3話 異世界っぽい気がします
目を開けると、まぶしさに目がくらんだ。
俺は森の中に立っていた。
昼間だったが、周囲にあるのは木と細い道だけで、他に人はまったくいない。
ただ、一人、隣に立つ少女を除いては。
女子高生の制服を着て、そして白い翼を持つ女神様のクレハだ。
クレハはくすっと笑い、黒い瞳で上目遣いに俺を見つめた。
「どう……ですか? 異世界は?」
改めて見ると、クレハは本当に美少女だ。
首を小さくかしげていて、あどけない表情とあいまって、そんな仕草も可愛かった。
俺はうろたえそうになる自分を抑えた。
相手は年下の女子高生だ。
ただ、彼女もいたこともないし、免疫がないのだ。
バレンタインのチョコだって、バイトで講師をしていた塾で、小学生の女の子からもらったことがあるだけだ。
色恋に興味がないわけではないが、職場の後輩に「先輩♪ 先輩♪」と呼ばれて、好かれているだろうと勘違いして、告白して玉砕したのが半年前のことでもある。
思い出したくない失敗を脳裏から振り払い、俺はクレハの質問に答えることにした。
異世界についての感想だが……。
「素晴らしい、と言いたいところだけど……ただの森にしか見えないね。異世界かどうかわからない」
木しかないのだから、異世界とわからなくても仕方がない。
針葉樹がたくさんある。日本で言えば、カラマツに近いだろうか?
これで異世界を感じろ、と言われても無理がある。
クレハはちょっと困ったような表情を浮かべ、そして白い手を振り上げた。
その弾みに制服のスカートがふわりと揺れる。
その指先は天高くを指していた。
「あれを見ても同じことが言えますか?」
雲ひとつない青空には、太陽が……二つ輝いていた。
一つは赤みがかった色で、もう一つは青系の色で光を放っている。
俺はしばらく黙り、それからうなずいた。
「たしかに異世界みたいだ」
クレハはぱっと顔を輝かせた。
「良かったです。……少し歩いてみれば、他にも証拠がありますよ?」
といって、クレハはかろやかな足取りで、道を歩きはじめた。
仕方なく、俺もついていく。
女神だというこの女子高生は、上機嫌な様子だった。
その理由は俺にはわからない。
だいたい、女神だというなら、なぜ俺なんかについてくるのか?
わからないことだらけだ。
しばらくすると、森の中の開けた場所に出た。
森、というより、俺たちがいるのは山のようだった。
目の前には崖があり、かなり見晴らしが良く、山のふもとの様子を眺めることができた。
城郭に囲まれた大きな街が、眼下にある。
ヨーロッパ風といえばよいのだろうか?
フランスの世界遺産に城郭都市カルカソンヌというのがあるが、それに近い見た目だ。
街は高い茶色の城壁に囲まれていて、そのところどころに赤い屋根の要塞が備えられている。
そして、街の建物はすべてレンガ造りだった。
「ここが異世界です。わたしが神として崇められている世界。そして、あなたが救うことになる世界です」
「魔王を討伐する、という話だよね。でも、俺は何の取り柄もない一般人だよ。魔王と戦うなんて不可能に思えるな」
「何の取り柄もない、なんて言わないでください、ロッカクさん」
六角という俺の名前に、クレハは妙な抑揚をつけた。
俺の怪訝な表情に気づいたのか、クレハはいたずらっぽく青い瞳を輝かせた。
「こういう呼び方のほうが……異世界っぽい気がします。嫌ですか?」
「かまわないよ」
俺が肩をすくめると、クレハは嬉しそうに微笑んだ。
そして、白い人差し指を立てる。
「わたしたちが魔王を討伐する理由は二つあります」
呼び方は大事。
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