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ポール・マッカートニー『The Boys of Dungeon Lane』(2026年)

●いまなお第一線


御年83歳(!)、言わずと知れたビートルズの元メンバー"ポール・マッカートニー"の新譜『The Boys of Dungeon Lane』(邦題:ダンジョン・レインの少年たち)をレビューします。


【収録曲】

1. As You Lie There(アズ・ユー・ライ・ゼア)

2. Lost Horizon(ロスト・ホライズン)

3. Days We Left Behind(デイズ・ウィ・レフト・ビハインド)

4. Ripples in a Pond(リップルズ・イン・ア・ポンド)

5. Mountain Top(マウンテン・トップ)

6. Down South(ダウン・サウス)

7. We Two(ウィ・トゥー)

8. Come Inside(カム・インサイド)

9. Never Know(ネヴァー・ノウ)

10. Home To Us(ホーム・トゥ・アス)

11. Life Can Be Hard(ライフ・キャン・ビー・ハード)

12. First Star of the Night(ファースト・スター・オブ・ザ・ナイト)

13. Salesman Saint(セールスマン・セイント)

14. Momma Gets By(ママ・ゲッツ・バイ)


もちろん例外もあるが、最近リアルタイムの洋楽ロックはおおむねつまらない。こう言うと大上段で角がたつかもしれない。老害とまで言われるもしれない。だが、僕の偽らざる実感である。海外で大流行しているトラップを含めたヒップホップや、巨大なホールを鉄板で踊らせるEDMへと、創造性/将来性あふれる音楽人材が奪われたのも理由の一つだろう。今や、ギター、ベース、ドラムという古典的な楽器がなくても、打ち込みの機材さえあれば音楽を作り、発表し、人気を得れる時代なのである。しかし、トラップもEDMも僕はハマれなかった。


初めて聴く洋楽曲でも、2010年代以降にリリースされた曲の大半よりも60年代〜00年代の曲の方が良く聴こえる。僕がよく聴いている2つのラジオ番組であるスピッツ草野正宗さんの『ロック大陸漫遊記』(毎週の生きる楽しみ)と、山下達郎の『サンデーソングブック』(達郎さんの少し意地悪な話しぶりが魅力的)ではオールディーズや時代的に今よりも少し前の曲がかかるが、初聴でも心地良く音楽にのれる僕がいる。


そんな僕にとって、ビートルズは大興奮な大好物である。音楽としても、表現としても、まったく古びていない。むしろ、今の耳で聴いても新しい。ロックを芸術にまで進化(深化)させたのは、彼らの功績に寄るところが大きい。こんな話をしていたら、若者たちはブラウザを閉じてしまうかもしれない(この言い方も古い)が、そんな若者たちにこそビートルズを聴いてほしい。芸術とはタイムレス(時代を超越している)なのだから。


ビートルズの音楽は、レコードだとしたらすり切れるほど聴いた。ポールとジョンでは、生き様的にはジョンの方が好きなのだが、曲単位だと好きなのはポール曲の方が数的に多いかもしれない。(この2人による曲はどれもレノン=マッカートニー名義だが、リードボーカルを歌っているのがどちらかによって、ジョン・レノンとポール・マッカートニーのどちらが主導して曲を作ったのか分かります。)


と、ここでビートルズのポール主導曲マイベスト10を作ってみた。3位から1位までカウントダウンしたあとに、10位から1位までのリストを掲載しよう。


♣︎ビートルズのポール曲マイベスト3♣︎

【3位】マジカル・ミステリー・ツアー

マイベスト上位にする方は少ないと思うけど、程よくサイケでメロディもサウンドも豪快な僕好みの名曲なので紹介します。「テレビCMみたいに派手にしよう」とはポールの目論見だが、様になっている。


