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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

睡眠不足のハイジャック犯

作者: 鳩ノ木まぐれ

「ぐーー、ぐーー」

「あのー」

 隣の席の彼? を見て、起こした方がいいかなと思い、青年は優しく揺すり起こす。

 彼は旅行客にしては軽装で、黒い目出し帽をかぶり、手には拳銃らしきものを持っている。

「あのーー。起きてください。貴方やることがあるんじゃないですか?」

 青年は更に揺する。

「あ? 何だよ」

 声は男だ。

「だから、貴方やることがあるんじゃないですか?」

「ああ、いけねぇーそうだった、起こしてくれてサンキューな」

 男は眠そうにあくびをすると頭を痛そうに押さえる。

「イテテ......」

 青年はずっと気になっていた彼のファッションについて聞いてみることにした。

「あのー、もしかしてハイジャック犯の方か何かですか?」

「え?」

 バレてる? まだ、何もしていないのに......。いやここは誤魔化すんだ。

「はっはっはっはっ、ソンナワケ無イジャナイカー」

 すっげぇー棒読み......。

「そうですよね。こんなところに分かりやすくハイジャック犯がいるはず無いですもんね。じゃあ、どうしてそのようなファッションを?」

 ふぅ、誤魔化せた。

「え、ファッション?」

「はい、軽装に黒い目出し帽、小物には拳銃。そういったファッションなのかと.......」

 ハイジャック犯は窓に映る自分を見るとそこには怪しさマックスの黒い目出し帽に手には拳銃が握られていた。

「ああ、ファッションファッション。どうだ? はははイカしてるだろ?」

 やべぇー。昨日、寝てなくて、ボーッとしてたらこの格好で乗っちまった。

 というか、何でこの格好で搭乗審査通ったんだよ!

「僕には分からない次元のファッションですね」

 分からんのかい!

 くそっ、しかし昨日準備してきたほとんどのプランが無駄になっちまった。ナイフ、爆弾、ガムテープ、催涙スプレー。

 あれらがないと、というか、拳銃だけじゃどうにもならねぇぞ。

 どうしよう、とハイジャック犯が考えていると青年が話しかけてきた。

「ところで提案なんですけど、折角その格好ですし、本当にハイジャックしてみては?」

「は?」

「僕、昔からハイジャック犯に憧れていたんですけど、あ、犯罪に手を染めようとかではなく、悪役として好きというか」

「はぁ」

「だから一度は会ってみたいなぁと思ってまして」

「お前正気か? 一応言っておくけどハイジャック犯に会ったら殺されるかもしれないんだぞ?」

「むしろ本望では?」

 いや聞かれても。

 ハイジャック犯はもう一度あくびをして左手にある時計を見ると丁度、午前9時を回るところだった。昨日立てた計画では開始時刻だ。

 そろそろか......。

「いつ実行しますか?」

「えっ、さっきの話、本気だったの?」

「当たり前じゃないですか僕のハイジャックにかける思いを舐めないでいただきたい!」

「ふぁわぁぁ、そうかよ」

 ハイジャック犯は眠気で上手く反応出来なくなってきた。

「とりあえず、お前、そこどいてくれない? 廊下側そっちだから出れないんだけど」

 ヤバい、頭ボーッとして......すっげぇ、ねむい。

 ハイジャック犯はが立ち上がると周りから視線が集まる。

 そして、そのまま最前列まで行きそこに座っていた若い女性を立たせて、拳銃を突き付けてこう言う。

「俺はハイジャック犯だ! これから金目のものを回収する。抵抗するものは容赦なく撃つ」

 辺りは緊張に包まれる。乗客の一部は鞄やスマホを触り次の一手を考えてる人がいる。


 ーーーーバンッ!!


