表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

HAIM『I quit』(2025年)

●ロックバンドと名曲のゆくえ


LA出身の3姉妹によるバンド「HAIM」が今年6月にリリースした新譜『I quit』のレビュー。


メンバー名と担当はエスティ・ハイム(ベース、ボーカル)、ダニエル・ハイム(リードボーカル、ギター)、アラナ・ハイム(ギター、キーボード、ボーカル)。


【収録曲】

1 Gone

2 All Over Me

3 Relationships

4 Down to Be Wrong

5 Take Me Back

6 Love You Right

7 The Farm

8 Lucky Stars

9 Million Years

10 Everybody's Trying to Figure Me Out

11 Try to Feel My Pain

12 Spinning

13 Cry

14 Blood on the Street

15 Now It's Time


最近、洋楽のレビューをしていない。直近だと、昨年11月にザ・キュアーのニューアルバムのレビューをしたのが最後。


洋楽の新譜や新進バンドをレビューしていないのは、自分の接する環境が洋楽をレコメンドしてこないという理由もあるだろう。ナタリーのアプリも活用しているが、ナタリーが取り上げているのは邦楽アーティストだけだ。邦楽新譜に加えて洋楽新譜についても扱っている音楽ウェブサイト『スクリーム(Skream!)』でも情報を確認しているが、それだけでは足りない。


昔は地元にTSUTAYAがあって、邦楽はもちろん、洋楽のCD棚も多くあったので邦洋問わず音楽を摂取できる環境にあった。(洋盤のアルバムとシングルは、ともに発売日から1年間レンタル禁止だったが。そして、何を隠そう、よーよーは駅前ツタヤさんでアルバイトをしていたのである。ツタヤでアルバイトしていると特典があり、自分が働いていた店舗では旧作が半額で借りれるのでコスパが良かった。)


地元のツタヤは潰れて今はないし(時代のせいだろう)、ナタリーは洋楽記事が無いし、自分とマッチングする洋楽サイト/ブログも無い。


すると、洋楽への視野が自然と狭くなる。これでは良くない。洋楽にもアンテナは伸ばしておきたい。そして、普段洋楽に触れることのない一部の『とかげ日記』(このブログです)読者と洋楽との架け橋になりたいと、おこがましくも思っている。


そこで、ネットでも紙媒体でも評判の良いハイム(HAIM)の新譜をレビューすることにした。彼女たちは過去にグラミー賞に何回かノミネートされている。また、本作『I quit』は音楽雑誌『MUSICA』のDisc of the Monthに選ばれている。売れていて評論家筋もうならせる、素人も玄人もそれくらいまで評価するのなら、自分にハマるフックも見つけやすいはず。



唐突だが、よく分からないが高評価の現代詩を読むよりも、中原中也のアウトテイク(『山羊の歌』『在りし日の歌』に入らなかった詩)を読んだ方がよい。また、よく分からないが高評価の洋楽を聴くよりもビートルズのアウトテイクを聴いた方がよい。それは、優劣や権威には関係なく、より学びや高揚を得られるという理由から。


一聴してみて、HAIMも「よく分からないが高評価の洋楽」だった。ジャンル/世代関係なく視界を開かせるようなブロックバスターな名曲があるとはとてもじゃないが思えなかった。HAIMを聴く時間があったら、同じくガールズバンドのバングルス「エターナル・フレーム」(邦題:胸いっぱいの愛)('89)を何回も聴いた方が良い。


まず、僕がロックに求めるラディカルな生々しさが感じられない。HAIMが王道ではなくオルタナティブのフィールドのバンドだとしても、RadioheadにはあるリアリティがHAIMには感じられないのだ。新進の洋楽だと、マネスキンやビリー・アイリッシュにはかろうじて感じられた。


かくも最近の洋楽にハマらない自分は、音楽界隈でオルタナティブというジャンル名が膾炙しはじめる90年代以前のロックが好きなのかもしれない。(60〜90年代は好きなバンドがもりたくさんなのだが、ゼロ年代も好きなバンドが多い。そして、10年代〜20年代はガクっと少なくなる。)


ロックにおけるオルタナティブというサブジャンルの台頭以降、歌と歌メロを聴かせるよりも、演奏自体で魅せたいというバンドが増えたという体感がある。その結果、歌と歌メロは以前ほど重視されなくなった。


僕のように、日本のリスナーでは90年代までの洋楽ロックが好きな方も多いはず。若い人でも90年代以前の洋楽ロックバンドが好きだという方も多いし、その頃のロックミュージックには世代を超えた魅力があったのではないか。それは、言ってしまえば、ロックを主張しつつ、歌と歌メロも優れた音楽の魅力なのだと思う。


