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贄の巫女 禍津の蛇   作者: 凪崎凪
参の章 学校ノ怪談 十不思議編
18/20

六の話

 「秋華(あきか)元気してたか~?」


そう言って、秋華のほほを抓っていた手をひらひらさせて悪げなく笑う女性に、秋華は何も言わずに抱き着く。

そして、怒ったような嬉しいような表情でその女性、空音(そらね)に言う。


「空ちゃん! 空ちゃんっ!」


そう言って頭を空音のお腹にグリグリする。 そんな秋華を困ったように見つめる空音。 そして呆れたように秋華に言う。


「なんだなんだ? まだ1週間くらいじゃないか? 大げさだなぁ、いや甘えんぼか?」


そう言った後、秋華を引きはがし秋華の頭を乱暴に撫でる。


何時もはおとなしい、どこか大人びた表情の秋華しか知らない3人はまるで子供のような、いや実際子供であるが秋華を見て驚くと共に、空音という女性が秋華にとって大事な存在であるとこの短時間で知れた。


「あの……」


だが何時までも突っ立っている訳にもいかず、静流(しずる)は秋華を構い倒している女性、空音に話しかける。


「おっと、ごめんごめん。 自己紹介してなかったね。 私は七霧(ななきり) 空音、秋華の保護者さ」


「俺は燕子花(かきつばた) 静流です。 こっちは姉の……」


「燕子花 志乃(しの)です」


「ボクはジョン=スミシーでス」


それぞれが自己紹介を済ませた後、空音は双子を見て言う。


「おっ? じゃあ君たちが和人(かずと)さん所の子?」


そう言われ静流は戸惑うが、志乃は父親から聞いていたため普通に答える。


「はい、あの七霧さん「空音でいいよ」 あ、じゃあ空音さんは燕子花家で修行されていたんですよね?」


静流は聞いてないぞ、といった視線を双子の姉に向けるが志乃はまるっと無視した。


「ええ、と言ってもあなたたちが生まれてすぐ分家の所に移ったからね」


静流は空音が22~3歳前後であると推測した。 となると燕子花家を出たのが空音が5~6歳ぐらいだろうか? 

空音はそんな考えを浮かべた静流をチラと見やるが、それについてはなにも言わないで2,3思い出話をするに留めた。

志乃はなおも質問をしたかったが、秋華のソワソワした態度を見てまたでいいかと質問するのをやめる。

秋華がここまで態度に表すのも珍しいと静流は思った。 

いや出会ってまだ日が浅いのだが、なんとなく静流はそう思った。

空音もそんな秋華に気付いたのか、もう一度秋華の頭を撫でる。


「秋華を送ってくれてありがとね。 後は私が送っていくよ…… まあ自分の家なんだけどね」


そう言われ、空音の実力も確か…… 誰一人空音の接近に気付けなかった事からも自分たち以上の実力があると判断し、ここで別れる事にした。


「じゃあ秋華さんまた学校でね」


「お疲れサまでしタ!」


「じゃあまた明日」


「は、はいここまでありがとうございました」


そんな4人を空音はほほえましそうに見て、ふと思い出したように口を開いた。


「そうそう、すぐじゃないけど私も参加するから、その時はよろしくね?」


参加、つまり前回の有志である空音が第三十六次封印戦に参加するというのか。

これは朗報である。 人手不足に嘆いていた教師たちも喜ぶだろう。

志乃とジョンは素直に、静流は何やら考えていたが、それぞれ礼を言ってそのまま別れた。


「空ちゃん! 参加って今回の……」


「あーそれは家に戻ってからな。 ほれ足を動かす!」


そう言って空音は秋華の背後に回り、背中をグイグイ押しながら駆け足になる。


「ちょ、空ちゃ…… もーう!」


秋華はそんな空音に文句をいいつつ嬉しそうに笑う。

そのまま秋華は前を向き、言われたように速足になって家に向かう。

なので秋華は気づかなかった。 空音が苦しそうな、辛そうな表情で秋華を見ていた事を。


家に到着すると、秋華は玄関前でクルリと振り返り万面の笑みで空音に告げる。


「おかえりなさいっ空ちゃん!」


「はい、ただいま」


そんな秋華に苦笑しつつ数週間ぶりとなる我が家に空音は帰って来た。

その後は、子犬のようにまとわりつく秋華を構いながら、離れていた時の事を適度に話せる所は話し、明日ではないが組織に参加し見回りなどにもかかわる事を話す。 その後は、秋華の学園での話しを聞きウトウトしだした秋華を寝かしつけ、空音は買っておいたビールを1缶開け時を待った。


時刻は深夜の2時を回りしばらく経った頃居間の一角、鬼門すなわち北東 (うしとら)(うし)(とら)の間)で異変が起きた。

ゴボゴボと、なにか水道を逆流するかのような音が部屋中に響きジワリとナニカ(・・・)が起き上がった。

ナニカ(・・・)は犬のような不定形のソレであり、グネグネと形を変えながら動きだし……


(おん)! 阿毘羅吽欠裟婆呵(あびらうんけんそわか)!!」


空音の抜き放った刀に刺し貫かれ、その動きを止めた。


「ふーん。 面白い霊だな? ふんふん、ほ~ん、こうくるか、じゃあこうで……どうだ!」


空音はしばらく刀をその霊に刺したまま、なにやらブツブツと言っていたが、やがて刺したままの刀身をひねるとおもむろに引き抜いた。

するとその霊は、その姿からは想像できないような甲高い、女性の声で絶叫をあげ消滅した。


「さて、これでしばらくはおとなしくしてくれればいいが、な」


しばしの警戒ののち、空音は刀をいずこかへしまうと自分の寝室に向かった。





「……ああああああああああああああああっ!? ああっ! ちぐしょうチクショウウウウ! あいつアイツあの女ぁぁぁぁぁっ!!??」


そこはさびれた神社であった。 その朽ちた(やしろ)で一人の女が顔面を抑え、うめき、いや叫んでいた。

地面に(ひざまず)き、だれかを呪い恨みの言葉をつぶやき続けるその女に、そこにはその女しかいないのにも関わらず、その女以外の声が響く。


「あー、もしもしぃ~ダイジョブですかぁ~? もしかしてダイジョバないdeath (デス)かぁ~?」


その、どこか人をおちょくったような言葉にうめいていた女は、そのなにかにむけて叫ぶ。


「うるっさい! 黙りなさいっ”ことさぎっ”」 「りょ! だまりまーす」


ことさぎと呼ばれたその声は女、麻宮(あさみや)の声に反応し沈黙した。

しばらくブツブツと言っていた麻宮はやがて恐る恐る手を顔から離すと、着ていた白衣から手鏡を取り出す。

そしてひとしきり顔を眺めるとホッとしたため息を吐く。


「おのれぇ、アイツ、七霧 空音っ! まさかあそこまでデキルやつだったなんてっ。 まずいわ、計画の見直しが必要ね……」


そう忌々し気に呟くと、地面に貼っていた禍々しいお札を引きはがし持っていたライターで火を付け完全に燃え尽きるのを確認し、その場から立ち去った。











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