 室内で威嚇射撃の銃声が鳴る。響きの後の静寂に、ハイジャック犯は静かに警告する。

「全員両手を挙げろ。......あまり、俺を舐めない方がいい」

 ただハイジャック犯の眠気は更に増していた。もう立っているのがやっとだ。

 先ほどまでハイジャックすることにノリノリだった青年は目をキラキラさせながら、

「本物のハイジャック犯だぁ!」

 と嬉しそうにしている。

 やっと気付いたのか。

 さあ、精々楽して稼ぐとしますか。眠いけど。

「おい、そこのお前!」

 そう言ってハイジャック犯は隣の席に座っていた青年に布の袋を渡し。

「まずは、その袋に財布と金目になりそうなものを全員から奪って来い!」

「......分かった」

 青年は素直にハイジャック犯の話を聞いて、乗客から財布や宝石などのアクセサリーを集める。

 俺が人質にした女性は抵抗もせずに大人しくしている。

 このハイジャックは順調だ。

 眠たくて頭が回らないから誰も抵抗しないでいてくれるのが助かる。

 暫くして青年が金目のものを入れた袋を持ってハイジャック犯のところまで戻って来た。

「かなり集まったな、いいかお前ら変な気を起こそうと思うなよ......」

 飛行機のエンジン音と風を切って飛ぶ音が微かに聞こえるが、客室は全員が息を殺したように静かだった。

 時計の秒針が進む音が意識下で聴こえる。

 ぐーー、ぐーー。

「はっ!」

 危なっ。今寝かけた。

 いかんいかん、気をしっかり保て。

 ここで寝たら捕まって一環の終わりだ。

 しかし眠いなぁ。でも人質をとったまま寝ることなんて出来ないしなぁ。

「あのー、すみません」

「なんだ?」

 ハイジャック犯に青年が訊ねる。

「どうして、操縦室に立て籠らないんですか?」

「え? なんでだ? あー、そうだな」

「ハイジャック犯なら金目のものを集めた後、普通、逃げ切ることとか、捕まらないことなんかを考えませんか?」

「あー、まぁ、普通はなっ、そう考えるよな......」

 ヤッベー、眠くて逃げること忘れてた。

「もしかして、普通とは違うハイジャック犯?!」

「普通じゃないハイジャック犯ってなんだよ。ん? ちょっと待てよ......」

 もしかして、操縦室に立て籠って操縦士(パイロット)の目さえなんとか出来れば、仮眠することが出来るのでは?

「はっはっは、そうなんだよ実は今々そうしようと思ってた所なんだよ。よくわかったなぁ。おい、そこのCA(キャビンアテンダント)

 両手を挙げ、機内の端で震えていたCA(キャビンアテンダント)に指示する。

「は、はいっ!」

「俺と人質が操縦室にたどり着けるように道を空けろ」

「わ、分かりました」

 ハイジャック犯はCA(キャビンアテンダント)が空けた道を通り操縦室までやってくる。

 そして、女性の人質を操縦室から追い出し、扉に鍵をかけ、操縦室を機長とハイジャック犯だけにする。

 そして、機長に状況が分かるように拳銃を突き付けて。

「おい! 冷静に聞け、この機体は俺がハイジャックした。

 今からお前は俺の人質だ。俺の言う通りに飛べ」

「か、かしこまりました」

 機長はハイジャック犯の言う通りに飛行機を傾ける。

「よーし、あとは逃げるだけだ。いいか言う通りにお前らがすればこっちも無駄な殺しをしなくて済むんだ」

 さて逃げる前にやっと仮眠がとれる。

「機長、とりあえず燃料が持つまで飛び続けろ、あと絶対後ろを振り向くな、いいな、絶対だぞ!」

「はいっ...分かりました!」

 よし、これでやっと寝られる。



「ぐぅぅぅぅぅーーー.......。ぐぅ...ガァっ! .....」

 ハイジャック犯はしばらくすると無意識の内にいびきをかきはじめた。

 機長は一人「嗚呼、なんだろうこの甘すぎるハイジャック犯は」と思った。

 機長は静かに遠隔のオートパイロットに切り替え。ハイジャック犯を操縦室に置き去りにして客室へ出る。

 そして、スタッフルームの壁に隠してあった通信機で管制塔に連絡をとり、遠隔でこの旅客機をすぐに着陸するように指示する。



 機長が連絡してから3時間がが経過した。

「ぐーー、ぐぅぅぅぅぅ......。ぐっ、ん?」

 ハイジャック犯は目を覚まし、辺りを見渡す。

「ん? ああ、ハイジャックの間に仮眠を取ったんだ。ふわぁー、寝みぃ、どうだ? 機長、燃料はまだ持ちそうか?」

 ハイジャック犯は機長に話しかけるが反応がない。

「おい、殺されたいのか、答えろ......あれっ?!」

 操縦席に近づき見ると席には誰もおらず、ハンドルも握られていない。

 そして、前方を見ると飛行機は真っ逆さまとはいかないものの着実に地面へ近づいている。

「なっ、何ぃぃぃ?! 墜落するぅぅぅ! ああああああああああ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 ハイジャック犯は座席にしがみついた。振り落とされないようにそれは必死で。

