半透明の、にい、にいちゃアアアアアアアアアアん!!!
が、がガシャン!!ドシャ!!!
思わず、バランスを崩して、椅子からころ、転げ落ちる、俺、俺ええええええええええ!!!
「なんという不協和音!不愉快だ!実に不愉快だ!」
「ちょ!!!お、お前は…だ、誰だ!!!!」
思いっきり床に打ち付けて痛む腰をひねって、壁際の兄ちゃんに向かって、叫ぶ!!!
くっそー!!腰が痛くて、立てねえ!!!殴りかかりたいのに!!!
兄ちゃんはゆっくりと俺の方を向いて…。
「・・・うん?・・・この破壊音でフィルターまで破損したという事か。」
「何勝手に人んちに入ってんだよ!!いつからいたんだ!!出てけ!!!」
俺は渾身の力を振り絞り、兄ちゃんに掴みかかって…!!!
「・・・やめないか!!!」
バ、バシッ!!!!!!!!!!!
ものすごい衝撃で、俺は吹っ飛ばされ…パソコンに、激突した。
…ちょ!!配信中!!!!
「こんなに乱暴な個体もいるというのか。」
「てんめえええええええええええ!!!!!」
俺が怒鳴り声をあげて、再び飛び掛かろうとすると!!
「あ、あがががああああ、う、ぅうげぇえええええええええ!!げほ!」
盛大に…吐いてるぞ!!
なに人んちの部屋のど真ん中で吐いてんだ!!
…ちょ、何これ、金?いや…宝石?!
「この攻撃力は、何だ…?他の個体にはなかったものだ。こんなの持って帰ったら、星が消滅する。危険だな、撤収だ。」
あ、足音も立てずに!!窓の外!!窓の外に飛んでった兄ちゃん!!!ちょ!!ここ四階だけど?!
慌てて後を追い、ベランダの手すりに手を伸ばして、あちこち見まわしてみるも、何一つ変わらない平和な空!雲!街並み!!!
・・・ぴっぷくぽーぴっぷくぽー!!!
おかしな音が、聞こえてきた。
窓の外には、何も見えない。
「クソ…逃げられた…!!!」
あんな危なそうなやつ、ぶちのめしておかなきゃまずかろうと思ったが、消えてしまってはもう手の施しようがない。
宇宙人だよな、多分…。
俺には見えなかったのに、なんで視聴者には見えたんだろう?
・・・。
あれか!テレビのリモコン!!ボタンを押しても何も変わらない、変わらないように見えるけど…カメラ越しで見ると、リモコンの先端が光って見えるんだよ!確か!!!
…カラオケ画面を大きくしていたから、コメント欄を大きくしていたから…配信画面のチェックができなかったのが、地味にダメージがでかい。
ウェブカメラ越しに、あの宇宙人の姿がしっかりととらえられていたんだ、おそらく。
それを見た視聴者さんたちが、しきりに教えてくれていたにもかかわらず、俺は自分の目だけを信じて…。
いやいやいやいや!!!普通は、自分の目を、信じるだろ!?
…そうだ!!配信!!!
慌てて、パソコンに駆け寄る。
…ちょ!!電源、落ちてんじゃん!!!!
パソコンに激突した時に電源コードが抜けたらしい。
慌ててコンセントに電源を差し込み、再起動させるも…配信は終了していて、コメント欄を見ることができなくなっていた。しまった、前にコメント欄が荒れた時にリプレイ機能を切ったままにしていたんだった…。
生配信のアーカイブは、どうするべきか。
残しておくべきだとは、思う。だが、いつまたあの宇宙人がやってくるかわからない、狙われることもあるかもしれないし、最悪消されるかもしれない可能性を視野に入れておくべきだ。
・・・。
落ち着いて、考えなければ…すべてが、詰む!!!
俺は結局、宇宙人騒ぎを、どっきりだと断言することにした。
―――迫真の演技、すごかったでしょう、役者のご依頼はDMで!
―――また面白い企画やるから、見に来てね!
―――兄ちゃん役はツレに頼んだ!一般人だからそっとしといて―!
ミスったふりして、動画は消した。
ちょっと炎上したけど、チャンネル登録者がけっこう増えてさ。
怪しげな、宇宙人が吐き出した宝石を売り払ったら意外に値段がついて…、小金持ちになった俺は、いわゆる…ちょっと調子に、のっちゃったんだな。
まずそうなもん買いこんで絶叫しながら食ってみたり、化粧品買い込んでゴテゴテにメイクして晒してみたり、人形買い込んで本気でままごとしてみたり。
ただの歌い手、ゲーム実況者だった俺はだな、やけにつまらない企画をやるへこたれないやつという認識が広まってだな!
…あのドッキリのふりをしたトンデモ宇宙人遭遇騒ぎ以上に面白い企画なんて、一般人の俺に配信できるわけねーだろうが!!
俺は、俺は…頑張ったんだからね?!
幸か不幸か。
生配信きっかけで、俺の人気が、出始めた。
やけにつまらない企画をやってる奴がいる、へこたれない姿勢が素晴らしい、面白く無くてウケる、つまらなさのレベルが凡人とは思えない…。
わりと歌がうまいらしい、聴いてみたらけっこうハマった、かなりくせになる歌声だ…。
信じられない話だが、アニメのOPを、歌わせてもらえる事になった。
しかもだ。
アニメが爆発的ヒットになってだな。
まさかの続編に注ぐ続編とかだな。
国民的歌合戦にも出たさ。
未だに合唱曲になるくらい、歌が売れたさ。
・・・今でも、ほら。
街のあちこちで、俺の怒鳴り声が聞こえててだな。
……俺の声が、この町に響いているうちは、おそらくあのおかしな奴は、近寄らないはずだ。
俺の怒鳴り声を聞いて、逃げ出したんだ、宇宙人は。
俺はもう年食っちまったからさ、あんな怒鳴り声は、出せないんだ。
でも、俺の声は、まだしばらく、この星には、残ってるはずだからさ。
この星は、おそらく。
おかしな奴には、侵略されないはず。
…と、思いたい。




