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贄の巫女 禍津の蛇   作者: 凪崎凪
参の章 学校ノ怪談 十不思議編
15/20

三の話

小高い丘、そこに一人の女性が佇んでいた。

その女性、少女と呼ぶ方が正しいほどの年齢に見える。

彼女は待っていた。

やがてしばらくして、少女の待ち人は現れる。


「お仕事はもういいのですか?」


「はい、姫様、お待たせしましたか?」


待ち人、その男性は鎧、いわゆる胴丸を着こみ刀を腰から下げている武人のような男は、姫と呼んだ少女の側まで来ると少女が今まで見ていた風景、領地の町並みを見下ろした。


「今、町では噂になっている隣の領主が我が領に(いくさ)を仕掛ける準備をしているというのは本当なのでしょうか」


少女は、隣に立つ男に聞き取れるかどうかという独り言ともとれる声量でつぶやいた。

その問に男はいかめしい表情を変える事なく軽くため息を吐いた。


「我が領、かどうかは今だわかりませぬが、戦の準備をしているのは確かなようです」


「父上はなんと?」


さらに問いかける少女に、男は少女の方に向き直り口を開く。


「姫様、ご心配には及びません。 正忠(まさただ)様は戦上手と近隣に勇名を馳せたお方、かの領主は野心は高いですがこの地にやすやすとは攻められますまい。」


少女は今だ町並みを見下ろしたまま、そうでしょうか、と呟いた。


「ねえーー? わたくしは思うのです。 この……」



景色がぼやける。 炎のように揺らめき、瞬き、薄れそれはまさに夢のようで。







ふと、夜中に秋華(あきか)は目を覚ます。

なにか夢を見ていた気もするが、それがどんな夢であったのかは思い出せずなにやらモヤモヤする気がした。

壁に掛かっている時計を見ると午前2時、昔なら丑三つ時とも呼ばれ(あやかし)が跋扈すると言われた時間であった。

秋華は学校での事を思い出し恐ろしく思ったが、その学校での説明によれば学校外での怪異はほぼ起きる事はないという事を思いだす。

例の存在の封印にはそういった効果、大原江市内の霊的存在をこの学校に引き寄せるといったことも含まれる。

それらを封印の力とするために。

その事を思いだしほっと息を付き寝直そうと布団に潜り込み…… 体を硬直させた。

その秋華の視線は板張りの天井の隅、そこにくぎ付けとなっていた。

この古い木造の家の天井にふさわしい、というのはおかしいが所々隙間があり秋華は常に雨漏りの心配をしていたのだがその隙間の一つ、そこから秋華を見つめる”目”があった。

それは図書室で見たあの目といやにそっくりで……

秋華が”ソレ”に気付いた時、ガタゴトと天井から物音がしだす。

まるでその隙間から”目”が抜け出そうとするかのように。


「ヒッ!?」


慌てて布団から抜け出そうとするが思ったように体が動かないことに秋華は焦りながらも、転がるようにしながら布団から抜け出す事に成功し、中腰になり再び天井を見やる。

するとそこにはその隙間の大きさからはありえない大きさの黒い(もや)がかった人型のナニカが這い出ようともがいていた。

ソレは見た目からはまるでかけ離れているが、なぜか秋華には蛇のように見えた。


「くっ! (りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」


大日如来の五字真言だいにちにょらいごじしんごんと共に静流(しずる)に教わった九字、人差し指と中指を合わせ立てた状態で空中に線を描くように四縦五横に切る。

早九字と呼ばれるそれを行なうや否や、バシンッと音が鳴り響き気付けばナニカは姿を消していた。

秋華は深く、深く息を吐くと腰砕けたようにヘナヘナと座り込む。

これはもう眠れないなとそっとため息を吐くのだった。








「は? 学校外で悪霊が出た!?」


朝、ともすれば閉じようとする瞼を無理やり開けながら秋華は学校に向かう途中、同じく登校中だった燕子花(かきつばた)の双子に夜中の出来事を話した。

突然大声を上げた志乃(しの)を周りの生徒などが視線を向けてくるのを感じた志乃は慌てて口を両手でふさぐ。

双子の弟である静流は愛想笑いを浮かべごまかした後、少しだけ声を小さくして秋華に話掛ける。


「撃退……は出来たんだな? なにか身体に異常とかはないか?」


心配そうに、志乃と同じく吊り上がりぎみの眉を気持ち下げながら静流は秋華に尋ねた。

その様子をなんとなく、本当に何となく嬉しく思いながら秋華は問題ないと答える。


「とりあえず先生に報告したほうがいいわよね?」


志乃は二人を何とはなしに見やりながらそう言った。

正直イレギュラーな事ばかりで志乃は考える事を放棄したかった。


怪異、オカルティックな現象を封じ込め学校に集中させる。

それがこの封印のシステムだ。 そのはずであった。

そうでなければこの街はすでに崩壊していただろう。

それほどのモノなのだ”アレ”は……


「だな。 すぐに報告した方がいいだろうな」


静流がそう言い、足を早めようとした時志乃が待ったを掛ける。


「私が行くわ。 あんた達はゆっくり来なさい、ゆっくりね!」


そう言うと志乃は早速とばかりに駆け出して行った。

どうやら捻挫は完全に回復したらしいと静流は呆れを含んだため息吐く。

秋華はどういっていいか分からず曖昧な笑みを浮かべる。


「おっ! 秋っちだー! おはー」


秋華達の後ろから、朝から能天気とも思える少女の声が響く。

振り向いて見れば呑気に手を振りながらこちらに駆けてくる坂下(さかした) 恵夢(めぐむ)の姿があった。


「お、おはようございます」


「おはおはー、おや? もしかしてお邪魔だったかにゃー?」


恵夢は静流の方を見やりながら、ニヤニヤとチシャ猫のような笑みを見せる。


「あ! 違っ!? こ、この人は先輩で、その……」


秋華はなにやら勘違いをされている事に気付き、慌てて否定する。

その秋華の姿に何となく残念に思いながら、静流は恵夢に向き直り自己紹介をする。


「二年の燕子花だ」


ぶっきらぼうな静流の挨拶に動揺することなく恵夢はむしろ面白そうな表情を浮かべる。


「おおー! 噂の燕子花の双子の男子の方!」


なかなか失礼な反応だが静流は気にした風でもない。 双子が珍しいのかこういった反応はよく受ける。

影でこそこそ言わないだけマシであった。


その後も恵夢が騒ぎ秋華が困った笑みを浮かべながら3人は校舎へと吸い込まれていった。




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