 ぶつかるぶつかる、と何度も思ったがなかなか衝撃が来ない。

「もしかして、浮いてる?」

 と思った瞬間。

 ドッ! と機体が縦に揺れ、気を抜いていたハイジャック犯は体が浮かび、床に打ち付けられる。

()ってぇ!」

 衝撃のあと直ぐに飛行機はゆっくりの速度で移動し始める。

 着陸したようだ。

 ハイジャック犯は立ち上がり前方を見ると警備隊が突入のために準備をしているのが見えた。

 ハイジャック犯は慌てて、扉を開けようとしたが向こうから力一杯押さえられているため開かない。

「くそっ、どうなってるんだ!」

 ハイジャック犯は客室の戸を叩いて叫ぶ。

「おい! てめぇらここを開けろ!! ......聞いてんのか! 開けろって言ってるだろ! おい! ......おい! 無視(シカト)決め込んでんじゃねぇーよ! 開けろよ! クソッ! 開けなかったらてめぇら全員痛ぶって、後悔させてやるからなぁ! おい! 本気だぞ! いいのか! この俺を怒らせたんだ、このぐらいの報いは受けてもらうぞ!」

 ハイジャック犯は扉の向こうにいるはずの乗客と機長ら(クルー)に脅しをかける。

「......」

 が、反応がない。

 その代わり飛行機が止まり乗客が避難していく、そして警備隊が飛行機の中になだれ込んだ。

「くっそっ、もう終わりだ、訓練された奴らに勝てる程、俺の装備が整ってねぇ、もう、どうしようもない......」

 ハイジャック犯はその場で膝をついた。



 飛行機がハイジャックされてから3時間半、機長は乗客たちの協力を得てハイジャック犯を閉じ込め、オートパイロットによって着陸することに成功した。

 先に連絡しておいたおかげで警備隊の準備も万全にすることが出来た。

「お待たせしました。皆さんご無事ですか? もう大丈夫です」

「おお、よかった、これで助かる」

 操縦室の扉を押さえることに協力していた乗客は皆、安堵を口にした。

 この中で扉を押さえていた青年が呆れたように言う。

「助かりませんよ?」

「......」

 ここにいる全員が青年を見る。

 機長はそんな青年に優しく話す。

「君、何をふざけたこと言っている? 警備隊も来てくれた。もう安心だ。あまりみんなの不安を煽るようなことはい言うものじゃない」

「.......はははっ! お前らは全員助からないんだよ!」

 そう言っておもむろに青年は爆弾のスイッチをズボンの右ポケットから取り出して見せつける。

「何!? まさか、ハイジャック犯の仲間か?!」

「ちげぇよ、あんな何の考えも無いような犯罪者と一緒にするな、俺は人間を破壊して嗤う破戒神(テロリスト)だ!!」

 はははは、と笑うテロリストの青年。

 警備隊は青年に聞こえないように、

「あのスイッチを押させるな」

 と、耳打ちする。

 それを見た青年は

「あーー、銃は捨てなくてもいいぞ、どうせ撃っても、俺が死ねば爆発するからな」

「......」

 その場にいる誰もが「どうすることもできない」と、思った。

 機長は青年に恐る恐る聞く。

