4話 最初の戦い
女子高生女神のクレハは俺に魔王討伐の使命を与え、そして、一緒に異世界に転移した。
クレハは言う。
「わたしたちが魔王を討伐する理由は二つあります。一つはこの世界の苦しんでいる人々を救うこと。もう一つは、魔王を倒した勇者には、想像を絶する力が与えられることです」
「力、ね」
「はい。『天の鍵』……それが魔王ペンドラゴンの持つ力の源です。ロッカクさんとわたしが、魔王を倒せば、その鍵はわたしたち二人のものとなります。世界を支配するほどの強力な力が手に入るんです」
「その力があれば……」
「きっと……どんな願いでも叶えられます」
その言葉は力強く、また祈りのようでもあった。
クレハはぎゅっと目をつぶっていた。
「君は神様なんだよね。なのに力が必要なのかな」
「わたしはこの世界で崇められている神の一柱です。でも……全知全能というわけじゃありません。できるのは異世界から人を送り込むことと、ちょっとした干渉を行うぐらいですから」
「他にも神がいるってこと?」
「はい。でも、程度の差はあれ、世界を支配するほどの力を持った神はいません」
なるほど。
つまり、魔王を倒すことは神々にとっても重大な関心事ということだ。
自分の送り込んだ人間が魔王を倒せば、神にもその力が分け与えられる。
少し事情が飲み込めてきた。
つまり、この女神様が俺についてきたのは、魔王の力を手に入れるため……ということだろうか?
クレハはふわりと柔らかく微笑んだ。
そのとき、木々が揺れ、何かがうごめく音がした。
俺はとっさに身構えた。
そこにいたのは巨大な狼……のような生き物だった。
灰色の深い毛に覆われ、瞳は黄色に輝いている。
威嚇するように口を開け、恐ろしげな牙がむき出しになっていた。
人里を離れた森なら、こういう化け物がいることは不思議ではない。
問題なのは……身を守る手段がないことだ。
俺の心の内を見透かしたように、クレハが手を差し出す。
「魔物ですね。ロッカクさん。わたしの手を握ってみてください」
「え?」
「そうすれば、ロッカクさんが必要とするものが手に入りますから」
「ええと」
「……恥ずかしいのはわたしもです」
クレハは頬を赤くして、ぼそっとつぶやいた。
俺は観念して手を握った。
クレハの手は小さく、そしてひんやりとしていた。
女子高生と手をつないだりして、いいんだろうか。
妙な後ろめたさを感じた瞬間、俺とクレハのつないだ手が輝き始めた
「ゆっくり離してみてください」
言葉通り、俺がクレハから手を離すと、まるで俺がクレハの手から引き出したかのように、一振りの刀が現れた。
おおよそ一メートルぐらいの長さで、ほぼ日本刀と同じ見た目をしている。
ただし、刀身が真っ赤に輝いている。
「この刀はいったい……?」
「それはロッカクさんの神器『斬鉄剣』です。わたしと契約したことで、神の力を宿した武器が使えるんです」
「なるほど」
だが、刀身が赤いことを除けば、普通の日本刀にしか見えない。
けれど、クレハはこの武器で魔物に勝てることを確信しているようだった。
「ロッカクさん……あの魔物を倒してください!」
俺は狼のような生物を見つめた。
じりじりとこちらに迫ってくる。
正直、いきなり魔物と戦えと言われても困るのだが……仕方ない。
俺は覚悟を決めた。
高校では剣道部だったし、形ばかりの段位を持っているが、あれは実戦に役立つかといえば、また別だ。
刀はずしりと重い。
おおよそ日本刀の重さは、剣道で使う竹刀の三倍らしい。
間合いをはかる。
ついに魔物が飛びかかってきた。
そこに隙ができる。
大きく飛び上がった魔物の腹は、無防備にさらされている。
次の瞬間、俺は右足を前へと踏み込んだ。
そして、刀を左へと振るう。
ずしりと重い手応えがあり、そして赤い血が飛び散った。
目の前には、魔物の死体があり、腹部から一刀両断されていた。
ほっと俺は息をつく。
「やりましたね!」
クレハが嬉しそうに駆け寄ってくる。
とりあえず身を守ることには成功したらしい。
ついでにクレハのことも守ることができたのかもしれない。
クレハは青い瞳で、俺を上目遣いに見つめた。そして、控えめに微笑んだ。
☆あとがき☆
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