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The Cure『Songs of A Lost World』(2024年)

●長尺美音に気持ちよく溺れて…


ザ・キュアーによる16年ぶりとなる14枚目のアルバム『Songs of A Lost World』のレビュー。


【収録曲】

1. "Alone" 6:48

2. "And Nothing Is Forever" 6:53

3. "A Fragile Thing" 4:43

4. "Warsong" 4:17

5. "Drone:Nodrone" 4:45

6. "I Can Never Say Goodbye" 6:03

7. "All I Ever Am" 5:21

8. "Endsong" 10:23

Total length: 49:13


地元の書店で『ロッキング・オン』をパラ読みしていたら、The Cure "One Hundred Years"(邦題:「血ぬられた100年」)の英詞と訳詞が掲載されたページがあった。


これ、獄中でヒリヒリするように熱く、黒々として分厚い"文学"じゃんと思った僕は彼らの音楽を聴いてみることに。


これまで彼らの曲でよく聴いていたのは、代表曲の一つ「Friday I'm In Love」(1992年)。この曲は、キャッチーであり、アートであり、僕にとってロッククラシックの名曲。こんなふうに世界を捉えられれば幸せだろうなと思わせる楽観性が輝く。


「Just Like Heaven」(1987年)もいいね! ポストパンクのような性急なビートを背景として、天国のように晴れ渡ったソングライティングとポップなギターの邂逅が成功している。



そして、それら以外の曲を聴いてみると、今まで代表曲数曲しか知らなかったけど、これは素晴らしい! こんなに自分にフィットした音楽を作っているとは思わなかった。


ところで、「捨て曲なし」という言葉は、リスナー個人の趣味志向が反映されるものだけど、よーよー的にはThe Cureというバンドの曲は総じて「捨て曲なし」です。本物だから本物の曲しか作らないのだ。


それ以降、The Cureにハマっている。去年はローリングストーンズ、今年前半はイエモンにハマって、いまはザ・キュアーに夢中。


音楽ジャンルがバラバラじゃないかと言う方もいそうだけど、よーよー的にはバラバラだからこそ楽しいのだ。


こういった古今東西のロックに触れれば、60年代から現在までの(そして未来へ通じていく)様々な知見を得ることができる。『進撃の巨人』で「道」という概念が出てくるが、自分にとっての「道」はロックなのだ。(そうすると、「座標」とはサブスクリプションサービスになるだろうか。)


とりあえず、アップルミュージックが必聴とする3枚のアルバムをまず聴いた。『Pornography』(1982年)、『The Head On The Door 』(1985年) 、『Disintegration』(1989年)の3枚である。


『The Head On The Door』(1985年)が聴いていて一番楽しかったな。他の2枚よりもポップだ。ポップとは明るさとカラフルさのことだったのである。このアルバムに収録された一曲目「In Between Days」は、このレビューの冒頭で取り上げた名曲「Friday I'm In Love」のひな形ではないかと思えるほどキャッチー。


『Pornography』と『Disintegration』のダークなゴスっ気はザ・キュアーのオリジナリティだが、それだけでは、黒と白のモノトーンの曲のようで、曲ごとの色彩の違いが見えにくい。一方、『The Head On The Door』のポップなサウンドは、その違いがカラフルで見えやすい。曲の視界が開け、解像度が上がった感じがするのだ。


その後、前述した「Friday I'm In Love」が収録されている『Wish』(1992年)も聴いてみたけど、ダーク&ゴスの時期よりもポップだね。そして、何よりもドラマチック。このドラマの質は、上質さと耽美快楽的な要素を両立した無二のものだ。


音楽性の話に移るが、直線的なビートの中で奏でるロマンティシズムのサウンドはジョイ・ディビジョンからの影響を受けていて、男性的なマッチョイズムとは真逆なサウンドを志向するのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドと通じるだろう。内面を掘り下げていった結果、狂気すら感じる内省的なサウンドは、ピンク・フロイドを思わせる。


そうやって影響を受けたThe Cureの音楽は後の世代のアーティストにも影響を与えている。僕が一時期好きだったザ・ホラーズや、Interpolはその筆頭だろう。邦楽への影響も多大だ。ラルクアンシエルを始めとしたヴィジュアル系や、ブランキー・ジェット・シティーの浅井健一さん、スピッツや(「群青」はモロに「Friday I'm In Love」からの影響)、BUCK-TICKなど枚挙にいとまがない。


様々な分岐を経てThe Cureが生まれ、そこからさらに分岐が広がっていくつものミュージシャンに影響を与えた。音楽は過去から未来へと継がれていくバトンなのだ。影響を受けた/与えた アーティストについて話が尽きないのは、それだけ音楽が可能性的に豊かであるということ。



そして、新譜の本作『Songsof A Lost World』である。


本作もダーク&ゴスの作品より聴きやすかった。ゲームミュージックにできそうなくらい、この作品もドラマチックだね!


一曲目を飾る「Alone」。一曲の半分以上を占める3分半弱の長尺のイントロからしてザ・キュアー印だ。歌詞がない箇所でも意味性と必要性が真に迫っており、3分半は苦にならない。焦らされた末に宇宙と繋がるような、心に触れる孤独な愛がここにある。


その他の曲も素晴らしい。音楽性は昔とそれほど変わらないのに、今の時代でも意味を持てるような普遍的なサウンド。そして、ロバート・スミスの歌いぶりが全く色あせていない。これは、16年待っていたファンにも待った甲斐があったのではないか。


前回レビューしたコールドプレイの音楽は社会の中にいる個人に働きかけるが、ザ・キュアーの音楽は失われた世界(Lost World)の状況下で一人一人の実存に働きかける。僕やリスナーは秩序と狂気の狭間で沈澱する気持ちよさに溺れていくのだ。


Score 8.8/10.0

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遊道よーよーの運営する音楽ブログ『とかげ日記』です。
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