「何が望みですか?」

「......余興」



 飛行機着陸から約10分。

「おかしいな、全然突入してこない......」

 もう、乗客は避難し切れているだろう。たとえ、拳銃を持っていたとしても安全に俺を捕らえることは十分に出来るだろう。

「なんで突入してこないんだ?」

 ハイジャック犯は扉に耳を当て向こうの様子を探るがこの分厚い扉では何も聞こえない。

「開けてみるか?」

 意を決して扉を押すと少し動いた。隙間を覗くとそこには、あの青年がスイッチのようなものを掲げ、それを見て全員が固まる光景が広がっていた。

 まるでテロリストのように。

「何が望みですか?」

「......余興」

「余興って我々に一発芸でもやれと?」

 青年はナイフをしっかりと握り機長に近づいて、機長の腹部にグサリと刺した。

「あ、......ぁ..ぁ....ぁ......」

 機長は痛みに耐えていたがしばらくして耐えきれず苦しみながら崩れ倒れる。

 それを見ていたハイジャック犯は、

「おい!」

 と、言って勢いよく扉を開けた。

「あ、やっと出てきましたね。無能のハイジャックさん」

「何で刺した。機長を刺す必要は、今はなかったはずだ!」

「はぁ、無粋なこと言わないで下さいよ。貴方はごっこ(・・・)で悪党をやっているのかもしれないですけど僕は真剣に破戒神(テロリスト)になりたいんですから......」

 青年は最後の方、ニヤニヤと笑いを堪えながら言う。

「それにいつまでそのダサイやつ被ってるんですか? まさか今まで犯罪を犯してきたのに身バレを気にして、やってきたんですかぁ?」

 青年は煽るようにハイジャック犯に言う。そして、声のトーンを低くして怒鳴る。

「追われる覚悟の無い犯罪者(ひきょうもの)に正しさを語る資格なんて無いんだよ!!」

「......」

 まぁ、寝不足のまま来てしまったハイジャック犯が何を言おうと説得力無いわな......。

「お前はお前の悪のために行動したんだな? じゃあ俺は俺の正しいようにするまでだ」

 そう言って俺は拳銃を構える。

「おい、警備隊、お前ら死にたくなかったら爆発するまで機長を連れて操縦室に籠ってろ」

「ダメだ、あの爆弾の威力はこの飛行機を吹き飛ばせるようなものだ、扉一枚くらいじゃあ意味がない」

()()()()......。いいから入ってろ」

 警備隊はハイジャック犯の圧に負け、いう通り操縦室に入り扉を閉める。

「おいおい、悪党が警備隊を守るのかよ。もうやめてくれぇ。俺の、若者の理想を壊さないでくれよーー。全く、貴方たちにはガッカリしました。あはははは......」

 テロリストの青年は言葉の割にはとても明るく、むしろ笑って言った。

 ハイジャック犯は次の一手を考えながら拳銃の照準を青年の左足に合わせる。

 左足を狙われていると気付いた青年はバッ、と足を高く上げて、かわそうとした。

 そうなることを読んでいたハイジャック犯は左足は撃たず、すくさまスイッチを持っている右手の筋を撃った。


 ーーーーバン!!