邦楽と洋楽を区別することは無意味とおっしゃる方もいるだろう。しかし、邦楽と洋楽を分けることは、両者ともに音楽であるという一面で見たら的が外れているのかもしれないが、その傾向性は二者でだいぶ違うので分けることも意義があるだろう。UKロックは好きだけど、USロックは好きでない(またはその逆)という方も多いはず。やはり、出身地の国柄/土地柄はある程度音楽に影響するのである。(特に邦楽ロックやJ-POPはガラパゴス化が進んでいる。)


ジャンルの側面で考えると、ゼロ年代以降の世界グローバルでは、ロックよりもヒップホップの方が目立っていたからかな。音楽を志す人もヘヴィなリスナーもヒップホップにだいぶ流れていったのではないか。あと、K-POPを含めたガールズグループやボーイズグループの隆盛にも僕は乗り遅れている。


あと、この"年代"についての話は、邦楽ロックに関しては当てはまらない。僕は10年代以降の感性のオルタナティブな邦楽ロックバンドにも惹かれる。神聖かまってちゃんとの出会いは電撃的だった。僕が『とかげ日記』(このブログ)の前口上として掲げる「王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行」はこのバンドをもって果たされたと言ってよい。自分の狭い観測範囲だと、洋楽のバンドは進化をやめてしまったが、邦楽のバンドは依然、自由な進化と可能性の分岐を続けている感じがする。


現在進行形で洋楽を聴いてないよというボヤキ、そうなったのは環境が悪いのだという開き直りを冒頭で述べたが、そもそも最近の洋楽を意識的に聴いてみても、メロが死んでいるし、フックもない…という気がする。


いまの洋楽が聴かれないのは、クソだからだと言う方がいた。僕にとってもクソなのかもしれない。クソクソ言うのは下品だけど、端的で一番心情を表す言葉は「クソ」だ。でも、これらの音楽を賛美する人たちのことは肯定したい(別に彼/彼女らはよーよーなんかから肯定されたくもないだろうけど)。様々な嗜好のリスナーがいるからこそ、音楽は育まれ豊かになるのだ。



しかし、このHAIMのアルバムを聴き進めると、魅力的な曲もあることに気づく。#3「Relationships」はその筆頭だ。洒脱なミディアム・チューン(アップテンポとスローテンポの中間のテンポの曲)のダンスサウンドと、打ち込みのエレガントな質感はThe 1975と通じるものがある。この曲を聴き込むことで、ハイムの他の曲の聴きどころやフックもスルスルと分かるようになった。だから、僕が本作でまず未聴者にオススメするのはこの曲なのである。


#13「Cry」は、誘導部を終えたところで鳴らされ始める弦楽器の音色と鮮やかなビートがColdplay「Viva La Vida」を彷彿とさせた。なかなか良い曲だが(エラそうなよーよー)、音楽的な美意識や豊かさ、ヒューマンな意味性はColdplayの足元にも及ばないと思う。


#15「Now It's Time」。あっけらかんとした曲でアルバムが終わるのは面白かった。曲の中でガランと曲風が変わるのも表現的に面白い。邦訳すると「今こそ時だ」という曲名のとおり、『I quit(私はやめた)』の後、そこから次の新しい道が続いていく感じがする。そういった粋な意匠がリスナーや批評家からの賛辞を集めるのだろう。



分かる人にだけ分かるのを目指すのは、ポップミュージックの志向性とは違う。「良い」けれども「すごく良い」というのとは違う。だから、本作は自分にとっては7点台の音楽だった。


音楽史的にはHAIMは2010年代以降に人気を博したチルなロックソングを演奏するバンドのトップランナーの一つといえるだろう。それ以上でも以下でもないと思う。チルよりもカオス(chaos:混沌)やジール(zeal:熱意)が好きな僕にとって(だからこそ"神聖かまってちゃん"や"うみのて"が好きなのだ)、あまりフックのない音楽だった。


老害なのかもしれない。だが、アラフォーの僕が最近の洋楽について書き留めたことが、誰かの役に立つかもしれない。好きなバンドについて語るネット記事は多いけど、そこまで好きなバンドではないけど語るネット記事は多くない気がするから。僕がハマれない音楽が誰かにとっての心の活力になってほしいとも思う。そういう気持ちでアップします。


最近の洋楽といえば、ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)の新譜も気になっている。機会があれば取り上げてみたい。


Score 7.5/10.0

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊道よーよーの運営する音楽ブログ『とかげ日記』です。
音楽を通じて深く何かを考えてみませんか? 洋楽のみではなく、邦楽のレビューも豊富です。さあ、一緒に音楽の旅へ…。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