10話 ひとつ屋根の下
「つまり、ロッカクさんは……わたしみたいな子のことが好きってことですよね?」
俺はそうクレハに問われ、困った。周りには人もいるし、視線が気になる。
実際、俺が返事をする前に、アリスさんがクレハを制止した。
「ダメですよ! そんな誘惑するようなこと言ったら」
「ゆ、誘惑? そんなつもりは……ないです」
クレハは顔を赤くしてうつむいた。
俺はほっとして、話題を変えることにした。
どう答えても、地雷を踏みそうな質問だったからだ。
「さっそく冒険者登録をしたいんですが……」
クレハのスリーサイズまでわかってしまったのは予想外だったが、本来、鑑定を受けたのはこれが目的だ。
アリスさんはうなずくと「そうしましょう、そうしましょう」と言って手続を進めてくれた。
ともかく、俺とクレハは冒険者登録を終えた。二人とも、とりあえずはEランクの冒険者として出発だ。
鑑定の結果、俺は平凡以下の能力、クレハは最高クラスの能力があるということもわかったから、素質には大きな差があるけれど。
もう時計の針は夕方を回っているし、宿をとったほうが良さそうだ。
俺がアリスさんに尋ねると、アリスさんは「よく聞いてくれました」と胸を張った。
「この冒険者ギルドは宿屋を兼ねています。ギルドの一員なら、割引で格安の料金で泊まれますよ」
「なら、2つ部屋をとっていただけますか?」
「はい。それでは……あっ。あいにく安い部屋が一つしか空いてない……」
宿の部屋にはランクがあるようだ。
俺たちの所持金は少ないから、安い宿泊代で泊まれる部屋にする必要がある。
だが、安い部屋は一つしか空いていない。
別の宿に泊まれば、割引もないから、より高い値段になる。
俺とクレハは顔を見合わせた。
どうしようか、と俺は思案していたのだけれど、クレハは少し違った考えを持っていたようだった。
クレハは首をかしげ、そしておずおずとアリスさんに話しかける。
「あの……その部屋って、二人で泊まることはできませんか?」
「え? ええと、たしかにダブルベッドだから二人泊まれるけど……」
「それなら……わたしとロッカクさんが……その部屋に一緒に泊まればいいと思うんです」
クレハの言葉に、俺もアリスさんも凍りついた。
男と一緒の部屋に泊まるというのがどういうことか。クレハは理解していないんだろうか。
案の定、アリスさんはクレハを説得にかかった。
「クレハちゃんがこの人を信頼しているのはわかるけど、それはおすすめできないです」
「ロッカクさんは……何もしたりしませんよ?」
そう言って、クレハは青い瞳で俺をじっと見つめた。
「いいですよね? ロッカクさん」
「それはまずいんじゃないかなあ」
「ロッカクさんはわたしになにかしたりするんですか?」
「もちろん、何もするつもりはないよ」
「なら……いいじゃないですか」
そういう問題ではないのだけれど。
俺もアリスさんも困り果てた。
が……まさか野宿するわけにもいかないし、別々の部屋に泊まる金もない。
それにここは異世界だ。多少の非常識は許されるだろう。
「わかった。同じ部屋をとろう」
そう俺が言うと、クレハはぱっと顔を輝かせた。
どうしてそんなに嬉しそうにするんだろう?
だいいち、俺に対する無条件な信頼も不思議だ。
もしかしたら女神の力があるから、俺に襲われそうになっても平気と考えているのかもしれないが。
「ただし、ベッドはクレハだけが使ってほしい」
「え? ……ロッカクさんは?」
「俺は床で寝るよ」
「そんな! わたしだけベッドで寝て、ロッカクさんに床で寝てもらうなんて、できません……!」
「まさか俺とクレハが同じベッドで寝るわけにはいかないよ」
「わたしは……それでもいいんですよ?」
クレハは頬を赤くして、上目遣いに俺を見た。
恥ずかしがるなら、そんな提案しないほうがいいと思う。
「同じ部屋に泊まるなら、寝床は別々が条件。アリスさんもそう思いますよね?」
アリスさんは「うんうん」とうなずくと、俺に毛布を何枚か貸してくれた。
それを使えば、床でもある程度は快適に眠ることができる。
クレハはなおも不満そうにしていたが、結局、俺の提案にうなずいた。