♣︎ビートルズのポール曲マイベスト3♣︎

【2位】Let It Be

「イエスタデイ」と同じく、夢を元にしてできた曲(音楽の神様のお告げ?)。哀愁と諦念を伴いつつ、なるようになるさと楽観的に歌う信念が美しい。鍵盤の麗しい響きと極上(完璧)のメロディを歌唱するポールに心洗われる。


♣︎ビートルズのポール曲マイベスト3♣︎

【1位】イエスタデイ

ポールによるビートルズ初のソロナンバー。趣深いストリングス四重奏のアレンジはジョージの提案。この後ろ髪を引かれる想い…。タイトルからして哀しい…。描かれる光景が演者とリスナーを深く結びつける好例だ。


★ビートルズのポール曲マイベスト10★

1.イエスタデイ

2.Let It Be

3.マジカル・ミステリー・ツアー

4.ヘイ・ジュード

5.ブラックバード

6.ハロー・グッドバイ

7.Here, There and Everywhere

8.ペニーレイン

9.Eleanor Rigby

10.ヘルタースケルター


歌詞の言葉が過不足なく届く(≒想いがたしかに伝わる)のは、名曲の証の一つだけど、これら10曲はそんな名曲ばかりだ。初期の曲がごっそり抜け落ちてしまったが、好みなのでしょうがない。上記マイベスト10だと、一番古い曲でも、『Help!』(1965年)収録の「イエスタデイ」だ。同じアルバム収録の「夢の人」を入れるかは迷った。



ここで、ビートルズ後のポールの歩みをざっと振り返っていこう。


ビートルズ解散後、ポールは全楽器を1人で演奏した手作り感の強いソロデビューアルバム『McCartney(邦題:ポール・マッカートニー)』を1970年に発表。


時系列が前後するが、ポールは1967年、写真家だったリンダ・ルイーズ・イーストマンとナイトクラブで運命的な出会いをし、1969年に結婚する。ジョンにとってのヨーコのように、ポールの歴史を語る上でリンダの存在は欠かせない。そのリンダが共作者としてクレジットされている『RAM』を1971年にリリース。


同じ年の1971年、マッカートニー夫妻、元ムーディー・ブルースのデニー・レイン、デニー・シーウェルの4人でウイングスを結成。リンダが3人目の娘を産み、天使という言葉から連想して「ウイングス」(翼)というバンド名をポールが思いついたのが名の由来だ。結成理由については、無名の新人バンドとしてビートルズのプレッシャーから離れ、あくまでバンドの一員として活動したいからだったとされる。同年、ウイングス名義でアルバム『ウイングス・ワイルド・ライフ』を発売。


1973年発表の「007 死ぬのは奴らだ (Live and Let Die)」は、言わずと知れた同名映画の主題歌。ほかのポール作品には馴染みがなくとも、この曲だけは知っているという人は多いだろう。後年、スティーヴィー・ワンダーとの共演で生まれた「Ebony and Ivory」と並び、ポールの代表曲として広く浸透している一曲ではないだろうか。同年の暮れに傑作とされるアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』をリリース。1977年にはシングル「夢の旅人」が大ヒット。ビートルズ「シー・ラブズ・ユー」による国内売上記録を塗り替える。このあたりが、ウイングスの全盛期だろう。


1980年に起きた2つの出来事は、彼にとっては悪夢だったに違いない。1つ目は、ウイングスとしてツアーで日本に来た時に空港の手荷物検査で大麻が見つかり、9日間勾留し、日本公演が中止になったこと。これに関連して、熱狂的ファンの29歳男性がポールを救出するため、マイアミ空港から東京に行く便を偽物の銃でハイジャックしようとして射殺されたという惨事も起きている。2つ目はジョンが狂信的ファンに自宅前で射殺されたこと。これはポールにとってかなりショッキングな出来事だったようだ。


1998年にはリンダが乳がんで亡くなり、最愛の人を失う。しかし、これらの困難を乗り越えてポールは進んでいく。00年代以降にもグラミー賞を複数回受賞していたり、2020年にはリリースしたアルバムがソロ名義では31年ぶりに全英アルバムチャートで第一位を獲得していたり、現在も第一線で活動しているのがすごい。彼は持ち前の楽観性により困難に打ち克つ音楽を作り続け、今もなお多くのリスナーたちを勇気づけている。


