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1話 女神を名乗る女子高生

「ロッカクさん……起きてください。朝、ですよ?」


 優しい声がする。

 俺が目を開けると、すぐそばに銀色の髪の美しい少女がいた。

 青い瞳でじっと俺を見つめ、そして微笑んでいる。


 寝間着の白いシャツは、胸元のボタンが外れていて、柔らかな膨らみの谷間を見せつけていた。

 ここは異世界の宿屋で、そして、俺とこの少女――クレハは同じベッドに寝ていた。

 断じてやましいことがあるわけじゃない。クレハは17歳で、俺は25歳。俺は彼女の保護者みたいなものだ。


 二つベッドのある部屋がとれないから、こうして俺たちは並んで寝ていた。

 くすっとクレハは笑う。


「わたしに見とれていました?」


「女子高生に見とれたりしないよ」


「わたしは、目が覚めたらロッカクさんが隣にいて、幸せですよ」

 

 クレハはそう言って、本当に幸せそうに笑った。

 俺は自分の頬が熱くなるのを感じ、なんと言えばよいかわからなくなった。

 

 どうして異世界で、こんな状況になったのか。

 話は少し前にさかのぼる。



 25歳の冬。

 俺、すなわち六角進には二つの転機が訪れた。


 といっても、大金を手に入れたわけでもないし、結婚したというわけでもない(彼女もいない)。


 一つの転機は、大学卒業以来、三年働いた仕事を辞めたこと。


 もともとブラックな職場で、勤務時間も長く、日付が変わるまで働くことも、土日も働くことも多かった。

 何より体育会気質で、上司に理不尽に怒鳴られることも日常茶飯事だ。


 そして、俺は落ちこぼれだった。

 ある日、上司に罵倒された挙げ句、「君はここに必要ないから」と言われ、俺は逃げ出した。


 無職になった俺に、もう一つの転機が訪れる。


 男の一人暮らしにも関わらず、俺は部屋もきちんと整理しているし、自炊だってちゃんとする。

 それは俺の数少ない長所の一つだった。


 というわけで、冬のある日、夕飯の材料を買おうと思い、近所の商店街に出かけた。

 

 人通りのなか、一人の少女の後ろ姿が目に入った。

 十代後半だろうか。

 冬だというのに、丈の短いスカートを履いていた。

 

「きゃあああああっ!」


 突然、少し離れた場所から悲鳴がした。

 見ると、路上に血まみれの女性が横たわっている。そして、男がナイフを持って、それを見下ろしていた。


「通り魔だっ!」


 周囲が騒然とするなか、男はゆっくりと少女へと近づいていく。

 次の獲物ということだろう。

 少女は恐怖のあまりか、立ちすくんでいた。


 男は刃物を振りかざし……そして俺はとっさに飛び出した。

 俺は命を賭けて誰かを助けるなんて、そんな柄じゃない。

 きっと仕事を辞めて、少しおかしくなっていたのかもしれない。


 俺は男からナイフをとりあげることに成功したが、その直前に揉み合いになり、はずみで胸を深く刺されてしまった。

 地面に崩れ、自分の体から流れる大量の血を見つめる。


「死んじゃ……ダメです」


 助けた少女が黒い瞳から涙をこぼして、なにかをささやいているのは聞こえたが、その顔はぼやけてよく見えなかった。

 やがて意識が暗転する。


 こうして俺は命を落とし……。


 ☆

 

 目が覚めると、空のような、ひたすらに水色の空間にいた。

 どうもふわふわとする、と思って足元を見ると、実際に浮いている。


「あの……気がつきましたか?」


 透明感のある声がする。

 顔を上げると、そこには美しい少女が立っていた。


 銀色に輝く髪をまっすぐに伸ばしていて、顔立ちは少しあどけないが、人形のように整っている。

 すらりとした長身の体は驚くほど美しく、大きな青い瞳は綺麗に澄んでいた。


 ただ、その表情はやけに気弱そうだった。


「え、ええと、わたし、一応女神なんです。六角進さん。残念ながら……貴方の命は失われました。そして、これから日本とは別の世界へ旅立つことになります」


 女神、という言葉は非現実的に響くが、まったく信じられない話でもなかった。

 俺が死んだのは確かだろうし、この謎の青い空間も超常現象だとしか思えない。

 なにより、目の前の少女の背中からは白い翼が生え、神々しいオーラを放っていた。


 しかし。

 その服装が問題だった。


 白いブラウスに赤のネクタイをつけていて、そのうえに淡い灰色のカーディガンを羽織っている。

 スカートは綺麗な水色で、丈は短めだった。黒のニーハイをつけている。


 どう見ても……女子高生の制服だ。

 たしか市内の名門校ではなかったろうか?


「えっと……どうされましたか?」


 自称女神の女子高生が、ちょこんと首をかしげる。


「あの……高校生ですよね?」


「高校生ではなくて……女神です」


「でも……」


「信じてくれないんですか?」


 自称女神は困ったような表情になり、身をかがめて俺に顔を近づけた。

 ふわりと美しい銀髪が揺れ、かすかに甘い匂いがした。

 思わずどきりとする


 それに、動いた弾みに大きな胸がかすかに揺れ、ついそちらを目で追ってしまった。

 少女は恥ずかしそうに、手で胸を覆った。


「あ、あの……あまり見ないでください」


「す、すみません」


「……六角さんだから、許してあげます」


 そういえば、さっきから少女は俺の名前を呼んでいる。

 どこで俺の名前を知ったのだろうか?


 少なくとも、こんな美少女の知り合いはいない。

 まあ女神だというから、何らかの超常的な手段で知っていてもおかしくはないのだが……。


「あと……六角さんが律儀なのは知っていますけど、年下の女子高生相手に敬語なんて使わなくていいですよ」


 女子高生だと自分で認めたじゃないか。


 いや、そんなことはいい。

 やはりこの少女とは……初対面じゃないのかもしれない。


「君は俺のことを知っているんだね」


「それは秘密です」


「言えない?」


 こくっと少女はうなずいた。


「……わたしのことはクレハと呼んでください」


「それはどうも。それで、君は何者なのかな」


「異世界では女神で……日本では高校に通ってます」


「女子高生が女神様というのも妙な気がするね」


「えっと、アニメとかによくあると思うんです。年頃の女子中学生や高校生がある日突然、神様になるって。あれと同じ……ことだと思います」


 自信なさそうにクレハが言う。

 俺もアニメや漫画は嫌いなほうじゃないので、言いたいことはわかるが……。


「なら、君は何の神様?」


「わたしは異世界アルカナの銀月の女神です。いちおう、あちらの世界の宗教では崇拝対象なんですよ?」


「ふうん。ということは、実は千年とか一万年とか生きてる?」


 神様とかそういう存在は大昔から存在すると相場が決まっている。

 神道でも仏教でもキリスト教でもそこは変わらないし、なら、異世界の神様だって同じだろう。


 けれど、クレハは顔を真赤にした。


「わたしは17歳です! 千年も生きてなんかいません……。わたしは五代目の女神で、なりたてなんです」


「へえ」


 ということは一定年数が経つと、神が交代するということか。

 どうして日本の女子高生が、ある日突然、異世界の神に選ばれるのかは気になるが……それより重要なのは自分のことだ。


「それで、その異世界のアルカナってっとこに、俺を転移させるってこと?」


 クレハは小さくうなずいた。


「六角さんがそれを望むのであれば」

☆あとがき☆

女子高生と、異世界でのんびりイチャイチャするだけの話です。本日夜にもう1話投稿します。


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