「がぁっ!」

 青年は右手の握力を失い、スイッチを手放す。

「くそっ、痛ってぇ......」

 青年はハイジャック犯をにらみ、左手のナイフを強く握ると、勢いよくハイジャック犯の腹部めがけて突いてくる。

 ハイジャック犯はそれを見切り、手首を裏から掴んで相手の左後に返しナイフを取り上げる。

 掴んだ手はそのまま強くひねり、関節技で青年を押さえ込む。

「......」

「なっ、何が起きたんだ?! くっ、くそっ、離せ!」

 青年はじたばたと抵抗するが逃げられない。

 ハイジャック犯は左手にナイフを持ち直し、右手で青年を仰向けに返す。

「おい、やめろ! うっ! ......っ」

 ハイジャック犯が右手で暴れる青年の顎を叩くと、青年はすぅーっと静かになった。

 ハイジャック犯は仰向けの青年の上に馬乗りになり、上着を脱がし上裸にする。

「大丈夫だ、徹夜とはいえあれだけ爆弾の改造に時間をかけて悩んだ。爆弾の構造は分かってる」

 衣服の下には青年の素肌しかなく爆弾らしき物は、見当たらない。

 ハイジャック犯は青年の腹部に辺りを付け、迷わず青年の肌にナイフを当て、深く切る。

 中には中型の四角い箱があり、導線が腸と繋がっていた。

(むご)いことを......」

 ハイジャック犯が使おうとしていた爆弾は腰に火薬を巻くタイプを改造して爆発しないようにしたもので、これは腰に巻く火薬を大腸、小腸に詰めているようだ。

 しかし使っているスイッチと起爆用の基盤は同じだ。

 ハイジャック犯は起爆しないようにそっと箱を開ける。

 中には色とりどりの導線があり、奥の基盤を見えにくくしている。

 目を凝らして奥を見ると使われている基盤は同じだが、導線の配色が違う。

「でも、やらなきゃ、死ぬだけだ」

 ハイジャック犯は昨晩中かけてやった爆弾処理をこの数分でもう一度始めからやろうとする。

 構造は同じとはいえ導線の色が違うだけで全く違うものに見えた。

「......この黄色が緑と一緒で、黄色と赤は、ここの水色と白色......ここと、ここ」

 導線の位置と成功した記憶にある導線を交互に見ながら導線を切っていく。

 今だかつて無いほどの集中をハイジャック犯は経験していた。

「.......次はここを、あっ!!」

 一瞬の気の緩みで切ろうとしていた白い導線と一緒に、緑の導線も切れてしまった。

「.......」

 ハイジャック犯は息を飲む。飲めるということはまだ死んではいない。

「あれ? 間違えたのに爆発しない......」

 その瞬間ハイジャック犯は気が付いた。

 まずいことになった。アレンジが加えられている!

 ここからはもう以前の記憶は役に立たない。

「ここからは本当に基盤の構造を理解しなくちゃいけない。クソォ!」

 ハイジャック犯は今まで繋がっていた導線と切った順番を思い返しながら基盤の構造を理解していく。


 そのとき、警備隊の一人が操縦室の扉を開けて客室の様子を見にきた。

 そこに倒れるテロリストを見て涙が込み上げてきた。

「爆発してない......。やった!! 助かったんだあああ!」

「うるさい!! 邪魔だ!!!」

 喜ぶ警備員をハイジャック犯は叫んで黙らせる。

「ひぃ」

 警備員はテロリストの前で伏せているハイジャック犯に違和感を持ち、回り込んで、手元を覗く。

「っ!」

「お前ら邪魔だから全員連れて外へ出ろ」

「しかし、」

「そっちの方が、()()助かる。後で逃げれるしな。はは......」

 警備員はハイジャック犯の集中する顔見て悟った。

「......分かった。今は、お前を捕まえるのは諦めよう」

 警備員は操縦室に戻り全員を連れて出ていった。警備員は声には出さず「次は覚悟しろよ」と笑った。


 ハイジャック犯は一人になった。

 知らない相手に冗談が言えるくらいにはまだ余裕があるのか......。

 爆弾の導線は残り2本。

「さぁ、どっちだ......」

 赤か、青か......。

「......」

 考えるが全く分からない。

「もっと、もっと集中しろ......」

 ラスト三っ目を切ったとたん、残り二つの構造が分からなくなった。

 というのも起爆には使われている仕組みなのだが今まで切ってきた導線とは流れが違うため、どちらを先に切ればいいか分からなくなった。まさかここにきて運任せになってしまうとは。

 ハイジャック犯はナイフ側にあった青い導線にナイフ当てる。

「あれ? 本当に運か?」

 ハイジャック犯はもう一度考え直す。

 この爆弾を解除したとき、作者のアレンジに気がついたとき、導線が残り二本になったとき......。

 嗚呼、この爆弾には悪意(いし)があるな。

 ハイジャック犯は迷わず二本同時に切った。

「......ふぅ」

 爆発しなかった喜びとフワッとした実感のない達成感でハイジャック犯は倒れ込む。

 赤と青を選ぶという究極の二択をしたあとそのどちらもが不正解とか、この爆弾の作者はどうかしてる。

「終わったのか?」

 みんなを連れていった警備員が一人戻ってきた。

「......なんだ、戻ってきたのかよ」

 仰向けになりなからもハイジャック犯は両手を差し出す。

「ほら、捕まえたきゃ捕まえろ、俺はもうヘトヘトで動けねぇ」

「いや、約束通りお前は捕まえない」

「......律儀なヤツだなぁ。後悔しても知らないぞ」

 そう言ってハイジャック犯は差し出した両手を引っ込め、立ち上がる。

「よっこいしょっと......、じゃあな」

 ハイジャック犯は外に出るため出口へ向かう。

「ふぁーーっ」

 あー、今度からはちゃんと寝て、ちゃんとハイジャックしよう。


ハイジャック犯が目出し帽と拳銃をもったまま搭乗出来たのはテロリストの仲間がスパイとして検査官の中にいたからです。

まぁ、リアリティーを求めるなら、テロリストの計画を邪魔されたくないから排除するとは思うけど......。

ギャグだから許して(・ε・ )

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