僕はというと、ビートルズ後のポールについては熱心なリスナーではなかった。「Jet」「Band On The Run」「My Love」など、胸のすく名曲や沁みる名歌もあるが、ビートルズほど夢中になれなかった。



そんな僕だが、この新作の感想を以下に書いていこう。


リード曲の#3「Days We Left Behind」。イントロのアコギの優しく深い響きと、そこからの年輪を重ねた歌声。侘びた風情もあるが、音楽は枯れていない。そして、創作への意欲も枯れていない。深呼吸を促すような、彼の中で熟成されて完成された穏やかなまどろみの音楽にいつまでも浸っていたい。




同じくリード曲の#10「Home To Us」。リンゴ・スターがドラムとボーカルを担当。この歌心のあるスネアの響きや、衰えを見せない渋い美声のボーカルは、ビートルズを普段から聴いている僕にとっても心のふるさと(ホーム)だなという感傷に浸らせる。(4月下旬にリンゴもカントリー音楽の新譜『ロング・ロング・ロード』をリリースしているので、気になる方は聴いてほしい。)


事前にこの2曲を聴き、良盤になる予感がしていた。その予感は当たっていた。


開幕の#1「As You Lie There」からしてパンチが効いている。冒頭の語りと歌を聴いて穏やかな歌ものなのかなと思っていると、その後ギターが暴れだし、シャウトし始めてギアを上げるサプライズ。クイーンの曲のようなプログレ的な展開が面白い、アイデアと滋味に富んだ楽曲だ。


その後も歌ものの旨みの要諦を知りつくしているからこその素晴らしい歌が続く。王道で聴き入る箇所も、邪道っぽい飛び道具の箇所もあるし、ポップで包んだ逡巡だったりストレートでアッパーなロックソングだったり、表現にメリハリがついていて飽きさせない。


本作にはこのようにバラエティ豊かな楽曲が詰まっているが、自分を振り返る内省的な表現が本作の核となって貫かれている。タイトルに「少年」とあるようにポールは自身の少年時代を歌っているのだ。「ダンジョン・レイン」とは、ポールが少年時代を過ごしていた街リヴァプールにある道路名だ。


また、適度に老いた歌声の音色は、地声の場合、一周回ってフランツ・フェルディナントみたいにしゃがれ気味に聴こえてカッコいい。地声ではないミックスボイス(地声とファルセットの間の歌声)のときも、歌声が聴覚のスイートスポットを甘やかに刺激して楽しい。


しかし、虚心坦懐に聴かせていただいたが、心を鷲掴みするようなロック性も、心弾ませるポップ性も、過去の彼ほど豊かには感じられない。それは、上記したビートルズのポール曲マイベスト10に迫るほどの名曲が解散後のポールの作品にはないことからも一目瞭然だ。


また、ビートルズ解散後、メンバーそれぞれが違う道を歩んだが、ビートルズ作品に勝るアルバムは無いと思っている。(アルバム単位ではなく曲単位でいったら、ジョン・レノンの一部の曲の切実さはビートルズ曲を超えてくるものもあるけど。)奇跡という言葉を安易に使いたくはないけど、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの才能と熱意あふれるメンバー4人がバンドを組み、名曲を作り続けた10年間は奇跡なのではないかと思う。


結論に入ろう。そう、過去の曲のように有無を言わさずリスナーを無我夢中にさせるというよりも、今の彼の曲を楽しむには井戸から恵みの水をくみ取ろうとする傾聴の姿勢が必要だ。だが、本作には脈々と彼に息づいているミュージシャンシップを感じる。人生100年時代、円熟の境地を感じさせる今の彼の音楽をこれからも聴かせてほしい。


Score 9.0/10.0

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